33話:怒涛
バスタードソード2本を資材へと変えた上で、更に耐熱合金を追加で投入して打ち直した【オドノヒュー式対ビームシールド重斬機刀】。改修を重ねて強化された鋼の四脚【特式重装機甲四脚"バハードゥル"】。盾と左腕が一体となった異形の腕【展開式機甲翼盾腕】。
それから出力が大幅に向上して耐久性まで上昇したジェネレータ【アタウラ=フラゴール次元拡散理論式ティエラジェネレータ】。
イベントを走りきったミーハは大きく姿を変えていた。
右手には巨大な斬機刀を担ぎ、左腕は鳥の翼のように広がっている。四つの脚は太く大きくよりメカメカしくなり、以前がザリガニだとすれば今はロブスターだ。つまり、似た外見ながら完全に別物である。
左腕が通るように改造されたローブを羽織る彼女は、辛うじて人らしさを保っていると言えた。いや、言えないかもしれない。そのシルエットは明らかな異形であった。
ここまで人の形から逸脱しているイグナイターはそうそういまい。
彼らの多くは大型化や小型化のようなサイズ変更すらも好まない。と同時に対称性を求めている。それも大半が左右の対称であるが。
アンバランスさはうっすらと倦厭されていた。
不自然なほどに音を立てず歩きながら、ミーハは視線を集めていた。
ここは、天文台のその先。
『バダイ渓谷』と名付けられたそこには、イグナイターたちで溢れていた。
イベント中であろうと探索は休みなく行われた。天文台を中心にしてあちらこちらと彷徨い歩き、イグナイターたちは見つけたのだ。
目的地である衛星基地へと向かう道を。
バダイ渓谷、ここは峻厳な山脈に囲われた谷の底だ。見上げれば天を突く山々が並び立っている。降星城から見て切れ目のない地平線しかなかったのは、なんてことはない。この山脈が壁となっていたからだ。
現状この先へ向かえる唯一のルートがミーハたちの居る、山壁にわずかなズレがある"ここ"だった。山脈を越えんとするクライマーたちも居るものの、そちらは芳しくない。
山間を割く唯一の道。
両側を切り立った崖に挟まれ圧迫感が尋常でない。空を仰げば、両の壁が倒れてくるように錯覚してしまうほどだ。
「今日も頼りにしているよ」
にこやかな笑顔を浮かべてバルサミ=ゴ酢がミーハに声をかける。
イグナイターたちは集められたのだ。
彼らに。ここを踏み越えるために。
『姿なき"ベッセウ"』は、バダイ渓谷を閉ざす門番にも似たセィシゴだとされている。
この統率個体が細く狭い抜け道に陣取っているがために、イグナイターは未だ山脈の向こうを知らずにいた。と言うか、そもそも問題のセィシゴ自体も知れずにいた。出会えていないのだ。
メニュー画面の情報から存在は明らかなのだが、しかしイグナイターがその姿を目にしたことはない。謎に満ちていた。
彼らも情報は集めようとしている。
分かったのはトラップを仕掛けるタイプであること。渓谷を封鎖するようにキルゾーンが構築されていること。そして、本体への接触以前から攻略が始まっていること。
つまり、追い返されるのが早いせいで敵の情報はろくに分かっていないのだった。
イグナイターたちの一方的な敗戦が続いていた。
今回はイベント直後の物資的にも士気的にも潤沢な状態で、イグナイターを大勢集めた人海戦術での突破、ないし情報収集を目指すものである。
彼らも強くなった実感があったし、いくらか損失を出しても許容できるだけの余裕があった。まあ、自分が撃墜されるイメージなど微塵もわかないのだが。
盛り上がった状態で約束を取り付けたイベント延長戦にも似た催しだ。バルサミ=ゴ酢たちは上手くやったと言える。
23時の号令を待ちつつ、ミーハは重斬機刀を軽く素振りした。彼女の機体構造的に片腕で振るうしかなく、どうしても取り回しの面では一段落ちる。こうして随時確認を行い、慣らしていく必要があった。いざという時に扱えない武器など玩具にも劣るからだ。
鈍く風を切る音が注目を集めるがミーハはそれを気にしない。視線が注がれやすいのは元からだからだ。
女性であること、ゲームの補正でとは言えそれなりに見れる容姿であること、異形の構築をしていること。
下世話な視線がないとは言えなかった。そんな周囲への示威行為でもある。
舐めた真似したらスクラップにするぞ。
鋼鉄の塊を軽々と振り回す彼女に、下心丸出しで声をかける愚か者はさすがに居なかった。
『──30秒前。砲撃隊、用意』
拡声器のようなパーツがあったのか。集結したイグナイターの群れへ一瞬で指令が伝達される。
面白くないと思う者もいるだろう。だがそれでも、ある程度精神的に成熟した面々は伝わった命令に従って長射程の武器を構える。
この期に及んではごねる方が不利益。賢い彼らはそれくらいの損得を計算できる。出来ないようなのは元々呼ばれていないのもあるが。
『──カウント5。4。3。2。1。撃て』
一斉に放たれる弾丸は怒涛のごとく。
しかし渓谷を飛び抜けるものは一つとてなく、全てが何らかの罠を起動させた。
透明な壁、鋼の糸、射出される網などは乱立し、地雷にトラバサミ、撃ち上がる杭などが隙間なく埋没されていた。
爆音で轟音。爆発音に衝撃音の騒音バイキングだ。
あまりの五月蝿さに耳を塞ごうとするイグナイターも少なくない。
それでも射撃中止の命令は出ない。
何故なら、発起人たるバルサミ=ゴ酢たちは知っているのだ。音が聞こえる内は序の口。静かになってからが本番だということを。
やがて、イグナイターの何人もが弾切れを起こした頃。渓谷で罠が起動することも、設置されていたものに阻まれる弾丸もなくなった。
ようやく物量でもって多数の罠を押し潰したのである。
イグナイターたちがこれを成し遂げるのは二度目。ベッセウに挑む権利をやっと行使できる。
『──射撃停止! 進軍開始! 進軍開始!』
鬨の声とともにイグナイターが駆け出した。
待ちに待った突撃だ。喜びと戦意を滾らせ、彼らは渓谷の狭隘な道へと群がった。
前回、彼らはこの時点で戦力の過半を失っていた。張り巡らされた罠に苦しめられたためである。
ベッセウは気持ち良く戦わせてくれなかったのだ。大量の罠によって要塞化された渓谷は踏み込んだ者の帰還を許さなかった。
いや、踏み込むよりも前に破壊を振り撒いた。
イグナイターの群れを迎え撃つように、渓谷の岸壁が剥がれ落ちていく。
わらわらと吐き出されるは、自走する移動砲台。虫のようなそれは体高が1メートルほどもある。テーブルがイメージに近いだろうか。
長方形の簡単な作りで、8本の脚で岩を蹴散らして走る。背には三門の砲塔を載せ、射程に捉えるよりも先にイグナイター目掛けてぶっ放す。
セィシゴ、ではない。
あくまで子機。ただの端末だ。生産力の許す限り継続して投入され続ける数の暴力。
操っているのはもちろん、ベッセウである。
これまでに渓谷に踏み入った者は、罠にかかるか蜂の巣にされるか、それとも子機どもに群がられるか。そのどれかで破壊されてきた。
その子機どもが湯水のごとく湧いて出る。これが総力戦だと言わんばかりに。
そうして岸壁全体が崩落するように、雪崩を打ってイグナイターへと襲い掛かる。その全てが子機であり、戦力であるのだから恐ろしい。
「怯むなァ! 突撃ィ!!!」
その渦中にミーハは居た。
四脚の機動力にものを言わせ、先陣を切って渓谷へと走る。
イグナイターたちは矢のようになって子機の群れへと突き刺さった──。
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