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30話:告知

コロナにかかりました。





 いきなりの自決騒動に慌てた3人とそれを引き起こして反省させられたセリ。

 そんなところにアナウンスが流れる。


『──天文台復旧を確認。アクセサリシステムが解放』。


 クエストとして発生していた天文台の復旧。それが完了したのだ。

 サラと柚柚華は参加していたために、プレゼントが送られてきた。活躍したイグナイターはより豪華な報酬になるらしい。

 サラは報酬の指輪を見せながら自慢げだ。


 サラと柚柚華の報酬だった指輪は大した物ではなかったが、それでも新システムに対応した能力を備えていた。

 被光線ダメージカット率2%アップ。

 たかが2%、されど2%。他に所持していない序盤なら着けないだけで損になる。


 省られてしまう形になり、セリが若干拗ねる素振りを見せた。ミーハが「アタシもないから」と彼女を慰める。


 するとそこに更なるアナウンスが流れた。



『──ただいま、全イグナイターの皆様にイベント【天文台復旧記念! 第一回衛星『α-vida』スタンプラリー】開催のお知らせを送信しました。ご確認ください!』。



 普段のぶっきらぼうな印象と異なり、穏やかさを滲ませた音声からは気苦労が感じ取れる。

 珍しく丁寧な口調に、その場の誰もがゲーム運営からのものだと悟った。

 運営アナウンスはそのスタンスで行くのか。そう思ったミーハだが、口にしたのは別の言葉だ。


「じゃあ、確認してみようか」


 ミーハの音頭に、それぞれが自身のメニュー画面でお知らせを開く。


 しばしの沈黙。

 黙って読み込む辺り、この3人が似た者同士であるのは間違いない。

 ミーハはお知らせを流し読みした後、セリたちの様子を観察していた。

 徐々に人となりが理解できてきたからこそ、この友人たちへの興味が尽きない。こうした何気ない所作にもそのクセが現れるものだ。


(内緒だけどね)


 口にはしない。誰しも観察はしているものだが、それを表立って口にするのは愚かな行いだ。相手の気持ちを逆撫でするのは、それこそ煽る時だけでいい。

 ミーハは自身の行いが決して褒められたものではないと理解している。ただその職業柄、人を観るのが癖になっていた。特にミーハよりも若い相手にはそうしないと落ち着かないほどだ。



 しばらくして、読み終えた柚柚華が顔を上げ、遅れてサラも読み終えた。セリが最後であった。


「なるほど」


 柚柚華は知った顔で呟いた。


「よくあるものだね」


 アナウンスされた字面から予想出来るそのままのものが出されていた。

 天文台と降星城を巡ってのスタンプ集め。

 いくつかのポイントを回って歩くようになっている。集めたスタンプに応じて景品と交換をするようで、ミーハからすると報酬はそれなりに豪華に見えた。

 パーツを完品で交換出来るところが高評価だ。それはさすがに1つまでの話だったが。


「ね~、欲しいものあった?」


「スラスター」


「アタシはサブアームかな」


「私は特にないですね」


「セリは一緒だね。あんまかわいいのなくてさ~」


 景品のデザインをサラが嘆く。

 ゲームとしての性質上仕方のないこととは言え、景品はどれもがメカメカしい物であった。

 よく言っても武骨、悪く言えばオイル臭い。

 新システムに対応したパーツが含まれていようと彼女の琴線には響かなかったようだ。


 アクセサリシステムとは要するに外付け強化装置であり、ゲームの方向性としてどうしても機械らしさが拭いされていない。

 折角、好きなようにキャラクターメイキングが出来ると言うのだから、もう少しビジュアルに幅を持たせた方が良いのでは。そうミーハは思うのだが、運営は異なる意見を持っているのだろうか。


「スラスターとは何ですか?」


「推進器。アクセサリで、加速してくれる」


「ありゃ、見落としてたや。どの辺りに載ってた?」


 ミーハは柚柚華に聞いて景品一覧を探す。

 今聞いた感じでは、有用そうなパーツである。


 ソートを使いつつ見ていくと、スラスターは3種類あった。ただ、どれも交換に高いポイントを要求している。安いものでも、ミーハが目星をつけていたサブアームの1.2倍だ。

 ミーハの顔が難しいものになる。

 スラスターを選ぶとなれば他には何も交換できないと考えた方がいい。機動力の補強は確かに魅力的に映るのだが……。


 特に良いスラスターを交換するには、期間いっぱいを使って隅々まで歩き回る必要がある。

 今回のイベントで得られるポイントの最大値は2000だ。スラスターの交換要求値は1800~1950。ミーハの狙うサブアームは1500であるから、高価なスラスターはその分だけ性能に期待が持てる。


 ただ、それは取りこぼしを許さないということでもある。

 15個のスタンプと10個のイベントミッションを完遂させてもギリギリなのだ。


(初志貫徹ってね)


 結論から述べると、ミーハは必要ポイントを見てスラスターの獲得を諦めた。

 頑張れば出来るということは、頑張らなければ出来ないということでもある。

 そこに必要性が見出だせれば頑張ることも吝かではなかったが、取り敢えず最初の目的であるサブアームを優先して良いだろう。ミーハはそう判断していた。


「あ! これなんてどうですかね?」


 景品ページを見ていたセリが何かを見つけたようだ。表示モードを切り替えてそのページを3人に見せてくる。


「ライフル」


「うわあ、火力高いね」


「ていうか、厳つっ」


 『エウルラーL07 フィーラビシュ』。

 アイスランド語で象銃という名が示す通り、対戦車用の大口径ライフルだ。鉄パイプのような太い銃身に、ガッチリとした銃床、望遠鏡のようなスコープと全体的に大きくゴツい。

 厳ついというサラの感想は他の2人も同意であった。セリが担ぐにはビジュアル的に不釣り合いか。


(あれでも、逆にアリかも?)


 幼女に大斧、オーガに細剣。一見不釣り合いな体格差にこそ、魅力が宿る瞬間はある。

 人はそこに圧倒的な力を、あるいは技巧の極致を夢想する。

 それを思えば、華奢なセリに対戦車ライフルはむしろベストマッチであるかもしれない。


「コアが新調出来そうだから、今よりも火力を伸ばしたいんですよ」


「なるほど」


「火力特化とかロマンじゃん!」


「その分動けなくなるかもですが……」


「そこはアタシが盾になればいけるね」


「固定砲台か~!」


「上手く運用すれば強みになる」


 ミーハが前線を張るのは既定路線だ。今さらコンバートしようとは考えていない。むしろ頼りにされている実感が湧いて、彼女はやる気を燃やしていた。


 セリの火力が強化されることは、そのまま仲間の強化に繋がる。単体大火力は味方が居てこそ輝くものだ。そしてその輝きはパーティ全体の輝きとなる。



 彼女たちはおしゃべりを続けながら予定を立てていく。

 スタンプラリーは明後日から。1週間の開催だ。

 効率良く回って、なるべく早く景品と交換したい。そんな思いとイベントを楽しもうという思いの2つを抱えて、マップを見てあーだこーだと話し合う。


「楽しみですね!」


「そうだね!」


 ミーハの知らなかったエリアが目白押しだ。

 戦闘が好みで、それを目的に『Mechanical Microcosm』を購入した彼女であるが、しかしそればかりがゲームの魅力でないことはもちろん理解している。

 だから楽しみであった。

 友人たちと街中、ならぬ城中(しろなか)を練り歩き、店やら何やらを見て回る。かつての青春の再来だ。

 あの懐かしい日々に近いものを再び楽しめるとなれば、胸の内に暖かなものが溢れてくる。





 穏やかな表情のミーハ。

 それを密かに見て、柚柚華はガスマスクの下で寄せていた眉間の皺を緩めた。

 自分のしていることは誰かにされるもので、柚柚華もまたミーハを観察していたのだ。

 警戒心の強い彼女はどうしてもミーハに対して一線を引いてしまっていた。だがそれも、もういいだろう。

 柚柚華はミーハを理解したわけではない。ただ納得した。彼女はこういう感じなのかと呑み込んだ。


(少し血の気は多い。けど……)


 悪い人間ではない。


 柚柚華は警戒心を下げ、4人の固定パーティ化を打診することにした。








⚫『エウルラLー07』

→交換ポイント1350。


⚫被光線ダメージカット率2%アップの指輪

→ザルボバータが吐いた光線のような、光系の攻撃のダメージカット率を2%上昇する。効果は重複しない。

彫刻なしのシンプルなシルバーリング。錆びないという一点のみが誇れるポイント。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 3人組と馴染めそうで何より。 こうやって徐々にフレンドから友人になっていく過程が、丁寧に描写されているとこっちもつい嬉しくなりますね。 [一言] 最近コロナがまた流行っているようで、よく聞…
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