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4話:降星


 四方八方を囲まれての戦闘だったが、ミーハとセリは最大限の抵抗をしてみせた。


 彼女たちは30を上回る数のセィシゴを相手取り、一歩も引かずに7体まで倒したのだ。


 移動しながら戦闘しながらのリロード、狙いをつけずに腰だめでの発砲、銃ではなく鈍器としての運用。試さずにいたあれこれをぶっつけ本番で実行しながら、二人は懸命に足掻いた。足掻いて足掻いて足掻き抜いた上で、力尽きた。



 元より勝ちきれる設定ではない。

 この最下級セィシゴは、それでも1体で初期装備のプレイヤー3人分として計算されている。

 多くのプレイヤーが防衛に向かったコロニー生産部も壊滅したのだ。そして、そこよりも一人当たりのセィシゴの密度ではミーハたちの方が上回る。

 むしろ、たった二人で複数体を討伐している方が予想外の出来事なのだ。

 イベント前の運営の想定では、フルメンバー6人のパーティで5体のセィシゴを倒せれば上級者だとされていた。三分の一のメンバーでそれを超えられてしまっては、運営もお手上げである。


 付け足しておくと、ワラワラと30体ものセィシゴが集まったのは、戦闘の起きた地点がコロニー基部手前という絶妙な位置であったことと、それに加えて同胞の破壊がトリガーであった。実はこのイベントでセィシゴが出現するポイントは、後続が集まりやすい地点に設定されている。隣のブロックに入る手前や、メインストリート、格納庫と居住区を繋ぐ通路などだ。うまくやれば入れ食いになる。もっとも、食われるのはプレイヤーであるイグナイターだが。






 ミーハが再び目を開けた時、そこには多くのイグナイターがいた。

 中心に巨大な水晶玉の置かれた広間で、イグナイターたちは思い思いに過ごしている。会話を楽しんだり、座り込んでいたり、メニューをいじっていたりと様々だ。


(ああ、リスポーンね)


 景色が切り替わった理由はすぐに察しがついた。


 先ほど死亡したはずのミーハがいるここは、リスポーンポイントだ。スクラップにされたイグナイターが蘇生される地点である。

 見れば時折、壁際のパイプのような物から機体が排出されている。排出されたイグナイターは戸惑ったように辺りを見回していて、それはミーハからしてもとても覚えのある動きだった。

 振り返ってみると、ミーハの背後でもパイプが天井に向かって伸びている。ここから出てきたのだろうと、容易に想像が出来た。




 『Mechanical Microcosm』におけるプレイヤーは、イグナイターと呼称される機械兵士だ。体を機械によって構成された彼らは、設定上意識がクラウド内にアップロードされていることになっている。記憶データを持ち越す設定が、ゲーム的な死に戻りを成立させているのだ。


 なお、このイグナイターの基になった機械兵士は不老不死を求めたとある計画の産物である。彼らは失敗作の流用なのだ。悲しいかな、人間(NPC)に不老不死は遠かった。人格データの移行は成らず、肉体の置換も強化も限度がある。


 そして、意識の引き継ぎと機械の体という2つの特徴が、イグナイターとアドジャストメンター(NPC)を分けていた。




 自身の状態を軽くチェックしたミーハは、何一つ問題がないことに気付く。


(……デスペナルティは?)


 撃ちまくった右太ももの拳銃も、酷使したはずの左腕のパイルも新品同然だ。違和感もなく、滑らかな動きが実現できる。


 その疑問はヘルプを見たことで解消された。


『リスポーン時、素体及び武装は初期化されます』


 なるほど。ミーハは一つ頷く。これがデスペナルティか、と。

 弱いうちや序盤は良い。だが、強化を繰り返していって一点物に仕上げていた場合、そこまで戻すのにはかなりの費用や手間、素材が要求されることだろう。強くなるほどに負担はかさむ。

 運営がゾンビアタックを許す気がないことはよく伝わってきた。

 にしても厳しい、とミーハの口元がへの字に歪む。




「あ、ミーハさん!」


 メニューを見て唸るミーハに声がかけられた。


 セリだ。

 ミーハよりも先に破壊された彼女も、当然ながらここにリスポーンしていた。

 少し歩き回り、ようやくミーハを見つけたのだ。


 その笑顔を見てミーハは少し安堵した。

 寄って集って叩き潰しにきたセィシゴの圧は相当なものであったのだ。ゲーム初心者には刺激が強すぎるそれに、嫌気が差してしまっていないか心配をしていたのである。

 だがセリはかなりタフであった。今度は負けませんよ、と息巻いている。


(にしてもこの子、元気すぎない?)


 散歩をねだる犬のような様子のセリに、少々呆れを抱くミーハ。彼女の表情にまるで気付かずセリは待っていた間のことを語る。

 特に中身のないそれをミーハは聞き流した。初めての死に戻りに、セリが何やらハイになっていることだけは把握して。




 それからさして経たないうちに、アナウンスが流れる。


『避難船離脱率が100パーセントに到達。退避成功を確認。現時刻をもって、『衛星コロニー8号撤退戦』を終了とする。

なお、衛星コロニー8号は完全に崩壊。当該宙域に放棄予定────』


 金属に覆われた無味乾燥な天井を、ミーハは思わず見上げた。

 周囲のイグナイターの中の幾人かもそうだ。それにつられるように、さらに何人もが見上げていく。


 ゆっくりと。


 光沢のある明るい鉄色が、深い深い青黛へと変じていく。

 海の底、あるいは空の果て。

 そんな印象を受けてから、すぐさま皆が気付いた。


 これは、宇宙(・・)だ。

 そう、彼らの現在地である。


『これより当降星城『エデルリッゾ』は、衛星『α-vida』に降下する。各員、衝撃に備えよ』


 浮き上がってからの押し潰されるような感覚に、ミーハの隣で小さな悲鳴が上がる。広間全体が揺れていた。まるで地震だ。

 懸命に踏ん張り、転ばぬように堪える。セリは諦めたのか、ミーハの腕を抱え込んだ。


 天井に映る宇宙は、真っ赤に燃えていた。

 重なりながらも混じり合わない赤と青に、思わずミーハは息を呑む。

 美しい。

 彼女の心は揺れのただ中にあってなお、その一心に満たされた。




《────ゲーム運営よりアナウンスいたします。


これより、1時間のメンテナンス作業を挟んだ後、本サービス開始となります。


最初の舞台は衛星『α-vida』。

イグナイターの皆さんは、彼の地を奪還するべくセィシゴとの戦いに身を投じることとなります。

降星城『エデルリッゾ』は『α-vida』での拠点です。リスポーン、モディフィケーション(改造)、ショップ、その他様々な機能が使用可能となります。メンテナンス後に、各種機能が開放されますので、ぜひともご利用ください。


早期購入特典であるイベント『衛星コロニー8号撤退戦』をお楽しみいただいたイグナイターの皆さまには、メンテナンス終了後に本イベントの成功報酬として50000クレジットが配布されます。こちらはメニュー画面のプレゼントから受け取れますので、お忘れなきようお願いします。


それでは皆さま、衛星『α-vida』を取り戻す冒険にいってらっしゃいませ────》




⚫『Tierra』『α-vida』と来れば、あと1つがお分かりの方もいらっしゃることでしょう。

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