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54話:独断


 ペレリリス砲撃拠点を離脱したミーハたち。

 彼女らはロゾルへ向けてひた走る。


「で、どうするの~!?」


 拠点の放棄自体が独断であるため、ミーハたちに今後の指示は降りてきていない。

 バルサミ=ゴ酢がどのような意図を持っているのかは、ミーハに窺い知れないものであるがきっと碌なものでないことは想像がついている。故に、彼女は仲間たちを率いて拠点を飛び出したのだ。

 最低限の義理だけ果たし、ゴ酢の鼻を明かすために目標を切り替えたわけである。


(アタシらを捨て駒にしてくれたからな……)


 ミーハとて気付いている。ゴ酢の狙いを。

 彼は本気でミーハたちを切り捨てた訳ではない。砲撃拠点についてはミーハたちに任せたのである。

 だが、ぽんと任された側からすれば、それは些か無責任な所業だ。

 君たちが居れば大丈夫だろう、という楽観的な観測で放り出されたとなればたまったものではない。


 ……確かにあのまま防衛を続けることも出来た、かもしれない。しかしそれはあくまで可能性の話であり、なんとでも言えることだ。

 ミーハはそれをセリたちにまで波及させたことを許していない。


「このまま突撃する?」


 柚柚華の問いに、ミーハは否と答える。

 攻略部隊の集まっているところに突っ込んだとして、それではただの合流だ。

 戦力の補強にはなれども、ゴ酢の鼻を明かすにはまるで足りない。


「じゃあどうすんのー!?」


 ミーハに引っ張られるようにして走りながら、サラは叫ぶ。

 意外にも一番足が遅いのは彼女だ。運動音痴な訳ではないが、シンプルに動きの無駄が多い。いやそれが運動音痴なのか。

 ミーハはサラを半ば抱えるようにしてロゾル外周を走っていく。それを追ってセリと柚柚華も走る。


 ロゾル攻略部隊を後方に置き去り、ミーハたちはぐるっと回り込む動きだ。

 完全なる独断専行。上手くいかなかった時にどのような言い訳をしたものか。悩む己れにミーハは笑った。その時はその時だ。




 さて、何をもってロゾルの撃破とするのか。

 それはコアの破壊だろうと予測が出されている。イグナイター有志の情報収集と討議によるものだが、ミーハもこれに同意だった。


 ──ではどうやって、どこにあるかも分からないコアを破壊するのか。


 ロゾルは巨大だ。

 奴は蠢く工場そのままであり、縦にも横にも大きく聳えている。

 無策でコアを探し当てることが可能とは思えない。


 そこでミーハは考えた。

 最終出力地点から逆算しよう、と。


 ロゾルの星食みとは、つまり掘削だ。

 大地を穿つための刃が、奴の最下部に存在している。すべてのエネルギーはそこに集約されるはずであった。

 そうミーハは考えた。コアから送られるエネルギーの目的地から、スタート地点までさかのぼるのだ。


 彼女は今、大穴の底を目指している。

 ロゾルによって開けられた奈落は黒々とした深淵を覗かせていた。その中央には銀の柱が屹立している。

 あれこそが刃だ。星を食む牙である。

 どうにか取り付けないかと、縁を駆けながらミーハは真剣に観察をする。


 ロゾルは巨大な構造物故に、隙間も相応に多い。張り巡らされた配管やいくつも組合わさった何らかの機関、モーターらしき集合体に、大量の歯車。それらは剥き出しで、錆び付きながら力任せに動いている。

 膨大な物量に頼って、ロゾルは無理を押し通しているのだ。

 その間隙をミーハは利用する。



 ミーハが、はたと足を止める。

 視界を過った何かに気を取られた彼女に、セリが声をかける。


「あれ! あそこを見てください」


「へえ……」


「歯車が、外れてる……」


 ワイヤーに引っ掛かってぶら下がった歯車。

 セリは大きな変化に反応しただけだろうが、ミーハにしてみれば一番欲しかったものを教えてくれたことになる。

 彼女はサラを離して、セリの頭をわしわしとかき乱す。お手柄だよ。そう言いながら。


「ええ……。あそこに行くの……?」


 へたりこんだサラは奈落を見下ろして震える。

 落ちれば即死だろう。

 死に戻り自体を恐れている訳ではないが、高所からの落下は内臓がきゅっとなる感覚が独特だ。あの竦み上がる感触をサラは好ましく思っていない。


 セリが見つけた外れた歯車と、それによって生まれた隙間までは大穴の縁から十数メートルほど。

 そこまでは当然、奈落が広がっている。

 見通せない大穴は犠牲者を待ち構えている。


 ごくり、とサラは唾を飲んだ。

 四人のなかで一番高いところを苦手にしているのも彼女なのだ。

 わずかに震える指先でインベントリから鋼線を取り出し、サラはその束をミーハに渡した。

 サラの持つワイヤーショットの射程距離は十二メートル。向こうまでは届かないからだ。


 ミーハは受け取った鋼線を投槍に接続する。

 届かせる方法は人力だった。

 後端がリング状になっていて、ワイヤーが接続された投槍は、いくらか太めである。仕掛けが内蔵されているのだ。



 生物として人間の優位性は物の投擲にある、とまで言われるほどにヒトとは物を投げることに向いた生き物だ。

 数十どころか百メートルに届くほどの遠投をただのヒトが行えるのであるから、より強化されたゲーム内であれば更なる飛距離を望めるのが道理。

 そう考えれば、精々二十メートルに満たない距離など届かせられないはずがない。



 余計なものを多少付けられた程度では妨げとならず、投槍は奈落を軽々飛び越えてロゾルに突き刺さった。

 カシャン。刺さると同時に仕掛けが起動。返しが飛び出して、しっかりと固定される。

 これでもう投槍が抜けることはほぼ無い。


「コントロール良すぎ」


「もしかして槍投げの選手でした?」


「うわ、スゲー」


「まぐれよ、まぐれ」


 繋がった鋼線を引っ張り安定性を確かめながら、ミーハは誇らしげな顔をした。三人から向けられる視線が心地好かったのである。


 さて、ミーハが投げた槍が刺さった位置は、大穴の縁からいくらか下がったところになる。

 そこで彼女はワイヤーをピンと張り、投槍と反対の端を杭で地面に固定した。


「……マジ?」


「マジマジ」


 即席のスライダーが完成した。

 唖然とするサラに、ミーハは軽く肯定を返す。

 サラが欲しかった答えは確実にそれじゃない。


 ミーハは鋼線にフックをかけると、奈落に身を躍らせた。

 勢い良く滑り、いざロゾルへ突入である。







ご覧いただきありがとうございます。

評価、いいねをいただけると大変励みになりますので、どうぞよろしくお願いします。



もちろんバルサミ=ゴ酢ら本隊は別ルートで侵入しています。池、ですね。運営的には水がある=怪しさポイントなので、イグナイターの食い付きの悪さには頭を抱えています。一部が情報を秘匿しているのが原因なのですが……。仕方ないですね。



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