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41話:一緒


「──で、なんで森に来てるんだっけ?」


 困ったようなサラの呟き。

 セリと柚柚華は顔を見合わせる。

 ミーハは小首を傾げて言った。説明してなかったっけ、と。


「してましたよ」


「サラが聞き逃しただけ」


 セリと柚柚華は呆れ顔だ。

 ミーハも話した覚えがあったために、サラを視線で咎める。


「いやいや、それはちゃんと覚えてるよ!」


 サラは強く主張した。

 彼女らが再び森を訪れているのは、例の転移装置の調査をするためだ。もちろん他のイグナイターも目を付けているのだが、如何せん主戦場から遠く離れているために人手の集まり具合が悪かった。

 それを知ったミーハによる提案で、今四人は森の中に居る。


「"鶏"がロゾルの中から出てきたから繋がりがありそうだってのも聞いたよ。ちゃんと覚えてるんだから。でもさ、それウチらが調べる必要なくない? って思うの」


 先ほどのサラは、何故自分たちが森まで来ているのか。その部分を問いたかった訳である。

 セリと柚柚華も確かに、と頷く。

 二人はミーハの主導に慣れていて疑問を抱いていなかった。当たり前に従っていたのだ。しかしそれも改めて問題提起されれば別である。


 隠すようなことではないため、ミーハはあっさりと答えた。


「あのままだと面倒事に巻き込まれていたからさ」


 その一言で柚柚華は察したようだ。

 ただ、セリとサラは詳しく解説を求めた。


「三日経って皆大まかな流れを掴みつつある。そうなれば、次に起こるのは誰がその流れを掌握するかの主導権争いさ。で、アタシらは良い旗頭になる」


 主導権を握るためには目立つことが重要になる。

 現状、バルサミ=ゴ酢ら『ウス異=本連盟』がイグナイターたちの間で有力だ。彼らを押し退けるのであれば相応の知名度や実力を求められる訳だが、ミーハたちはそれに見合う駒となる。

 麗しい上に実力のある女性四人組なのだ。良い広告塔になること請け合いである。


「連盟が確固たる地盤を築けば減るだろうけど、勧誘なんて凄いんだよ?」


 広告塔としての役割だけではない。

 そもそも彼女たちに近付こうとする連中は多いのだ。それが衛星基地攻略という大きな盛り上がりの影響でより顕著になったと言うこと。


 ミーハの言う通り勧誘は日々激化していた。

 メンテナンスの後にログインしていなかったサラは実感が湧かないようであるが、セリも柚柚華もげんなりした表情を浮かべている。


「連盟の活躍に期待」


「……ところで、なんであんな名前なんでしょうね?」


「ああ、ノリと勢いで決めたらしいよ」






 転移装置の周りにはさすがに数人のイグナイターが見える。

 彼らも調査に乗り出した面々だ。……あるいは避難してきただけなのかもしれないが。



 森の転移装置の他に、同様の物が三基発見されていた。

 砂漠の新たなオアシスに一つ、渓谷の地下に隠された部屋で一つ、衛星基地のすぐ近くに一つ。

 どれも似たような空間に繋がっていて、同種のセィシゴが出現することから、同じ施設に転移するものと考えられている。


 そしてその転移先の候補として名前が上がったのが『星食み"ロゾル"』であった。


 理由はいくつかある。

 まずその巨大さ。ロゾルは衛星基地を覆い尽くすほどの体躯を誇る。外からちまちま削るだけでなく、内部に侵入する方法があるはずと発見当初から予想をされていた。つまり、転移装置がその侵入方法なのでは? と言うことだ。

 それから地図上の並び。転移装置は直線上に並ぶ。四基が一直線なのである。そしてその直線の先にはロゾルが居た。関連を疑わない訳にはいかないだろう。

 さらにロゾルはセィシゴを吐き出すのだが、その中には転移先に出現する"鶏"が交ざっていた。他では確認されていない事例である。砂漠や渓谷のセィシゴは出てこないことからも、転移先がロゾル内部だと疑う要素であった。

 そして転移装置の発する紋様。転移時の青い光と紋様は、ロゾルの体を覆うそれと極めてよく似ていた。脈動するように発光する紋様はまるで血管のようで、ロゾルと転移装置の繋がりを示しているように思える。

 ついでに消去法もある。転移先になるような大規模な施設が、現状では他にないのだ。仮にロゾルではない場合、もう一つ攻略するべき施設があると言うことになる。さすがに攻略対象が渋滞するような真似を開発もしないだろう、とイグナイターの間では考えられていた。



 台座を調べるイグナイターたちを放置して、ミーハら四人は転移装置を起動させる。


「それで一番遠くて一番人気のない森に来たわけさ。人が居なければ勧誘なんてされないからね」


 ミーハはだいぶ苛立っているようだ。事実、ほんの数日で彼女は一部の礼儀知らずに辟易していた。


「そんなに大変な手合いなのですか?」


 外部との交渉役を任せきりにしていた、とセリは内心で反省する。サラも柚柚華も気まずそうな雰囲気だ。

 怒られる直前の学生のようになった少女たちに、ミーハは気にしないでと笑いかける。責めたかった訳ではないのだ。ミーハも積極的に前に出ていたところはある。


「連盟が力を持てば自然と収まるから安心して」


「大丈夫なのですか……?」


 燐光が強まってきた。

 転移装置が起動する。


 セリの不安にミーハは肯定も否定も返さなかった。代わりに彼女は言った。


「最悪、別のゲームに逃げるだけだよ。そんな面倒を背負い込む義理なんて無いんだから」


 あまりにいい加減な言い草。しかしセリはそれで良いのだと、すんなりと受け止める。

 どうしても人付き合いのつきまとうゲームだから難しく考えていた。嫌なら離れる。それが健全なのだ。電脳空間はそれを許してくれる。

 そこでセリはののはを思い出す。嫌なら離れるということを実践したのが彼女だ。先月から箱庭水族館を作っていると楽しげに見せてくれた。


 輝きに包まれながらセリがサラと柚柚華に視線をやると、二人も似たようなことを考えていたのだろう。強く頷いた。セリも頷きを返す。



 ──少なくとも今は。今はまだ離れるべき時だと思えない。ならば一緒に、ミーハや他の人たちも巻き込んで楽しめる。楽しんでいける。



 セリの笑顔はそれまでよりも数段晴れやかだった。





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