46話:爆砕
脚を失い動けなくなったミーハは、自分でも驚くほどに冷静に周りを見れていた。
それは動けなくなったからこそ、であるかもしれない。思考リソースをメレディエリの観察に安定して割くことが出来たからだ。
今のミーハは砲台にも劣る。足を止めて大技のぶっ放ししか出来ない初心者以下の価値だ。セリがヘイトを取って狙われた時に、壁となって時間を稼ぐことしか役割が無いのに等しい。
故に彼女は思考を回す。
他の誰もが余裕を失った今、それを担うべきはミーハであるものと自覚しているために。
そうして彼女は一つの違和感に辿り着いた。
──どうしてサラのトラップは通用したのか。
銃弾の軌道を歪めてくるメレディエリだが、至近であれば歪めきれずに当たってしまう。
それは分かっている。
実際、ボレスの突撃銃も全くの無効ではなかった。
しかしビーム兵器ですら逸らして見せる彼の敵が、低速で射出されるネットを無防備に受けたのは何故なのだろうか。あの時あの瞬間、確かにネットは飛んで絡み付いたのだ。
「……あれ?」
更なる違和感にミーハは突き当たる。
ボレスは全身をバラバラにされた。それを行ったのはメレディエリで、奴は自身の手で為したのだ。
「手を使って──?」
残り時間が三分を切ったというアナウンスが流れ、イグナイターの攻め手はより苛烈になる。
焦る攻撃は狙いがぶれ、連携に綻びが生まれ、激しさの割りに有効打からは遠い。サラたちと先導隊の面々は初めて顔を会わせるのだから当然の話である。時間が経てば経つほど練りきれていない脆さが浮かび上がってくる。
サラがアイテムの在庫を全て吐き出す勢いで使い、柚柚華は振り回される手を掻い潜りながら接射を試みる。長い髪を振り乱してサッチマーがハンドガンを乱射して、非情Belleの音響兵器が空間を歪めるほどの爆音を放つ。
それら弾ける火花にも砕かれる床にも、ミーハは目もくれずに思考へと没頭した。
『──残り二分』
たっぷり一分を思考に回し、ミーハは一つの推論を打ち立てる。
──『三面鏡の"メレディエリ"』は、防御に利用している不可視の力場を自身で制御できていない。
力場に不完全な穴があること。
攻撃に転用できないこと。
出力にムラがあること。
何より、厄介な暗黒を使わないこと。
これらのことからミーハはそのように考えたのだ。
先に使われた暗黒と力場が由来を同一にしていることを、ミーハはうっすら察していた。それは呑み込まれかけたが故の感覚である。
根拠なき直感に立脚した仮説など本来論ずるにも値しないが、ミーハは己れの正しさを確信していた。
一足飛びの理解。
過程を飛ばして結論に至ったわけである。
つまりミーハは答えへと辿り着いたのだ。それが正しいものであるかは、これから立証することになる。
彼女の現状は酷いものだ。脚部パーツは四割強を喪失し、左腕も三分の一近くが失われている。また、無理な稼働によってドローンも機能しなくなっており、ミーハというイグナイターはほぼ死んだも同然であった。
まだ彼女が生きているのは、偏にジェネレータが無傷であるからに他ならない。ただそれだけの理由だ。
今のミーハは置き物と大して変わらない。
──だが。
それでも出来ることはあるのだ。
ミーハが導きだした答えの正しさを確かめるために動き出す。
今のミーハは置き物と大して変わらない。だが置き物と彼女とでは決定的に異なるところがある。
「えっ!?」
無事に残った右腕で、ミーハはセリの襟首を掴む。まさか仲間にそのような真似をされると考えていなかったセリはあえなく捕獲され、猫のようにぶら下げられる。地面に座り込んでいても、ミーハの方がセリよりも大きいのだ。
「何です!?」
「ちょいと、ごめんよ」
一言断りを入れ──セリからすればそれは何も解決しない言葉であるが──ミーハはセリを放り投げた。
例えば、立ち幅跳び。腕を前後に揺らして勢いをつけて跳ぶのとそうでないのとでは、跳びやすさや飛距離に大きな差が出るものだ。
是非試していただきたい。慣性の働きを直に感じ取れるだろう。
ミーハがしたのはそういうことだ。
セリは振り子の働きをしたわけである。させられた、が正しいか。
残った脚を自壊させながらミーハの巨体が宙を舞う。四つの脚で支えるはずの体を、二本の脚で強引に跳ばしたのだ。膝関節の破断をスラスタの噴射で補うことで、彼女は無理を押し通す。
ミーハの身体に勢いをもたらすために利用されたセリは床を転がり、とあるオブジェクトにぶつかって止まった。
その上を飛び越えていくミーハ。
ジャンプの瞬間に脱落した脚部に加え、デッドウェイトでしかない左腕も背部のドローンも捨て去って、上半身と右腕一本になって狙いの物に取り付いた。
星食み"ロゾル"のサブジェネレータである。
イグナイターたちは勘違いをしていた。
三面鏡の"メレディエリ"を倒さなければ動力炉を破壊できないというのは思い込みであるのだ。
一面ではそれも事実ではある。邪魔されないように敵を排除するのは間違いではない。
だが、ことメレディエリに関しては優先度が逆である。
たとえ邪魔をされてでも動力炉を破壊する必要があったのだ。
ミーハはそれに気付いた訳ではない。
ただ、出来ることを探した結果として、偶然正解へと触れたのである。
壁際のモニュメント。円環と円柱の組み合わさった前衛芸術めいたそれに、ミーハは拳を叩きつける。
折れた斬機刀は投棄して手元になく、予備の短針銃では至近であっても針を徹せなかった。すぐに弾詰まりを起こして放り捨てたニードルガンに代わる武装を、彼女は持ち合わせていなかった。
(この体では斬機刀があったところで変わりないけど……っ!)
残り時間が一分を切る。
「ミーハ!」
ぶん投げられてから起き上がったセリが、ここで戦線に復帰する。文句一つ言わずに状況を把握した彼女は、狙撃銃にとっておきを装填した。
ティエラジェネレータから生成される高純度のティエラ粒子を封入した装弾筒付徹甲弾は、発射後に更なる加速を得る。本来なら戦車砲で使用されるような弾丸であるが、ゲームならではの不思議テクノロジーが小型化を推し進めていた。
間髪いれずに動力炉へと撃ち込まれたセリのとっておきは、分厚い金属装甲をも大きく歪め亀裂を入れて見せた。
「ナイス!」
砲身冷却次弾装填、セリのそれよりも先にミーハが動く。
ミーハの拳が亀裂に捩じ込まれ、そして──。
──轟く爆音がイグナイターの体を叩く。
至近で浴びたセリは衝撃波によって転がされ、その手からは狙撃銃が取り落とされた。
五メートルも六メートルも吹き飛ばされた彼女がゆるゆると顔を上げると、床にも天井にも大穴が開いて動力炉は影も形もない。それはミーハの姿もそうで。
後に残るは燻る残滓と漂う煙のみであった。
イグナイターを動かすコアは、高い出力でティエラ粒子からエネルギーを生成している。逆のプロセスも可能だがそれは良いだろう。
この高い出力と言うのはビーム兵器を自在に取り扱えることからも分かる通りで、原子炉をも上回るエネルギー効率である。『MM』世界観としてはこの高効率エネルギー生成装置が存在するために、人類の宇宙進出が可能となったとされる代物だ。
さて、このコアなのだが、基本的に爆発をしない。セーフティをかけられており、生成したエネルギーの保持や過剰生産が出来ない仕様になっているのだ。コアは本当にエネルギーを作り出すためだけの装置なのである。故に、イグナイターは破壊されても爆発をせずに、速やかに降星城へと意識データを転送されるわけであった。
──だが、一つ例外が存在する。
逆のプロセスを行った場合だ。
エネルギーからティエラ粒子を生成する場合、これもまたコア内に溜め込むことなく生成物が排出される。ただ、ティエラ粒子の拡散速度とジェネレータの生成速度が釣り合わないために、密度が飛躍的に高まってしまうのだ。広がるよりも生まれる方が早く、下から押されるところてん方式である。
よって粒子が高密度になりやすい。
すると何が起こるのか。
ティエラ粒子による再度のエネルギー変換である。
コア内部と環境が似通ったために、擬似的な再演が行われるのだ。ただし、エネルギーの制御が出来ていない状態で。
イグナイターたちの間でコアを暴発させることが推奨されていないのには理由がある。
危険な取り扱いを行ったことでのペナルティを受けるのだ。
アップグレード履歴が取り消され、初期のコアから一から強化していくことを求められてしまう。
──つまりミーハは、初期特典の恩恵を捨て去った訳である。
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言い訳させてください!
夜勤が連続してて執筆に体力や気力を注げる余裕がなかったんです!
……そうです。私の見通しの甘さが原因です。ごめんなさい。




