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29話:自決


「ええ~、声かけてくれれば良かったのに」


 嘆く少女の声。サラだ。

 声をかけてくれれば着いていったと、セリに不満をぶつけていた。冒険話を聞いて羨ましくなったのである。

 それをセリは受け流していた。

 あの時、天文台に行くからと断ったのを忘れていない。そう、誘っていたのである。サラはそれをすっかり記憶から失くしていた。

 それを指摘しないのは、言った言わないの水掛け論になるだけだからだ。


「サラ、あの時断ったのは私たちだ」


 ただ柚柚華はそれを覚えていたようで、サラの物言いを窘めた。

 あれそうだっけ、とサラは首を傾げる。

 しゅこー、とガスマスクからの排気音が大きく鳴った。柚柚華がため息を吐いたのである。




 ここは降星城『エデルリッゾ』内部のラウンジ。いくつかあるうちの1つに、彼女たちは屯していた。

 目的はとあるボスエネミーの報酬確認、及び情報共有である。


 と言っても、セリから何があったか2人に話してある。なので主はミーハの話を聞くのと、報酬品の確認だけだ。

 つまり、サラと柚柚華はくっついてきただけのおまけであった。



 自動ドアが開きミーハが入室してくる。

 彼女たちの他にはもう1組しかいない空間に、気を大きくしたのか堂々としている。

 いや、いつもと変わらないか。ミーハはセリたちのテーブルに近づくと椅子に着こうとして、そこで動きを止めた。


「ありゃ、しまったなぁ」


 ゲーム内で椅子に座ろうとしたのはこれが初めてで、故にこれまで気付かなかった。

 四脚で下半身の大きくなっているミーハは、椅子に座れないのである。

 仕方なしに床へと座る。器用に畳まれる脚を見て、柚柚華は感心の声をあげた。


「それ、どうやっているの?」


「体育座りと同じ感覚だけど」


 2本も余分に脚が付いて、関節の向きや配置だって変わっているのに、同じような感覚で出来るものか。柚柚華は内心でそう思ったが、ミーハの当然だろうという態度に言葉にはせず飲み込んだ。どうせ言ったところで否定されるだけだ。

 賢い彼女はそう割り切り、もっと建設的な話をすることにした。


「セリからは既に聞いたけど、オアシスに変な敵が居たとか」


「……まあ、そうだね」


「あれ? 何か違うの?」


 一瞬言い淀んだミーハの態度を、サラは見逃さなかった。その辺りは鋭いのだ。

 セリはミーハを見る。何か見落としがあったのか、それとも彼女が気付かないことまで見抜いていたのか。その瞳に期待の色をのせて。


「いや、ただの勘だよ?」


 ミーハの前置きに、3人は「いいから」と急かす。


「オグテデフが普通なんだと思うんだ」


「えっと、どう言うことですか?」


「セリにはアイテムの詳細を見せたけど、オグテデフは罪人だった。罪人として扱われているってことは、そうすると決めた組織があるってことでしょう? ということは、似たような連中が何体もいるはず」


 それを聞いて、柚柚華はガスマスクの奥の目を細める。


「つまり、セィシゴとは別にメインの敵がいる、と」


「あるいは黒幕、みたいな感じかな」


 ミーハの言葉を、サラは頭上にクエスチョンマークをいくつも並べて、セリはふんふんと頷きながら聞いていた。

 柚柚華はそんな2人の様子を横目で見つつ、これまでに感じていたことを話す。


「人型に近いセィシゴが交じっているのは不思議に思っていた」


 それはケンタウロス型のセィシゴやヘスディガンのような、人の上半身を有するセィシゴたちと出会って思うようになった疑問。


 すなわち、人型のモデルはどこから来たのか?


 球体のような形状は自然と生まれるだろう。四脚や六脚も陸上を歩行するとなれば行き着くものとして納得できる。

 だが人は? それも他のパーツと融合したような複雑な形状は?

 果たして、何のモデルもなしに到達し得るのだろうか。


 その疑問をオグテデフは解消した。少なくともミーハはそのように見ていた。


 オグテデフによって、セィシゴ以外の何かが『Mechanical Microcosm』に存在していることが証明された。そしてそれらは人型だ。

 セィシゴがモデルとしたものが何かを考えた時に、候補となるのは2つ。1つはアドジャストメンター(NPC)。もう1つがオグテデフの同類である何かだ。

 ミーハはその何かの方が一部のセィシゴのモデルとなったと、それから裏で操っているのだと考えた。ただ、この考えを支える証拠は見つかっておらず、完全に勘だよりとなっている。


 そうした話が続き、場の空気が停滞を始めた。


「ま、その辺はおいおい分かるっしょ!」


 それもそうかと3人が頷く。

 凝り固まりつつあった雰囲気が一気に柔らかくなった。彼女たちは一息ついて、報酬品の確認へと移る。




 素材やクレジットに関して特筆すべきことはないだろう。

 サラも柚柚華もそこはさらりと流した。あまり情報を求めすぎるのもいけない。見るべきもの聞くべきことは絞る必要がある。あくまでもミーハとセリの好意からであると忘れてはいけないのだ。


 解析が必要な類いのアイテムは既に済ませてある。

 拡張ユニットが3つ、開発派生ディスクが1枚、データディスクが2枚あった。


 まず、『四脚駆動の姿勢制御ユニット』。

 これはミーハが既に入手したものと同じだ。二脚の相手からドロップしたのは不思議だが、4人はゲームであるからと割り切ることにした。あるいは何か細かな設定があるかもしれない。だがそれは、他のアイテムの詳細をあらためることに比べれば些細なことであった。


 それから『動力送信ユニット』。

 オグテデフが頭部を切り離されても活動していた秘密の1つである。

 彼の頭部にコアがあり切断されていた以上、その身体は動きを止めて然るべきであった。だが、これと『動力受信ユニット』のおかげで遠隔でのエネルギーのやり取りが可能となり、オグテデフのボディは戦闘すらも行えていたのだ。

 余次元多重歪曲理論を活用したこのユニットは、解析によって陣営技術蓄積値というパラメータを上昇させたのだが、それはマスクデータであるためミーハたちは気付いていない。


 それと『◼️◼️◼️◼️粒子貯蔵ユニット(破損)』。

 コアが生成した◼️◼️◼️◼️粒子を一時的に貯めておくためのパーツ。この粒子と大気中の水素を結合させて、オグテデフは油のような汚液を生み出していた。

 破損しているために◼️◼️◼️◼️粒子は全て放出されてしまっている。


 そして『開発派生ディスク(頭部)』。

 読み込むことで頭部の開発先が増えるディスク。何が増えるかは読み込んでみないと分からない代物だ。


 これら4つは上2つをセリに、下2つをミーハにと分け合うことがすぐ決まった。


 データディスクは共有が出来るもので、これは皆で確認することとなった。収録されているデータはそれぞれ『罪人の罰について』、『虚空を眺める』というものである。

 内容はどちらもフレーバーテキストのような書かれ方で、4人の関心はあまり引かれなかった。



 『罪人の罰について』。

 命軽きものに、罪より重い罰を。


 『虚空を眺める』。

 永劫を見つめよ。朽ち果てぬ体と尽き果てぬ命とともに。



 ここで4人は一旦飲み物を飲む。

 お待ちかねはこれからで、プレゼントに送付されていたアイテムの確認に移るのだ。

 2人がそれぞれのアイテムをテーブルの上に取り出す。

 ミーハの前にはA4サイズの黒い板が、セリの方は黄金色の拳銃がある。どちらもそこまで大きくない。

 ギラギラと輝く拳銃の趣味の悪さに、サラは少し引いた目をする。


「なにそれ」


 黄金色の拳銃の名前は『ベトWithダッジ自動拳銃』と言った。

 許可を貰ったサラがしげしげと眺める。

 継ぎ目のない完全な金塊が拳銃の形をしていた。


「めっちゃ重いね」


 この『ベトWithダッジ』、実は弾丸が発射できない。純金では強度が足りず発砲の瞬間に歪んでしまうからだ。

 ではこれが単なる換金アイテムかと言うと、それは違う。


「これ消費アイテムみたいなんですよね」


 そう言いつつサラから拳銃を受けとったセリは、若干たどたどしい手付きでスライドを引いた。ジャキン、と薬室に弾丸が装填される。


「え?」


「何する気」


 戸惑うサラと柚柚華。セリは震える銃口を自らの胸に押し付ける。

 2人が止めるよりも前に引き金が引かれ、銃弾が放たれた。


「ちょっと!?」


「大丈夫!?」


 『ベトWithダッジ』が光の粉になって消えていく。放たれた弾丸はセリのコアを捉え、見事に貫通していた。セリの身体から力が抜け、椅子にもたれる。

 すると、『ベトWithダッジ』の光がセリの胸の風穴に吸い込まれていく。


 全ての光が吸い込まれた後、一瞬ピカリとセリの全身が輝き、それから何事もなかったかのように彼女は身体を起こした。


「これ、怖いですね……」


「大丈夫なの!?」


「今のは一体……?」


「セリ。勢いが大事とは言ってもいきなりやられたらさすがに心臓に悪いよ」


 セリの行いに、ミーハすら苦言を呈した。

 ゲームであっても突然拳銃自殺のような真似をされては反応に困ると言うもの。

 現にサラなど半ばパニックで、セリの身体におかしなところがないかを必死に探している。



「えっと、ごめんなさい。わたしは大丈夫ですよ?」


 事態が落ち着いたのはそれから十数分ほどが経ってからだ。


 『ベトWithダッジ』は撃った部位を強化するアイテムだった。セリはコアを撃ち抜いたので、コアが強化される。

 そしてそれは成功した。


 ただ、自分を撃つのには勇気が必要で、セリはそれを勢いで誤魔化した。その結果が突然の自決で、それをすぐ側で見せられた友人の心持ちがどうなるかは失念していたのだ。

 そう説明しながらセリはしこたま叱られた。サラも柚柚華も今回の行いは中々に許しがたいものであったようだ。ミーハも口を出さずに脇で見るばかり。


 セリは積極性を発揮しつつあるがそれをまだうまく乗りこなせていない。それ故の悲劇だった。

 周囲を見ることは出来ていたのだから、バランスがとれるようになれば起きなくなるだろう。



 セリは今後『ベトWithダッジ』のようなアイテムを使う際には、必ず一言了解をとるように約束をさせられた。




 ……なお、ミーハが得た黒い板も消費アイテムだったのだが、『ベトWithダッジ』のような性能はない簡易バリケードであった。






⚫投擲展開式移動型バリケード『グドウェル』

→ミーハの報酬だった黒い板。投げることで展開し、高さ150センチ横幅200センチ厚さ20ミリの壁になる。

実は再収納ができ、破損しない限り何度でも使うことができる。防衛戦では1つあるだけでとても便利。




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