48話:再走
イグナイターのコアであるジェネレータ、これが初期化されたミーハは満足に身体を動かせなくなってしまった。出力の不足であるため、仕方のない話だ。
四脚も複腕もコアが強化されたものであることを前提としたパーツである。
リスポーンしてすぐに予備のパーツへ換装し直すような真似は封じられていたわけだ。
もっとも、リスポーンの度に初期装備からやり直しとなるシステムはこの設定が前提にあると言って良い。
あくまでイグナイターの本体は機体を操る意思の方であり、重きをおくべきは機体でないのである。
さて、とにもかくにもミーハは現在、初期も初期の特典すらない始めたての状態と同じであった。
無垢な素体である。
有機生命体であるヒトとほぼ同程度の性能しか持ち合わせないため、軽量で小型な武器しか装備できない。
この状態を解決するには予備パーツに換装すれば良いのだが、平時であればそれで済む話もコアの初期化が起きた彼女は違う。
先に挙げた出力の不足。
予備パーツを稼働させられないミーハは、一からジェネレータの強化を行って行かなければならないのである。
「……これは、ちょっと骨だね」
ちょっとどころではない。
つまるところ、彼女に求められるのは再走だ。これまで駆け抜けてきた道をまた一から走り直すように指定されている。制限されている。限定されている。
きっと一度目よりは楽だろう。知識が備わっており周囲のサポートも望める。だがそこに目新しさはない。
勝てば良かろうというイグナイターたちの間ですら、コアの自爆が避けられているのも当然か。
単純に後の始末が面倒臭いのである。
「んー、……よし!」
少しの逡巡の後、ミーハは一つの決断を下す。
彼女は全ての予備パーツを売り払った。一つ残らずだ。武装も含めてインベントリを空にする。
溜め込んだ貯蓄を新たな自分の構築へと回す。その準備であり、決心を鈍らせないための訣別の儀式である。
一部で有名になりつつありミーハ自身も愛着を抱いていた四脚を捨て、ようやく慣れてきた複腕も止める。まっさらな自分を一から育てる。
彼女はそのように決断したのだ。
それからミーハは部屋を後にする。
ここは降星城エデルリッゾ、その中のリスポーン部屋と呼ばれる機体構築室だ。彼女のように機体を破壊されたイグナイターはここで目を覚ます。つまり、初期機体の姿も珍しくはない。
だが、いつまでも初期のままでいるのは別だ。
コアの自爆など早々とられない戦術で、いつまでも換装しないミーハに向けられる物珍しげな視線もそろそろ鬱陶しく感じられてきたのである。
セリたちパーティの仲間と共用で借りているプライベートルームへと移り、ゆっくりと時間をかけて思索に耽る。
今後へ向けてのロードマップ作成へと取りかかることをミーハは決めていた。
◆
ところ変わってプライベートルーム。
四人で使うには少々広い十メートル四方の空間は、四脚によって巨大だったミーハへの配慮に寄るものだ。
カーペットが敷かれクッションに埋め尽くされたその部屋の中心にミーハは寝転がり、メッセージやら掲示板やらを見漁っていた。
幸いなことにメレディエリは撃破されたらしく、各人から状況の報告とミーハの損害への見舞いの手紙が通知欄を押し流す勢いでやって来る。
現在進行形で初期化の話は広まっているようだった。
そこに僅かながら煩わしさを感じてしまう自身を戒めつつ、ミーハは他の動力炉の攻略について調べる。
メレディエリと動力炉の攻略に勢いづいて進められた他の三つへの攻撃はどれも失敗したようであった。
さすがに慌てて手を広げてしまったらしい。
ビアッゾ、オゴ、ユーギェン。
アナウンスにあった名前のボスを確認は出来たものの、どこも敢えなく全滅したと言う。ひどい損害だ。
しかしそうは言っても、バルサミ=ゴ酢からのメッセージに焦りはなかった。彼はそれを織り込み済みで、普段あまり協力的でなかったり手の平を返して来たりした連中を中心に部隊を組んだのだ。
こういう汚いけれども批判しにくい立ち回りはミーハでは真似できない。もはや素直に感心する。
「にしても、コアの予備が使えればなぁ……」
新たな機体を組み上げると決めたものの、ミーハとて多少は未練を感じないでもない。
リスポーンに備えた用意はあったのだ。まさか、自爆時には使えないと思わなかっただけで。
機能そのものがロックされ、新しく作り出さなければ使用許可が降りないとくれば、コアなど無用の長物。石代わりに投げて使うくらいしかない。
ミーハの気分としては自動車免許の取り直しである。やってやれないことはないけど気は進まない、そんな感じだ。まあ、経験などありはしないが。
読み終えたメッセージに返信をしつつ、ミーハの思考はこれからの予定へと向いていた。
ロゾル攻略までのタイムリミットは残り四日。
ここは十日目にお祭り騒ぎが起きると賭けて、少しでも参加できるように足掻くべきだろう。
そう、七・八・九日は機体の調整に充てる。十日目を待たずにロゾルが攻略されるならば諦める他ない。
(となると……。機動力と火力が欲しいね)
特に足回りだ。
積み上げたものを取り返すにはあちこちを駆け回る必要がある。その時に足元が不如意では大きな損失へと繋がりかねない。
そう考えると四脚はかなり良いものだった。
ミーハが単独で好き放題赴けたのも、その踏破性の高さが大きな役割を果たしている。また、航続性能も高く、遠方への移動に関して心理的ハードルが下げられていたのもあるだろう。
「けど、どうせなら変わったことしたいし……」
四脚は良かった。だがもう一度頼ることはしない。
結局これに尽きるのだ。
ミーハは面白さを求めて、辿り直すのではなく道を切り開くことを選んだのである。
パーツカタログのようになったサイトの記事を眺め、あーでもないこーでもないと一人ミーハは頭をひねる。
二脚のままなら無難に収まる。だが、ここで日和った選択肢をするのか? それは違うだろうと彼女は断じる。
車輪は悪くないが序盤の砂場と最悪の相性だ。時間をかけられない前提がある以上、今回は見送らざるを得ない。
蛇体もミーハの好みだが、多脚を超える操作性の悪さに食指が止まる。時間さえあれば慣れることは可能だろうが、その時間が無いのでこれも見送りだ。
そうして幾つかの候補を流し読みしたミーハが目を止めたのが、『鳥脚』であった。
逆関節、あるいは逆脚などとも呼ばれるそれは、膝と同じかより高い位置に踵があるダチョウのような走鳥の類の脚を模したパーツである。
二脚に近い操作性と安定性、上位に位置する加速力。持続力に若干の難を抱えるものの、異形パーツとして見た時にかなり初心者に勧めやすい作りをしていた。
(ここは敢えて……、と言うのもありかな?)
無難な選択肢にも思えるが、現状では他に心引かれるものが見つからない。
少し悩みはしたが、ミーハは鳥脚を主軸に据えて構成を考えることに決めた。
鳥脚というパーツの弱点は先に挙げた持続力。それから、二脚と共通する運搬性能にある。
いや、四脚がその点で図抜けていただけではあるのだが、ヒトやそれに近しい体躯で軽トラ並みの働きが出来るかと問われれば難しいのは当然だろう。大きさというのはやはり重要なファクターで、コンパクトに収まっている分の帳尻合わせはどこかに出てくるものだ。
となれば、ミーハは軽量かつ小型を目指して機体を構成することになる。かつて四脚であった時とは真逆だ。
利点はある。
ジェネレータの負担は軽減され、要求スペックが低くなる。
それはつまり、強化を後に回すことが出来るということである。
──組み上げること数分。
ミーハの新たな機体が構築された。
と言っても初期装備に毛の生えた程度だ。
ボディに至っては初期そのままである。
その分を武装に注ぎ込んだためだ。
『メラストーニ貯蔵タンク内蔵式プラズマナイフ』というそれは、柄の部分にティエラ粒子を貯蔵し必要に応じてエネルギーへと変換する機構が搭載されたナイフである。
前線の伝手(主ににゃるらとホイップ)を頼って多額のクレジットと交換した逸品で、火力自体は二線級だが充電式である点が評価されて愛用者も多い……装備の二世代前の品だ。
ミーハはこれで持続力の低さをカバーしようと考えた。二世代前だろうと序盤の敵相手なら余裕で通用する。
念のために特殊合金製のコンバットナイフもサブウェポンとして用意した彼女は一つ頷いた。
ここに大出力のジェネレータや射撃の行えるビーム兵器を付け足せば、セリたちと組んだ時に以前とは異なる役目を果たせるだろう。
(……まあどうせなら、何か面白そうな代物を手に入れたい気持ちもあるけどね)
その場で足踏みや素振りをして感触を確かめたミーハは、満足した顔でプライベートルームから退出した。
早速、降星城から出立してザルボバータのいた天文台を目指すつもりなのだ。
すぐに追いつく。それしか彼女の頭にない。
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イメージは羽根の無いハーピィですね。




