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32話:衣装


 東側から順繰りに巡って歩き、ミーハの目に止まったのが衣服を取り扱う店だ。『インパスースタ』。そんな名前だった。


「いらっしゃいませ!」


 店主の明るい声が響く。

 イグナイターが店主のようだ。短期間で店を構えただけのことはあり、客の出入りはかなり多い。

 掛けてある商品は様々で、色とりどりの布から仕立て上げられたローブやジャケット、果てはドレスや礼服まで。ともすればコスプレ衣装のようなものまでが店中に所狭しと並べられている。


 興味がそそられたミーハは、しかし店内に入ることが出来なかった。それは何か特別な理由があるからではなく、ただ単純に混雑しているからだ。大きくて幅をとるミーハでは邪魔になってしまう。

 そのために中を覗き込みながら、彼女は店用のメニューを立ち上げた。

 少々風情に欠けるものの、こうした事態を見越して全ての店でメニュー画面からの購入が可能となっている。つまり通販のような感じだ。


 ミーハのように品物を物色している者も少なくなく、店の外に人だかりが出来ていた。そこに紛れ込むように、事実としてはそんなこと全く出来ていないのだが、彼女も店の脇に立つ。


 防具でない衣服はおしゃれアイテムであり、効果を何も持たないアクセサリ区分になる。

 つまり、飾りだ。

 ロボゲーに限らない話だがアイコンを組み上げる遊びがあったり、マーカーを自分好みにカスタマイズしたりと、飾りつけの要素は大切にされている。個性を表現する手段であり、自己を確たるものとする方策と言って良い。

 何が言いたいかと言えば、ミーハもまたそういったことが大好きなのであった。


 ただ1つ、彼女はここまであることを失念していた。うっかりしていた。

 四脚はコーディネートが限られてしまうのだ。


 ズボンを履こうにも上手くいかず、キュロットもスコートもはまらない。

 ミーハに許されるのは裾の広がったものばかりで、そういったものは必然形が限られてくる。


 四脚のような異形脚部全般は扇情的にならないように機械的に作られている。とりわけ接続部や根本はメカメカしい装いで、それらはどうにも可愛らしいタイプの服装とマッチしなかった。

 ならばクールな感じ、あるいはサイバーなものを選べば良いのだが、残念なことにこの店の傾向としてそういった種類は少なく、中々これというものに出会えなかった。


(うーん……。いっそ、マジカルな方向に進もうかしら)


 数少ないミーハの琴線に触れたもの。それは1着のローブであった。

 内側の生地がサテン地で煌めく藍色の宇宙のようなローブは、表側は至って普通の黒色でとても地味なものだ。一見すると怪しげで胡散臭い印象だが、しかしこの裏地のアクセントはミーハの感性にビビッと来た。

 丁寧な作りとサテン地が高価なのか、若干割高である。だが、他の品々と比べるとこのローブがミーハのイチオシなのだ。


 5分ほど悩んだ結果、ミーハはローブを購入した。

 その場で着替えると、これもまたメニュー画面から出来た、彼女はローブの裾を翻して『エデルリッゾ』の中央部へと向かった。


 彼女の顔は現在ゴーグル状のバイザーに覆われている。SFチックなラインの入った機械的なものだ。

 これがローブとはミスマッチに思えた。

 メカニカルなバイザーとマジカルなローブ。足元が四脚な時点で今さらだが、ミーハはその辺りを気にし出すと止まらない女だ。

 こだわりを持って、バイザーの方を変更しに向かったわけである。




 コンフィディケーションエリアへと舞い戻ったミーハは、自身の頭部を再形成し始めた。

 いくらかのクレジットが要求されたが、こうなっては必要経費である。

 バイザーが取り払われて画面に映った顔を睨みながら動きが止まった。


(このまま、じゃあ面白くないよね)


 バイザーが無い状態は最初期の設定と同じということである。それではいささか面白味に欠けてしまう。

 折角いじるのであれば、何かしらの違いを生みたい。それはリアルのミーハともであるし、先刻までのミーハともでもある。


 だがしかし、異形化パーツはデータを手に入れなければ開放されない。四脚の時と同じだ。

 三ツ目や嘴、獣耳のようなパーツを今のミーハでは選ぶことが出来ないのである。


 バイザーと普通の目、どちらを選ぶかミーハは悩んだ。どちらにしても面白味は少ないが、よりマッチしているのはどちらか考えると、やはりバイザーではなく普通の目の方が良さそうに思えた。


 姿見機能で自身を確認してみれば、そこにはローブを纏った四脚の怪物がいた。

 控えめに言って怪しげな化け物である。フードを被らなければ辛うじて……。いや、ダメだ。どちらにせよ人ではない。

 だがミーハはそのビジュアルが気に入った。

 ローブを纏った上半身に、機械の四つ足。異形の存在になれることがこのゲームの醍醐味だとすら感じていた。


「でもねぇ……」


 こうなってくると細部にまで拘りたい。

 図らずも機械と生物の融合が果たされつつある今、ここで腕を機械化してはバランスが崩れてしまう。

 ではどうするか。

 サブアーム以外の報酬をとるのか。それとも予定通りに進めるのか。

 この悩む時間が楽しいのだ。


 さらに言えば、武器にも不満はある。

 バスタードソードも大楯も間に合わせなのだ。

 とりあえず手元にあった物を使っているだけであり、折角ならここにも力を注ぎたい。

 だって格好悪いではないか。

 手にしている武具が貧弱な怪物なんて。

 ミーハのコンセプトが定まってきたのだから、それに合わせた物を見繕いたい。


「やはり大型武器ね」


 大楯はまだ良い。

 バスタードソード、こちらが問題だ。

 ずっと気になっていたのだが、ミーハの脚の長さに対してリーチが短いのだ。


 四脚の彼女は言ってしまえば常に馬上にあるのに近い。となれば、長柄の得物の方が向いているのだ。

 バスタードソードは取り回しのしやすい長さではあるのだが、どうしても不足を感じてしまう。


 しかしミーハのインベントリに、長柄の武器は入っていない。

 バスタードソードが最も大きな武器であるため、これまで使っていたのだからそれは仕方のないことだ。

 ポールウェポンの類いにしても、大型の剣の類いにしてもこれから探す必要がある。


 後回しになっていた部分に目を向け始めると止まらない。

 アクセサリだってまだまだだ。

 『蒼き星の十二面体』を着けているが、あと2枠分の余裕がある。

 3つまでなら効果を発揮出来ることを考えると、遊ばせておくのは勿体ない。

 他の店を巡れば何か出会いがあるかもしれない。


 そこでミーハは得心がいった。


(これが狙いかぁ)


 セィシゴと戦うでもなく、基地を防衛するでもなく、お散歩イベントが開催されたのにはきっと狙いがあったのだ。

 ゲームの性質上、間違いなく戦闘系に偏りが生まれる。戦うゲームで戦わない選択をする物好きは一定数居るものだが、それは少数派なのだ。普通は素直に戦える方向に進んでいく。

 だがそれだけでは多様性が無い。余裕がない。

 運営はそれを寄り道によって軽減しようとしているのだ。


 もっと他に目を向けなさい。


 そんな風に言われているようにさえ思える。



 ただ、ミーハのこの考えが正しいとすると、1つ嫌な推測が浮かんでくる。


(これもしかして、この先で謎解きとかあるのかな?)


 謎解きくらいなら良いが、進行フラグが本筋と関係ないところに忍ばされているのは勘弁してほしい。彼女はそう思った。

 生産系のことを思えば、そう有り得ない話ではない。

 なるほど、交流イベントも兼ねているのか。


(……あっ、と驚かせてやりたいなぁ)


 ミーハは運営の度肝を抜いてやりたいと、いつか仰天させてやろうと決めた。






思考が行ったり来たりしていますね。





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