181-185
181鷺
朝陽を浴びたガラス窓から
鷺の啼く声がする
外の世界は暗闇で
内の世界はぼんやり明るく
真ん中の世界はにじんでいる
王がへりくだり
臣下が横柄で
庶民は苦しみに耐えることしか知らず
天上の花は咲き誇り
地下の根は食べ尽くされ
川の畔で
鷺は啼く
届かぬ声は
川の流れに
流されていくなか
鷺は川の狭間に立ち
流れを堰き止めている
182黒い羽
小池に架かる橋
丸石の磨かれた照り返し
蓮の広がる水辺
母なる田んぼ
野原に安堵する
遠い海を写す一枚の写真
空は茜色に染まり
幸せの描く双曲線
桜の散った後に残る幼木
湧き出す水は清く
松の枝は二つに割れて宙を漂い
大和の国を偲ぶ古道をゆく
林に吹く風のように人の心は流れ
輝石の周りに樹木が点在する
宮司は天意を喜び
鳥居のカラスは羽ばたき
聖なる黒い羽を落とす
183鞠
楽しい鞠を投げ
放物線は幸せを運ぶ
届かぬ手のひらをすり抜けて
地面を突き抜けて
堕ちる鞠を
蹴り上げる
死者
仏の眼の前まで
あがっては落ちていく
鞠を拾う
子どもたちは
夕べに帰る
184色絵の具
らっ今日
明日化
昨日不全
明後日に戻る過去を廻る歯車
一昨日に進む未来へのベルトコンベア
今を死ぬ現在の生きる術
時計の針先が描く
服についた色絵の具の染み
185トイレに行きたい
トイレに行きたい
我慢して詩を考える
トイレに行きたい
言葉を思い浮かべるのが先
トイレに行きたい
トイレは美しいか
美しくないか
それが問題な解答
正解と不正解が結婚する
婚姻届の証明は
トイレの芳香剤