35話:雑談
「そういえば、さっき左腕が使いにくいとか言ってましたけど大丈夫なんですか?」
移動中の四人は雑談と戦闘を繰り返していた。
その最中に、セリからの問いがミーハに投げられる。
【展開式機甲翼盾腕】というミーハの左腕のパーツは、翼状の腕と盾が融合したものである。イメージとしてはワイバーンの翼が近いだろうか。
上半身の大部分をくるむようにして覆うことが出来るのだが、腕部分が独立していないために掌が基本上を向いて固定されてしまう欠点があった。
渓谷攻略戦でもこの欠点は大いに存在感を発揮し、左側の死角から群がられたことで彼女はリスポーンをしている。
セリはその話を思い出したのだ。
実際、この問いの直前にあった戦闘でもミーハは左側への対処に苦慮していた。
メインウェポンである斬機刀は右側の敵を掃討するには猛威を振るっていたが、反面左側へはそよ風のように大人しかったのである。
「いやほら、サブアーム付けるか悩んでいたじゃないですか」
セリは答えないミーハが気を悪くしたと思ったのだろう。慌てたようにそう付け足した。
確かに以前、アクセサリとして装備可能なサブアームを探したことはある。
だが──。
「ああ、ごめんね。怒ったりした訳じゃないよ。ちょっと考え事しちゃってさ。
サブアームなんだけど、アタシには合わなかったんだよね……」
「合わなかった?」
柚柚華がガスマスクから呼気を吐き出す。彼女も気になるようだ。
そこでミーハは己れの所感を語る。
「サブアームなんだけど、まず言っておくと便利だよ。単純に手数を増やせるのが良いわ。アタシも使いたいくらい」
「え、じゃあ使えばいいじゃん!」
安直な発言に、柚柚華がサラに呆れた目を向ける。
使えれば良いんだけどね、とミーハは力無く笑った。
「どうにも混線しちゃうみたいでさ。多脚と多腕で操作系統が似ているのか、それともアタシの感覚の問題なのかまでは分からないけど」
「それは」
「困りますね」
セリと柚柚華が頷いた。
サラも遅れて理解したのか、それじゃダメじゃんと呟いている。
そう、それではダメなのだ。
試しに取り付けてみたサブアームは、移動に合わせて勝手に動いた。さらには踏み込みや踏ん張りに反応して、拳を突き出したり武器を振るったり。
危なくて人様の前に出せる代物ではなかったのだ。少なくとも習熟が必要だった。
そのため、【展開式機甲翼盾腕】はミーハの中では次善の策に当たる。あるいは間に合わせだ。
今ではアイデンティティと言って良いほどに、四脚はミーハの感覚に馴染んでいる。
それを取り止めてまでサブアームを使う利点はない。何か妙案が浮かぶまでは現状のままで行く予定なのだ。
そうは言っても、ミーハの左腕が使いにくいという問題が解決した訳ではない。
ただ、ミーハもそれは理解していて、ひとまずの解決策を見出だしていた。
「次からはこれも使っていくからよろしくね」
そう言って彼女は盾の内側を見せた。
そこには四角い何かが取り付けられている。
ケースのようだ。中に何が入っているかは窺い知れない。
「それは?」
柚柚華が聞くと、ミーハは得意気に答えた。
ドローンだよ、と。
「ドローン」
サラが反芻するように呟いた。
「小さなヘリコプターが勝手に敵を攻撃してくれる」
この中で最もこうした事柄に疎い少女に向けて、ガスマスクの少女がざっくりとした説明をする。
投げやりとも言える内容だが、サラにはそれで十分だった。
なるほどと頷き、便利じゃんと感想を述べる。
そう、便利なのだ。
だがゲームにおいて、ただ便利なだけということは無い。何かしらの代償が潜んでいる。
ドローン、ミーハの物は【自立行動式クアッドコプター"ベスピナエ"】と言うのだが、これも弱点を抱えていた。それも複数の。
一つは継続運用能力が低いこと。二分ごとに充電を要するのだ。展開と収容の手間を考えれば、攻撃できるのは実質一分少々になる。インターバルが五分であることを鑑みると、いささか使い勝手が悪い。それでも手数が増えることを考えれば破格であるのだが。
それから、破損をすれば買い直しであること。それでありながら機体がとても高いことだ。消耗品として考えるには価格が高く、しかし継続使用を考えるにはリスクがある。
更には、火力自体も低いことが挙げられる。当然と言えば当然だが、自立兵器の火力は総じて低く設定されていた。それはドローンも例外ではなく。
戦術の多様性を守るためだろうが、その煽りを受けてドローン含む自立兵器は主戦力から外れていた。
『Mechanical Microcosm』の主目標はセィシゴと呼ばれるエネミーだ。奴らはプレイヤーであるイグナイターよりも高い耐久性を備えており、ドローンの攻撃では牽制が精々だった。
尤も、イグナイターの中には好んで使っている者もいる。牽制程度しか出来ないドローンだが、裏を返せばセィシゴ相手でも牽制にはなるのだ。
掲示板では不遇武器の代表格として扱われていたが、便利に使われているものでもあった。
ミーハもその情報を見た口だ。
左腕の働きを埋めるのにちょうど良いと考えた彼女は、現在生産できるドローンの中では最大級のベスピナエを用意した。
……悩むのに飽きていたということも関係しているだろう。
衝動的にドローンを購入していた。
このベスピナエ、高耐久・高機動・高出力・高価格の四拍子揃ったドローンで、ドローンにしては頑丈だ。
以前ミーハが使用していた拳銃の射撃を五発は耐えられる。他のドローンであれば三発でおシャカになるのだから、驚異的だ。……この場合どちらに驚くべきか、ミーハが困ったことをここに追記しておく。
そうしたことをミーハがつらつらと語ると、三人は微妙そうな目を向けた。
「え、要らなくない?」
端的なサラの感想。バッサリと切り捨てた彼女にセリが慌てる。
柚柚華は何も言わないが、ドローンの微妙さは理解しているのだろう。
これが対人戦主体のゲームであれば、評価はまた変わるだろうが、『Mechanical Microcosm』はPVEが主体。"あっても邪魔じゃない"程度の評価止まりだった。
あはは、とミーハは笑うことしか出来なかった。
何故なら、ここまでの戦闘でドローンが必要だったかと言えば、そうではなかったからだ。
それはつまり無くても困らないことの裏返しである。悲しいかな、それは世間の評判そのままだった。
しかし便利なアイテムであることは間違いない。
ミーハは盾の内側に格納されたベスピナエを飛ばして見せた。
小さな駆動音とともに飛翔したドローン。ビュンビュンと勢いよくミーハの周りを旋回するそれは、タブレットPCほどの大きさだ。
これがレーザー兵器で支援してくれるのである。実にSFチックでミーハは満足だった。
こうして見てみると愛着も湧いてくる。彼女に追随してくる様子はまるでペットのようではないか。
そう言うと柚柚華は首を傾げた。
セリとサラはその感覚に理解を示す。
四人と一基。まだ目的の座標までは遠いが、景色に変化が訪れてきた。
荒れ地の終わりだ。
木々が疎らに生え始め、生命の息吹が感じられた。
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