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53話:正解


 ──鎧袖一触。


 まさに双び立つ者の無い強さを見せる。

 群がるセィシゴどもはスクラップだ。


 駆け回り跳ね回り跳び回り、殺し回る。


 アイスピック状の細く鋭い短剣で、装甲を焼き切りバラバラに解体していく。

 ミーハには誰も追い付けなかった。

 彼女はただひたすらにガラクタの山を積み上げる。




 その様子を上から、砲撃の合間に見ていたセリはあることを思い出していた──。


 それは初めて会った時のこと。

 ミーハの動きはセリと全然違うものだった。

 遭遇したセィシゴだって、粗方を彼女が片付けた。セリとて手伝いはしたが、それも最初だけ。

 思い返せば、ミーハは独力で倒せていただろうと感じる。

 助けにはなったが、きっと必要ではなかった。


 ミーハが単独で強いというのは、あの時から変わっていないのである。


(あの時と比べれば……)


 人間と同程度のスペックである初期と、強化が施された今の機体では雲泥の差がある。

 加えて、襲ってくるセィシゴも見劣りした。足だけで数メートルあった戦車じみた奴らに対して、ミーハが今解体している雑魚どもは精々が軽トラックサイズである。見慣れた大きさであり、セリたちだってパーティであれば相手が出来る。



 恐ろしさが段違いだった。

 下で戦闘が繰り広げられていてもセリたちに焦りはない。ミーハが抑えてくれると確信しているのだから。

 彼女たちは安心して砲撃を継続した。

 その命中率は群を抜き、四本残っていた煙突の内二本を破壊し、三本目にも甚大なダメージを与える。




 ──彼女らの大活躍により『星食み"ロゾル"』の攻略戦は大きく動き出す。








 ◆








『君たちはロゾル攻略の要となる』


 バルサミ=ゴ酢にそう言われ、実際に用意された砲台を見て感じていた興奮はとうに消え失せていた。


 コルトスはその射撃の腕を見込まれて砲撃を任せられたイグナイターの一人である。

 砲撃手はコルトス含めて五人。

 その少なさは選ばれた者としての優越感に拍車をかけた。


 延びた鼻はどこまでも長く、パーティの面々にもうざがられるほど態度は悪くなった。

 そんな彼は、最初セリたちを見ても小馬鹿にしていた。舐めていた、と言っても良い。

 格好良く当てるところを見せれば、チヤホヤしてくれるに違いないと勝手に期待を抱いていた。



 そして始まった攻略戦。

 大勢集まった攻略部隊にコルトスは感心したが、それも優越感に浸るためのポーズだ。見下ろして悦に入ったわけである。




 ──ただ。




 彼の顔色が失われるのにはそれほどかからなかった。

 殺意を剥き出しにして襲いかかるセィシゴと真正面から迎え撃つ攻略部隊。

 それを眺めている時までは良かった。


 結局、コルトスらは部外者であるからだ。

 大規模戦闘の迫力に驚きつつも、まだ砲撃を行えるだけの余裕があった。

 装填し、狙いを定めて、トリガーを引く。

 反復すること四度。

 いよいよ砲撃拠点までセィシゴが迫ったところで、彼はある思い違いに気が付いた。



 コルトスらは決して要などではない。



 あの悪辣な、息を吸うように虚言を撒き散らす外道と呼ぶ他無いバルサミ=ゴ酢は、二重三重の策略を練ってこの攻略戦に挑んでいた。

 コルトスらはその内の一つでしかなく、敵戦力の分断を狙って構えられた餌であったのだ。

 砲撃拠点は囮であり、セィシゴの群れを縦に引き延ばすためのもの。ロゾルへの攻撃による戦果は、あくまでついでに求められたものであった。

 そして、彼らが生存することなどまるで期待をされていない。


 コルトスは愕然とした。

 しかし証拠はない。

 これを仲間と共有しようにも、襲い来るセィシゴを切り抜けながら上手く説明が出来るとも思えなかった。

 順序だてて言語化すること自体が困難だ。

 何せ直感的に察してしまったことで、コルトス自身が飲み込めていない。


「クソがよ……ッ!」


 コルトスに出来るのは砲撃の続行だけ。

 既にそこから誇らしさは失われている。たった五人の優越感も、処刑台に立たされた恐ろしさへと塗り変わりつつあった。

 仲間たちも彼の異変に気付き始めた。だがそこに注目している余裕はない。

 セィシゴへの対処が求められていたために。



 どうする、と顔を見合わせるもどうしようもない。残された道は抵抗だけだ。

 全滅までの時間をどれだけ引き延ばせるか。

 これはそういう話である。



 ──と、コルトスは思っていた。


「……は?」


 拠点から飛び降りた女が一人。

 自殺行為だ。

 和を乱す行いに怒りすら覚え、直後コルトスは戦慄した。


 猛然と駆け行く女は、恐ろしい勢いでセィシゴの群れを切り開いていく。


 文字通り、切って開いていくのだ。

 無数にいたはずのセィシゴが屑鉄へと変えられていく。

 弾丸は当たらず、装甲は妨げとならず、振るわれる腕も足も空を切るのみ。


 決してルールを逸脱した動きではない。

 走る跳ぶしゃがむ。武器を振る、投げる。それらはコルトスらもやるような自然な動作だ。

 インチキじみた武装もない。切れ味こそ鋭いが短剣はあくまで短剣で、短いリーチと一撃の軽さは見ていて分かるものだった。


 だけれども強い。

 女は強かった。ひたすらに強かった。

 好機を逃さず、されど下がるタイミングを読み違えない。

 踏み込みの思い切り、リズムを崩す不規則な停止、敵中に留まる胆力。

 どれも誰でも身に付けられるものであり、誰でもは得られないものだ。


 鮮やかな手並みに、コルトスは思わず砲撃の手を止めて見入ってしまった。

 ……ああはなれない。

 そう悟ったからこそ、彼は舞い踊る女に視線を奪われた。



 それから砲身が焼けつくまで撃ち続けたコルトスたちは、拠点を放棄して離脱することが出来た。予想に反して生き延びたのである。

 殿を務めたのはあの女だ。

 最初から最後まで守りきられたことでコルトスは理解した。


 バルサミ=ゴ酢は、きっとこれも織り込み済みだったのだ。あの女が居れば捨て駒同然の砲撃拠点も無事でいられる、と。

 こうして離脱が出来て、そのための人員も配備されていたとあっては奴の責任は問えまい。文句を言っても潰されるのはこちらであろう。

 奴ならそうなるように立ち回るに違いない。

 決定的な失敗をしないのがバルサミ=ゴ酢という男なのだ。


「すっきりしねえ……」




 星食み"ロゾル"の攻略は佳境を迎えていた。







ご覧いただきありがとうございます。

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だから好かれていないのですね、彼は。




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― 新着の感想 ―
どんなゲームでもそうですが、トッププレイヤーって人達は同じ持ち札で戦っているので理論上は自分でも出来るはずなのに、出来ないことをする。だからこそ在野のプレイヤーには嫉妬されるし、憧れを抱かせるんですよ…
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