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31話:装飾


 スタンプラリーイベントが始まって3日。

 ミーハはようやく参加することが出来ていた。

 初日と2日目は仕事の関係でログインする時間が長くとれず、やっとプレイ時間の確保が出来たのだ。


 降星城『エデルリッゾ』内を巡って歩く。

 普段利用しているところはさっと終わらせた。降星城中央部にまとまっていたのですぐだ。


 これからミーハは城上部のアクセサリエリア、それから嗜好品ゾーンを見に向かう。



 降星城『エデルリッゾ』は逆さの円錐形だ。

 基部である先端は衛星『α-vida』にしっかりと食い込み、中央部にはメインの施設が、上部に向けて拡張しながら様々な設備が調えられている。

 中にはイグナイターでありながら店を構えた商売人も既にいると聞くのだから驚きだ。


(まだ1週間くらいなのにね)


 一体どのようなものが売られているのか。少し楽しみにしながら、上部入り口の階段を上っていく。


 今日は、ミーハ1人である。

 セリたちと固定パーティを組む約束をしたものの、しかしながら常に一緒には居られない。彼女たちは大学のサークル仲間とも活動をしているし、『Mechanical Microcosm』以外のゲームもプレイしているから仕方のないことだ。

 残念に思う気持ちはあるが、昨日一昨日と仕事の都合で断っているのはミーハも似たようなものであるため、そういった面でも仕方ない話であった。


 上部エントランスホールはかなりの人出だ。

 ミーハと同じくスタンプラリーを回っているのだろう。視線をあちこちにさ迷わせてうろうろとしている人影が多い。


 そうした人の往来を見た時、2種類の反応に分かれることと思う。つられて高揚する者と逆に陰鬱になる者だ。

 ミーハは前者であり、混雑した交差点のような様相に笑顔を浮かべた。


 円形のエントランスホールから三方に伸びる通路と、外縁を二重に取り巻く上部の構造をマップで確認してから、ミーハは取り敢えず東側から見ていくことにした。

 東、西、南の三方はそれぞれが通路で結ばれ、アクセサリや道具、嗜好品とに分かれて店舗がまとまっている。木で例えれば枝葉となるか。これから先の拡張を夢想する。

 その内のアクセサリから見ていくのだ。




 店売りのアクセサリはデザイン性に重きが置かれている。

 もちろん性能との両立も目指されているが、中にはハズレとしか言い様のない代物もある。


「何に使うんだろう……」


 例えば、今ミーハが手にしているこれ。

 『翡翠のブレスレット』。

 これもまたハズレの一品だ。

 NPC店舗での代金を3%増加するという効果は、ミーハをしてどのように活かせば良いのか悩むものであった。

 例えばこれが、被ダメージアップのようなものであれば他の効果と合わせてコンボ的な悪用も思いつく。だが買い物の代金が増えるだけとなると、中々に厳しいものがあった。


 『翡翠のブレスレット』を棚に戻し、ミーハは商品の物色を再開する。


 このゲームの良いところとして、万引きがない点が快適だとミーハは思う。

 システム上出来ないために存在自体していないのだ。お陰で煩わされることなく品物を手にとって目利き出来るし、店主も必要以上に客を構ってこない。


 楽しい楽しいショッピングの時間である。


 スタンプラリーが主目的ではあるが、買い物の金額はミッションにもなっている。

 これもイベントポイントのため、とミーハは内心で嘯きながら棚を漁った。

 あるいはこういうところで購入する物品の数を減らすために、先ほどのブレスレットが役立つのかもしれない。


 やはりと言うか、なんと言おうか。指輪や腕輪の類いが多い。

 あまり好みではない身からすると嬉しくないラインナップだ。


 盾だの剣だのを振るう都合上、ミーハは手指の感覚を大切にしている。

 もちろん、銃を撃つ時にだって大切なのは間違いないのだが、より直接的な扱いやすさの面で影響が出やすいのだ。おそらくゲーム的な処理の関係で、銃のような手の動きが少なくて済むものはブレが少なくなるように出来ているのだろう。

 近接武装は実装されているが、ゲームの特色として銃を前面に押し出しているのだから、そのような形になっていてもおかしくはない。


 指輪腕輪を除外するとアクセサリの数は一気に落ち込む。しかし無いわけではない。

 例えばアンクレット。1つ良い物があった。

 大きなカーネリアンが填められたそれは、足首から甲にかけてを覆う金属の布のようであった。鎖が精緻に編まれ、綺麗に磨かれたカーネリアンが燃える瞳のようだ。


 これは、と思ったのも束の間。ミーハはすぐに問題に気が付く。

 四脚用ではないのだ。

 当然のことながら普通のイグナイターは二本足であり、そのアンクレットも二本足用であった。

 それはつまり、ミーハには付けられないということである。

 更に言えば、四脚は足先が爪のようになっているため、それ用のアクセサリでなければ装着が出来ない。ミーハは打ちのめされた。



 結局、ミーハはイヤリングを見ている。

 自分の好みに合わない物、自分では付けられない物を見ていても時間の無駄であるからだ。


 『エメラルドのイヤリング』。大粒のエメラルドがあしらわれたイヤリングは、キラキラと翠の輝きを放つ。コア産出エネルギー量微増の効果は強力だ。

 しかしミーハの好みではない。


 『遠き耳の追憶』は聴力低下のデメリットと引き換えにセンサーの感度が増大する。聴力低下をセンサーで補えるために、デメリットが抑えられている点は優秀だ。ただ残念なことにビジュアルが酷い。耳から耳をぶら下げることになるのだ。

 ミーハはそっと棚に戻した。


 『蒼き星の十二面体』を見て、ミーハはすぐさまそれが気に入った。深い蒼の十二面体が光を乱反射して瞬く星のように輝く様は神秘的ですらあった。思わず見とれていた彼女は、光にかざしながらそれをもてあそぶ。ああこれは当たりだ。そう直感して効果を確認すると特に何もなかった。そう、ただの光る石なのだ。だがそれで良かった。ミーハにとってアクセサリとしての効果よりも、この十二面体の美しさの方が勝っていたからだ。


「買っちゃった……」


 80万クレジットを超える高額商品をその場で購入した。衝動買いである。

 決して軽くないダメージがミーハの懐に入ったものの、彼女は後悔していなかった。

 耳元で煌めく十二面体。

 お洒落をしている。ただそれだけで心が浮き立ち、足取りが軽くなった。


 お気に入りのお店としてマップにマーカーを付けて、ミーハは店を出る。掘り出し物が見つかる店として、後でセリたちを誘うつもりであった。









 『蒼き星の十二面体』。

 十二面体にカットされたラピスラズリが輝くシンプルなイヤリング。ある程度の方向性はあれど、持ち主に染められ変化を遂げる可能性がある。


 瞬くそれは夜空にも似て。

 落ち着くそれは深海のよう。


 効果:ティエラ粒子を蓄積する。






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