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52話:証明


「──ははは、相変わらず大きいねえ」


「でも、煙突が減りましたよ」


 ロゾル攻略最終日。

 タイムリミットである十日目の朝、ミーハ・セリ・柚柚華・サラの四人は最後にその全容を拝んでやろうと集まっていた。

 場所は渓谷を抜けてすぐの廃屋の上。

 この廃屋も利便性の高さから整備をされつつあり、既に廃屋とは呼べない綺麗さを取り戻している。


 なんとなく距離感の近いミーハとセリに柚柚華は首を傾げる。しゅこー、とガスマスクから気の抜けた音がした。

 サラは特に気にしていないようで、ロゾルの威容にはしゃいでいる。


 十二あった煙突は四本まで減り、至るところから白煙を噴き出している彼の工場もどきはまさに満身創痍。

 心なしか駆動音も弱々しくなっているように感じられ、大地を削る震動も遠くなった。

 いよいよ決戦を控え、イグナイターの間では楽勝ムードが広がりつつある。


「だけれどねえ……」


 そんな楽観をミーハは共有出来なかった。

 元よりそうした協調の働かない身なれど、今回ばかりはそうではない。セリたちや、バルサミ=ゴ酢らとも相談した上での拭いされない危惧である。


 ミーハにつられてセリも難しそうな表情になる。

 彼女の視線の先にはロゾルの足元に集った攻略部隊が。

 イグナイター百余名の大部隊は、しっかりした統率により屈強な軍隊として仕上げられている。『ウス異=本連盟』と複数の団体が共同で組み上げた指揮系統は、遠目に見ても確かな働きをしていた。


「んー、でもぶっちゃけ足りなくない?」


 同じように彼らを見ていたサラの無慈悲な呟き。それにミーハは内心で同調する。

 規模感、と言えば良いだろうか。スケールが足りていないように思えるのだ。

 あの超巨大な動く工場を相手にして、たかだか百かそこらでどうにか出来るものなのか。


「実際無理」


「無理だろうね」


「残念ですけど……」


 四人全員、彼らでは無理だという判断を下す。

 だが手助けにはいかない。

 行ってはいけないとゴ酢から指示を受けている故に。



 ──ミーハたちの役目は、この廃屋からの"攻撃"である。





 旧ペレレリス通信所。またの名を『廃屋』。

 今の『MM』では廃屋と言うとここが指し示される。

 この廃屋は再び人の手が入ったことで、見違えるような転身を果たした。

 入り口も内装も整えられ、さらには周囲へ伸びる道路まで。風化を待つだけだったところから、ロゾルの攻略に向けての一大拠点へと変貌を遂げたのである。


 ただ、廃屋に訪れた最大の変化はそれらではない。


 武装拠点化。つまり、要塞として造り変えられたのである。

 と言っても、堅固な防壁が建て増しされたり敷地面積が広げられたりした訳ではない。

 強力な武器、それも移動の難しい物が複数持ち込まれたのである。



 ペレレリス砲撃拠点。それが生まれ変わった廃屋の名前である。



 その屋上の一角にミーハたちは居た。

 役目は勿論、砲撃用の装備での援護だ。

 主たる砲撃手はセリが務め、柚柚華が観測手をサラが補助を担う。あぶれたミーハは拠点防衛係だ。

 このペレレリス砲撃拠点には、ミーハたちを含めて五つのパーティが配置されている。用意できた設置型の兵器が五つだったからだ。

 五門の砲塔を揃えて見せただけでも連盟の力が伺えるが、これをイグナイターの大半に隠していたところはミーハとしてもいただけない。


(……だからいまいち好感度が低いんだよ)


 連盟の支持率は規模の割りに低い。安定しないとも言える。こうした小さな積み重ねが、なかなかどうして馬鹿に出来ない。

 ──知ったことじゃないか。

 ミーハはそのように思考を打ち切った。心配したところでゴ酢ならどうにかするだろう。



 砲撃拠点には五門の砲塔が備えられ、それに合わせた数のパーティが詰めていた。そしてミーハのように拠点防衛用の人員も配備されている。

 ロゾルの足元に集った攻略部隊は囮なのだ。彼らを餌にして、携行兵器より強力な一撃を複数浴びせる。可能な限り長い時間に渡って。


 そのように今回の作戦内容を推察しながら、しかしミーハは腑に落ちない。これでも足りないだろう。

 時間さえあれば勝てるかもしれないが、肝心の制限時間が迫っている。

 何か更なる策があるのか。

 ゴ酢をはじめとした連盟上層部の秘密主義はかなりいきすぎている。ミーハが聞いたとしてものらりくらりと躱すことだろう。




 ロゾルの足元では既に戦闘が始まっていた。

 銃弾が飛び交い、ロゾルから排出される迎撃用のセィシゴと衝突する。

 軍勢と群勢は距離をとって互いに牽制し合う。意外や意外、じりじりとした立ち上がりだ。


 想像以上に冷静な部隊の動きにミーハは感心した。柚柚華も感嘆の吐息を漏らす。

 とても一般人の動きには見えなかった。

 攻撃は揃え、装填の隙は互いに埋めて、陣形は崩さず、徐々にロゾルからセィシゴを引き剥がす。

 そう、セィシゴを引き付けてロゾルからの分断を図っているのだ。ともすれば消極的にも見える動きを、どうやって指揮しているのかミーハには見当もつかなかった。


 吐き出されるセィシゴの数は、この十日の間で格段に減少していた。かつては大地を埋め尽くすかと思うほどであった奴らも、今では攻略部隊をほんの少し上回る程度だ。追加も疎らで、イグナイターたちは確実に優勢だった。


「──セリ! "一番"だって!」


 事前に通達されていた指示コードに従って、サラが伝令をする。

 "一番"とは、徹甲弾からの砲撃開始である。


 ガチャン、と各砲塔が装填を行う。


「二八〇〇、四三二」


 柚柚華の指示に合わせてセリが照準を合わせる。

 距離と高さを合わせたのだ。

 狙うはロゾルの上部、奴の背に残る四本の煙突。


「──発射!」


 腹の底に響く衝撃が砲撃の威力を物語る。

 発射音を音として認識出来なかった。ただの爆発だ。殴られたような感覚を、頭を振ることで追い出した。


「着弾確認。修正、二八三〇、四三六!」


「次弾装填します!」


「次も"一番"だって!」


 セリたち三人は次の仕事に向けてテキパキと動き出す。

 これもミーハが見誤っていたことだ。

 彼女らは力を合わせることで真価を発揮する。その合わせ方は多様であり、柔軟だ。

 今も、他のグループに先駆けて二射目の用意を調えた。



 安定した働きを見せる三人を後ろに置いて、ミーハは拠点の屋上から身を翻す。

 彼女の仕事はここからだ。

 囮である攻略部隊をすり抜けてきたセィシゴたちを迎え撃つのである。

 砲撃拠点まで通さない。それこそがミーハの役目である。


 ともに戦うということは、肩を並べることに限らない。背を預け、互いの働きを十全にこなすこと。それこそが重要であるのだ。


 一人で戦うとしても孤独ではないと知ったミーハは、これまでよりも数段強い。

 不敵な笑みを浮かべ、彼女は迫り来るセィシゴの群れを解体した。







ご覧いただきありがとうございます。

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