道路族
夜、部屋でくつろいでいると、外からけたたましい笑い声と嬌声が響いてきた。気になって窓から外を見ると……やはりだ。道路の真ん中で子供たちが駆け回り、大人たちは輪になって立ち話に興じている。彼らは、いわゆる“道路族”だ。
こちらに気づいた女たちが、私を一瞥し、くすくすと笑い合った。その目には、侮蔑の色が浮かんでいる。だが、ここで黙っていてはますますつけ上がるだけだ。私は意を決し、外に出た。
「あの、こんばんは……」
「はははは!」
「うふふふ」
「はははははははっ!」
「ははっ! ははは!」
「あの……」
「ははは、はあ? なに?」
彼女たちはすでに私の意図を察しているのだろう。その目には敵意すら宿っている。
「いや、楽しそうですね……」
「ええ、楽しいですけど?」
「はははははは!」
「賑やかで……」
「ええ、子供は元気が一番ですからね」
「何か言いたいことでもあるんですか?」
「仲間に入りたいんじゃないの? やだー!」
「はははは!」
「いや、その、夜ですし……少し控えめにしてもらえると助かるんですが……」
「はあ? 大きな声なんて出してませんけど!」
「そもそも、あなたに関係あるんですか?」
「いや、私はそこの家に住んでいますし、あまりうるさくされると、家の者に迷惑が――」
「うるさくなんかしてませんけど!?」
「いや、さっきからその声が響いてるんですけど……」
「だから、子供は元気に遊ぶのが仕事ですから、子供の声がうるさいとか的外れなことを言うのはやめてくれません?」
「いや、ですから、もう夜ですし、道路で子供を遊ばせるのは……それに、あなた方も少し静かにしてもらえると……」
「私たちは普通に話してただけです!」
「そもそも、あなた、子供いるの?」
「え、いや、いませんけど……」
「ふーん、男で、その歳で? あなた、おじさんでしょ?」
「家にいるんだあ。へー、家族にご飯を用意してもらって気楽でいいですね」
「いや、そんなことは……」
「私たちの苦労なんて、わからないでしょ?」
「子供もいないくせに、はあ……」
「男は好きなように生きられていいですね」
「確かに、子育ては大変だと思いますけど、でも……」
「あなたにはわからないでしょ」
「適当なこと言わないで」
「はあ、うちの旦那といい、男ってホント……」
「旦那さんのことを私に言われましても……あの、公園とか他の場所に行ってくれませんか?」
「はあ? もう、はあーあ!」
「これだから家おじは……」
「あのね、公園はルールが厳しくて子供が遊びにくいの。近くないし!」
「いや、でもここはやっぱり道路ですから、あ、あ、あ! ちょ、ちょっと、子供がうちの車を引っ掻いているじゃないですか! 注意してくださいよ!」
「何よ、ちょっと傷がついたくらいで大げさね」
「あ、あ、あ、ですって。ふふふ」
「注意してくださいよお! だって。自分で注意すればいいのにね。ナヨナヨして気持ち悪い」
「玉なしね」
「いや、そんなこと言って、私が子供に注意したら怒るでしょう……?」
「何よ! こっちをヒステリックみたいにさ!」
「自分の子供が不審者に話しかけられたら怒って当然でしょ!」
「もう、お願いですから、どこか他の場所に行ってくださいよ……。道路は通行する場所であって、遊び場じゃないんですよ。危ないですし……」
「うるさいわねえ……あなた、そこの家に住んでいるのよね」
「みんな、やっちゃおう!」
「あははは! 行くわよー!」
「あ、あ、車に唾つけないで! ああ、ネズミの死骸を置かないで! 敷地に入らないで! ああ、おしっこまで、やめてください!」
「あははは!」
「いひひひひひ!」
「はははははは!」
「うははははは!」
「あああぁぁぁ、もう、おかあさーん!」
『うるさいわよ! いい加減にしなさい! ほら、散って! 水をぶっかけるわよ!』
「やば!」
「いひひひ!」
「逃げろ!」
『まったくもう、最近増えたわねえ……あら、外に出ていたのね。もしかして、あれ、お友達だった? 違う? 家に入る?』
私はお母さんの足に擦り寄り、鳴いた。やっぱり、道路になんて出るもんじゃない。