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第二十話:テリヤキバーガー食べたい

「本をー乗せてー」

日中、図書館に通う事が多くなった。

初めは水を泥棒する目的だったが、せっかくなのでと登録すると本を借りれるようになった。

ただ借りてしまっても雨で濡れても困るので時間つぶしに活用する。

手に持っていたのは日本の神様について。

その前は恋愛小説で、その前は自己啓発本だったが。

コンテンツはなんでも良い。漫画でもアニメでも小説でも音楽も、クリエイティブの分野ならば雑食である。

本を読み終わり、振り返ってみる。

日本の神様について。

(ふーむ)

今見た本の中身を目を瞑って思い馳せる。まず面白かった。知見が広がるのは嬉しい。

日本神話。八百万の神、神の道と書き神道しんとう

宗教を語る時には色々なテーマと角度がある。

旧約聖書では世界は神によって創造されたが、日本神話ではまず世界が在った。

造化三神。(ぞうかさんしん)世界の始まりとして三人の神が現れる。

天之御中主神あめのみなかぬしのかみと……あと二人はなんだったっけ?)

覚えるには繰り返し読まなければならない。

宗教の特徴をざっくりと言えば戒律と神の数を挙げる。

唯一神の進行であるユダヤ、キリスト、イスラム。

多神教であるヒンドゥー教。

一神教と多神教の側面を持つ仏教。

それぞれの宗教の持つ戒律はその土地や政治の統治のために使われたような見方があるが、その土地に適した戒律は正しいとも言える。

例えば食料の少ない地域では贅沢は悪になり、治安が悪い地域は道徳を強く説く。

水や食料の少ないイスラム教は砂漠を中心とした乾燥地帯で多くの信仰を得る。

反芻動物はんすうどうぶつではない豚は人間と同じ食料がブッキングするため不浄な動物として扱われ、水を欲しがる酒は戒律により禁止されている。

キリスト教はと言えば異なる民族同士の衝突を抑え共存する理念に適したものだと言える。

反面、食料やアルコールなどの戒律が緩く感じるのは布教地域が地中海に多い。つまり豊富な食料資源がある場所で栄えた宗派だというのも伺えるだろう。

理。

それは道徳に沿った道理や絶対的な真理ではなく地理による効率的な管理なのだろうと伺える。

(ふーーーむ)

では神道はというと、これは特殊と言われている様子が他の宗教と比べればよくわかる。

優劣ではなく、おかしい。

決定的な要素として戒律がない事だ。

戒律。

つまり、これをしろ! これをするな! といった教えがないのだ。

それでいて指導者に該当する人物もいない。

じゃあもう宗教じゃないじゃんと思うが、あるのが儀式と神話だ。

(おもしろいなあ)

物凄く雑な言い方をすれば「神話読んだらてめーで勝手に考えろ」っていう乱暴な解釈にも受け止められる。

もちろん、そう受け止めるかどうかもボクの考えの一つ。明確な経典や戒律はないのだから。

答えがない。

その中で最善を求め続ける。

もちろん最善を求めない選択肢もあるが、いかんせん人は今よりもより良い方向に惹かれて行くものだ。

――良くも悪くも。

芸術の世界にも通ずるものを感じる。

「良い時間だったね」

学びの時間を増やすのも良いかもしれない。

本を読み終えた事で色助は己の未熟さをより痛感出来たと幸せに感じた。


川原に帰るといつもの定位置に腰掛ける。

傾斜の坂から河を眺めていたがふと小鳥が視界に入った。

「おお……」

思わず声が漏れた。

雀のような小鳥が電線にブレーキをかけるように己の翼を身体いっぱいに広げて着陸する。

するとまるで打ち合わせをしていたかのようにもう一羽。さらに離れたところにもう一羽と続き合計三羽。

会話をするようにピーピー鳴くと、右に左に周囲を伺う小さな守護者。

しばらくすると一匹の小鳥が落下した。

それはまるで飛び込みプールのジャンブ台から放たれるような、無駄のない鋭い下降に美しさを覚える。

我々人類は目的を追求する行為や機能を美と感じる傾向がある。

速度に特化したF1マシン。重心の低さや風の抵抗を考慮して作られた鋭利なモデルは洗練された技術の詰め込みの果てに得た効率さを美と覚える。

男の子は誰もが皆憧れる日本刀は言うまでもなく、どんな場所でも縦横無尽に踏み潰す洗車のキャタピラさえも、人殺しの効率化さえも美を感じてしまう。

スポーツも同様だ。正しいフォームで走る陸上選手は美しく、バスケットのシュートもプロが行う相手をかわす重心を利き手と反対の足に乗せるフォームも美しい。

落下した小鳥は上がってこない。

当然小鳥が自殺したのではなく、銃で撃たれたわけではない。

下に餌が居たのだ。

もちろん何が餌かなんて見えない。草むらで茂っているそこに一直線に落ちたのだ。

遮断されて見えない先に、確かに餌を確保した様子が見えた。

「ふむ」

美しい。

目的地にまで羽ばたいた後に翼を広げブレーキをかけて降り立つ小鳥はまさにボクらの想像するよく見る鳥の姿だ。

ここまでは鳥さん可愛いで話は終わる。

しかしそれよりも無駄な動きを極限まで取り除いて落下する姿に美を覚えた。

それからしばらくすると先ほどと同じ導線に鳥達が戻って来た。先ほどと同じ個体だろうか?

「何をしている?」

おや、と思い声の方向に視線を投げると、そこにはよく知った顔があった。

「やあ。奇遇だね。鳥を見ていたんだ」

「……」

永らくメイド姿であったため少し気付きに遅れたが、声をかけてきたのは久慈家のメイド長である熊谷切子だった。

何か言葉を探した切子だが、結局見つからずため息を吐いた。

体型がわかりにくいセーターを着用しているにも関わらず自己主張の強いおっぱいに色助は頷いた。

(人が本能的に惹かれるのは美とおっぱい……なるほど。やはり眼福なり)

「ハンバーガー買ってくる。食べるか?」

「ありがとう。キリリンビールとブルーチーズはあるかな?」

「プッ……なんだそれは。こんな惨めな生活に落ち込んでると思いきや、相変わらずか」

「そんなことはないよ。切子さんに会えない毎日はまるで灰色の世界のようだ」

「そのまま灰色でいろ」

これは手厳しい。しかしツンデレはツンが長い方がデレの愉しみも増えるというものだ。

少し離れた隣に腰を降ろした。

二人で草の上に座り電柱に乗る鳥を眺めた。

「テリヤキバーガーにするか」

「キミは風情がないなあ……」

「ダメ人間が偉そうに言うようになったな」

これは耳が痛い。

二人で小鳥を眺めていた。

しばらくして鳥が飛び立つと、切子が口を開く。

「これから先、どうするんですか?」

「先?」

意識の外にあった言葉を投げかけられた。

ふむ、と考えるが何も思い浮かばない。

「キリリンビールとブルーチーズが欲しい」

切子はゆっくりと目を閉じると、今の色助の言葉を脳に送った。

「本当に変わらずですか。呆れた……」

どうやら望んだ答えを吐き出すのには不正解らしい。

「久慈は能力が全て。アナタもその末席ながらも掟は理解しているのですね」

久慈。

分家であるボクはある時期から本家の家で暮らす様になり、何不自由なく振る舞ってきた。

だがどうやら成果が出せず解雇らしい。

「あんまり理解していないかな。正直彼らが言う家庭内政治は理解が及ばないし興味もないんだ」

「負け惜しみですか?」

「ふーむ」

優劣か……難しい。

人が人の優劣を定める事に烏滸がましいと思う一方、それは自分が未熟だからだと感じる側面も確かに存在する。

「光一様は……」

「……?」

切子の言葉は続かなかった。歯切れの悪い切子を色助はあまり記憶になかった。

「光一君は良い子だよね」

「ええ。もちろんです」

自信は人を惹きつける。そういう意味で彼は多くの人から慕われるのは当然だろう。

「光一様は高校時代、生徒会とバスケットの部活動をやりきり、果ては学生起業を起こし今では年商一億円企業まで登りつめた」

「天才と言う言葉では片付けるな。あの御方がどれだけ努力を積み重ね全力で走り続けたきたか。一番近くで見てきた私は知っています」

「いずれは画廊様と並び、そして超え、久慈当主の座に収まるでしょう」

ああ、久しぶりだな――。

「……聞いてますか? なんですかニヤニヤして気持ち悪い」

「いや、切子さんの説教が懐かしてくてね。それに面白いんだ」

「だってボクの事を心配してくれてこんな所に足を運んでくれたんだ。それなのにボクの態度が生意気そうだと通常の判定をしたと思えばすぐに説教だなんて、やっぱり面白いよ」

「アナタが説教される理由ならいくらでも言えますよ」

おっと。

「それは常にボクから目を離せないほどの異性を感じて……」

「違います」

「……」

ふむ。ではでは、仕切り直そう

「反対に、ボクの良いところは何個言えるかな?」

「ありません」

「……」

「……」

「……」

そうか……。

ちょっと傷ついたな……。

「質問を返しますが、ご自身の魅力があるなら是非教えて頂きたい」

「教えてあげよう。今夜ボクのベッドに来るんだ」

「ぐわあああああああああ!」

情け容赦ない右フックに懐かしさを覚えたが、結局その後ハンバーガーをご馳走してくれる激アマ切子さんだった。

毎週火曜日・金曜日・日曜日に投稿します。

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