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34話:出立


「──という具合でさ」


「それはその、……大変でしたね」


 渓谷攻略作戦は失敗に終わった。

 イグナイターたちは物量の前に押し潰された形である。

 ミーハも死に戻る羽目になった。最前線で子機の群れを切り開いたのだから当然だろう。

 処理が追い付かずに群がられて死んだ。



 今はその思い出話だ。


 参加しなかったセリたちに、どのような状況であったのかを聞かせていたところである。

 まあ、結構な戦力差だ。彼女たちはドン引きであった。ミーハのやられ方のせいかもしれないが。

 だが引く程のものだろうかとミーハは思う。

 ある程度の調整をすれば、安定して子機を引っ張り出すことは可能だろう。さらに言えば、親機の位置も多少推測が出来ている。何度か繰り返せば、その内攻略できるものと彼女は感じていた。


「……そういうことじゃない」


 柚柚華が冷静に突っ込む。

 あははとミーハは笑う。


「ま、群がられて死ぬのはそんなに悪い死に方じゃなかったよ。怖いのは一瞬だったからね」


 何もミーハとて恐怖心が死滅しているわけではない。さすがに無数の子機が身体に取りついてくるのは肝が冷えた。物量であっさり押し潰されなければ、トラウマになってもおかしくはないと彼女だって理解している。

 とは言え、この段階で物量戦が体験できたのは悪い話ではないのだ。

 備えあれば憂いなし。そうは言っても備えが出来ないか、間に合わないのが世の常であって、事前にパターンを教えてもらえるのは備えるために有効だ。


「それって今日もあるんでしょ? 行かなくて良いの?」


 サラに問われて、ミーハはヒラヒラと右手を振った。その意味はノー。行かなくて良いし、行くつもりなど無いのであった。


「ええ~、なんで?」


「そうですよ。活躍したんですよね?」


 柚柚華はミーハの考えを理解したようだ。二人のように食いついてこない。


「あんまり目立つとさ、それはそれで大変なのよ。で、今回はお休み。でしゃばりは嫌われるかんね」


「ミーハだけでなく私たちもそれは言える」


「ええ~、ウチらも? なんで?」


 セリは理解したようで、天文台ですね、と呟いた。

 あまり出張る必要もない。そういうのはやりたい連中に任せれば良いのだ。

 ミーハがそう言えば、サラも頷いた。


「ま、有名人にはなりたいけどね」


 直前までとは真逆の発言に三人の視線がミーハへと突き刺さる。マジかこいつ。そう言いたげだ。

 ミーハはそんな視線をまったく無視して、窪地を登っていく。





「で、ホントに息抜きなの?」


 サラはミーハを見た。

 んー、と唸り声を出したミーハは、サラの言葉を首肯する。


 彼女たち四人が来ているのは、前線基地から見て降星城『エデルリッゾ』を挟んだ反対側。

 何もないはずのエリアだ。

 そこには拠点もなく、道もなく、降星城の落着によって荒れ果てた大地があるのみ。……ではなかった。


 ちらほらと人影が見える。

 イグナイターだ。

 彼らは荒れ地を彷徨い歩いていた。


「どうしてここへ?」


「それは彼らかい? 私らかい?」


「どちらもですね」


 ニヤニヤと笑うミーハを尻目に、柚柚華が狙いを解説し出す。


「この手のアドベンチャー的なゲームで、露骨に何もない所は逆に何かあるのが定石。何も無いなら無視して良いんじゃない。何も無さすぎるから怪しいの」


「はは~ん、なるほどね。ミーハも向こうのイグナイターも考えることは同じってわけだ」


 ミーハは頷くが、美味しいところを取られてしまったことに悔しげだ。

 柚柚華の言う通り、ミーハは動きの全く無い荒れ地に疑いの目を向けていた。

 砂漠も渓谷もセィシゴは犇めいている。だのに、荒れ地だけは何もないとは思えなかったからだ。

 これは多くのイグナイターも感じる所だったが、その広さや現状明確な目標があることから荒れ地はほとんど放置に近い扱いだった。



 降星城の落着によって生まれた窪地をえっちらおっちら歩いて登り、ようやく荒れ地の端に辿り着いたところだったのだが、サラたちは既に疲れ気味だ。

 精神的な疲弊である。

 砂漠といい荒れ地といい、やけにだだっ広いフィールドにうんざりしてしまったのだ。

 どちらも荒れ果てていて、変化の乏しい所であるのが尚更げんなりとしてくる。


「またお散歩~?」


 先駆者たちが近辺を掃除してくれているとは言え、荒れ地の大部分が手つかずだ。

 当てもなくさ迷うのは勘弁願いたいと考えるのは当然の心情だろう。

 セリも口にはしないが同じことを考えているようであるし、柚柚華も若干表情が固い。


 そんな三人に安心するようにミーハは言った。


「ふふふ、私が何も考えずに来たと思っているのかな?」


「それは、……そうですけど」


 あまりの信頼の無さにミーハは泣きそうになった。

 それから、サラも柚柚華もセリの一言にうんうんと頷いているのを見て、ミーハは目元を押さえる。バイザーになっていなければ涙を流したに違いない。


「それで、心当たりが?」


 どうフォローしたものかとセリとサラが困るのを余所に、柚柚華は早く情報を開示しろと迫る。

 ミーハはすぐに調子を取り戻して語り始め、二人は心配するだけ損をすると学ぶことになった。


「イベントがあっただろう? あそこで一つ良いものを仕入れてね」


 ミーハが言うイベントとはスタンプラリーイベントのことだ。

 三人は揃って小首を傾げる。

 アイテムを買うためにショップを巡り歩くイベントではないのか、と。


「あ! マップみたいなものを買ったんですね」


 セリがそう言うと、ミーハは惜しいと否定した。


「買ったのは情報だよ。イベント中に情報屋が出現していてね」


 この情報屋、出現条件が使った金額であるため、堅実な買い物をしていた三人は遭遇出来なかった。

 ミーハは全身を換装する勢いでパーツに投資をしていたため、出会うことが出来たのである。


 彼女が情報屋から購入したのは座標データになる。

 『639082.781346』。これだけだ。

 しばらくの間、ミーハは外れを引いたと思うことになる。が、救いの主はすぐそばにいた。


 この座標データ、天文台でマップに表示できるのである。


 ミーハは歓喜した。謎データが謎のままに終わらなかったことに。二十八万クレジットが無為に消えなかったことに。


「その表示が荒れ地の中なんですね」


 セリはすっかりやる気を取り戻していた。

 終わりの見えない旅路ではないと保証されたからだ。また、彼女の精神が少しタフになってきていることも関係しているかもしれない。

 その原因である誰かさんは適当に頷いて、先頭に立って歩き出した。


 向かう先は名もなき荒れ地の奥の奥。

 ミーハのマップでは森林との境になっている。

 そう荒れ地を横断するのだ。


 この長く辛い旅路を、三人はまだ知らない──。






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