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8話:騎兵


 その後、ミーハは同様の手法で2機のセィシゴを破壊した。

 粉末に変化するのにも慣れたもので、最初のような無様を晒すこともない。

 センサーユニットを打ち砕いて、それで終わりだ。




「これでクエストクリアね……」


 いつの間にかラウジンム荒野の中央付近まで歩いてしまっていたミーハは、物陰に隠れるようにしゃがみこんだ。

 3機のセィシゴを倒せというクエストを達成したため、少しの間休憩をとりたかったのだ。

 やはり数がいなければ余裕がある。

 彼女はそんな感想を抱いていた。


 衛星コロニーでは、大して広くない場所で数えるのも嫌になるほどのセィシゴに襲われた。あの時と比べれば、雲泥の差だ。

 精神的な負担も疲労もまるで違う。


(この後は……)


 選択肢は2つ。進むか退くか。


 このまま衛星基地の方へ向けて歩き続けるのを考えたミーハは、すぐにそれを取り止めた。

 大雑把な見当だけで荒野を行ったところで、どうせ辿り着けやしないだろう。そんな予感がしていた。


 となれば、戻ることとなる。

 であれば、帰り道で遭遇するだろうセィシゴも狩って追加の利益を狙いたい。

 今のままでは、クエストの報酬しか得られないのだ。

 これでは赤字である。

 弾薬も無料ではない。初期配布の分を使い切れば購入する必要が出てくる。そしてそれは、ミーハにとってそう遠くない未来の話だ。

 出費が増えることになる。

 ミーハには稼ぎが必要だった。




 ──帰ることに決めたミーハが、物陰から出ようとしたその時。

 瓦礫の向こうでけたたましい金属音が鳴り響いた。


 ミーハは慌てて身を低くして、辺りの様子を窺った。

 断続的な、何か金属同士の衝突する音。

 金属のねじ曲がる音。

 ひしゃげ、擦れ、歪む音。


(これは、……戦っている?)


 にしては、だいぶ一方的に聞こえる。

 先ほどから聞こえる音はどれも似通った響きであり、壊される側はずっと変わらないようであった。一方が破壊され続けているように聞こえるのだ。


 慎重に、バレないようにミーハは物陰の向こうを覗く。


 セィシゴだ。

 それと……。


(もう片方もセィシゴだ……)


 不思議なことにセィシゴ同士で争っていた。

 ミーハとの距離は30メートルもない。こんな近くまで接近を許したことに驚きながら、彼女はセィシゴたちを観察する。


 片方は見覚えのある形をしていた。

 ミーハが3機倒してきたものと同型だろう。

 紫紺の体に6本の脚を生やした虫に似た奴だ。


 初めて見るのはもう片方。

 パッと見た印象としてはケンタウロス、だろうか。

 四脚の下半身に人に似た上半身がついた個体であった。腕が無いのだが、その4本の脚で器用にセィシゴを蹴り壊している。



 そのセィシゴを見て、レア個体ではないかとミーハは考えた。

 まずビジュアルが異なること。それから同士討ちという特殊な行動。

 ゲーム内でのイレギュラーは何かしらの理由あってのものだ。または、その時点ではイレギュラーに見えても実際はそうでないか。

 とにかく、ミーハから見て明らかなイレギュラーであるケンタウロス型は、レアな個体であると考えるのが自然であった。


 軽々と同胞を蹴り壊す様を見るに、六脚よりもケンタウロスの方が格上だ。

 あれを倒すと何かあるのでは。ミーハの中に好奇心が沸き上がる。


 破壊された六脚が灰となった。

 これでケンタウロスの周りにある灰の山は5つ。それだけの数を屠っているというのに、ケンタウロス型には傷一つない。


(何か落とすかな……?)


 ここまでミーハの収穫は0だ。全くの無である。

 六脚のセィシゴを倒しても何も手に入らなかった。3体が3体ともだ。


 ゲームによって戦利品の獲得方法は異なるものだが、倒されると灰になる様子からドロップするとミーハは予想を立てていた。つまり、灰と一緒に何らかのアイテムが出てくるのではないか。そう思っていた。まるで出てこないが。

 そして、往々にして強敵、あるいはレアな個体の方がそうしたアイテムのドロップ確率は高いものである。逆に低いこともあるのだが、そうであった場合は周回作業が待つだけなのでミーハは考えないことにした。

 ちなみに、アイテムドロップの原理も棚上げだ。そうしたルールだと割りきってしまった方が楽だと、ミーハはこれまでにプレイしたゲームから学んでいた。



 ホルスターから【モレスス-68】を抜くと、ミーハはじりじりと移動を開始した。

 先ほどまでの戦闘の様子から考えるに、ケンタウロス型はミーハの隠れていた瓦礫に背を向けているようである。

 ミーハは、ケンタウロス型に気付かれないように足音を殺して接近していく。


 ファーストアタックは重要だ。

 現実でもそうだが、先制攻撃を決めた側が有利になるのはゲームでも変わらない。

 それは『Mechanical Microcosm』でもそうで、奇襲が成功すればセィシゴの反応が鈍くなるのだ。

 展開をうまく運べば完封勝利も狙うことが出来る。実際に、ミーハも六脚の1体を奇襲から倒していた。



 ミーハがそろそろと近づいていく。



 まだケンタウロス型に動きはない。さすがに5体を相手にしたのは消耗したのか。ミーハは勝機を見たように思った。


(……行ける!)


 残り10メートルを一気に駆けようとした時だ。



 ぐりん、とケンタウロス型の上半身が振り向いた。



「──はあ!?」


 ミーハの口から驚愕の叫びが飛び出した。

 敵の正面と背後が入れ替わる。

 そんな真似をされては奇襲など出来ようはずがない。


 ケンタウロス型は身を低く沈め、跳躍の構えをとる。

 驚きに足が止まったミーハは、その場でモレススを発砲。しかしケンタウロス型の装甲に弾丸は弾かれてしまう。


「くっ……」


 灰の山を吹き飛ばしながらケンタウロス型は跳び上がり、10メートルの距離を一気に無いものとしてきた。

 ミーハ目掛けて落下してくる金属塊は、その4本の脚を広げて攻撃範囲を増やすという嫌らしさすら見せてくる。一見、無防備に大地に叩きつけられるだけの動きだが、下が柔らかな砂地であれば話は別。何の不安もなく、大胆な動作が出来る。


 ミーハもそれは同じで、形振り構わずその場から飛び退いた。


 直後、衝撃とともに巻き上げられた砂が降り注ぐ。


「……うわっぷ!」


 口に入った砂を吐き出しながら、ミーハはさらに転がって距離を離そうとする。

 ズドン、ズドンと少し前にいた場所を何かが叩く。ケンタウロス型だ。その脚で踏み潰そうとしてきたのである。


「くそっ!」


 必死に逃げ続けていると、ようやくケンタウロス型は動きを止めた。

 素早く身体を起こし、ミーハはさらなる攻撃に備える。

 予想外の動きに面食らったものの、まだ被弾は無いことが彼女の戦意に薪をくべる。


 最初よりも近い、5メートルほどの間合いで両者は睨み合う。

 出方を伺う一瞬の静寂。


 再び跳躍の構えを見せたケンタウロスに、ミーハは一気に詰め寄った。

 離れていては彼女に攻撃の手段はない。超接近戦。どうにかそれを成立させねばならなかった。


 六脚は脚だけで3メートル近くあり、倒すにはまず姿勢を低くさせることが必要だった。

 ケンタウロス型は背丈こそ3メートルと六脚と同じくらいの大きさだが、それは上半身こみでの話。脚は2メートルほどで、ミーハなら腹部のコアに手が届く。


「近付けば……!」


 勝利を諦める必要は感じられなかった。






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