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28話:断頭


 脇から見ていたセリの方が、その違和感を強く認識できていた。

 隙をついて撃ち込めるようにと、緩やかに近づいていた彼女は立場が逆転したような攻防を間近で観察していた。

 オグテデフによって滑る剣先や払われる突きを見ながら、ベストなポジションを探る。

 邪魔にならないように、かつ至近で弾丸を叩き込めるように。

 無難にオグテデフの背後に回って、セリは気が付いた。


(こちらを気にしていますね)


 それは当然のことだろう。

 浮いた駒を警戒するのが普通のことだ。だが、セリはその普通のことが気になった。

 自身に問いかけ、その疑問の解を探す。

 すると、さほど悩むことなく答えは見つかった。


(背後が……)


 背後が見えている。いや、見えているかのように振る舞っているということだが。

 何らかの手段で周囲を知覚していることはゲームだからと流していたが、やはりこれはおかしい。


 セリが試しに銃口を向ければ、オグテデフは振り向くことなく射線から身体を遠ざけた。

 もう一度試してみても結果は同じ。

 オグテデフは間違いなく銃口に反応している。


(でも何で……?)


 セリが確信を得たのとほぼ同時に、活動限界まで2分というアナウンスが入った。

 彼女はそれに急かされる心持ちになるが、それでも努めて冷静であろうとする。

 再度オグテデフが射線を嫌っているのを確かめてから、セリは叫んだ。


「ミーハさん! あいつ、こっちが見えてます!」


 それに意味があるのか、それともないのか。セリは自身の直感に従って、意味があるものとして報告をする。

 つい先ほどまでの、失望されることを恐れていた彼女とは大きな違いだ。



 そしてそれは、ミーハの思考に新たな視点を加える。



 ミーハが感じていた違和には種類があった。

 "ズレ"と"ラグ"。

 似たようなものだが、動きとしては違ってくる。


 その内の1つ、ズレについてはセリが教えてくれた。ズレの原因はセリだ。

 背後にいる彼女に反応しているオグテデフは、その動きを少々おかしなものとしていた。見えないはずの銃口を躱していたのであれば、身のこなしが奇妙なものになっていても仕方あるまい。


 あるいは銃口だけでなかったのかもしれない。セリがいること自体がオグテデフの思考パターンに変化を与えていた。それも大いにあり得ると、ミーハは考える。



『──活動限界まで残り1分』



 2人の顔に焦りの色が濃く浮かび出る。

 ミーハの身体の限界も近い。ジェネレータの出力低下は動きの鈍さとして表れており、視界には絶えずノイズが走っている。

 腰の異変は拡大を続けて背中全体の強張りとなった。腕だけで突きを放ち続けているが、それも弱々しい抵抗になりつつある。


 辛抱堪らず、セリが弾丸を放った。

 しかしそれは、オグテデフの左肩を掠めるだけで虚空へと飛び去っていく。

 奴に銃口が向けられた時には、その先から逃れていたからだ。


(今のがズレなら、ラグは何?)


 ミーハの思考は止まらない。

 解明されたズレの謎と比較して、ラグの理由へと迫る。

 オグテデフの動きにラグを感じた瞬間は多々あった。大半の動きがワンテンポ、までは行かないが半拍子遅れている。


 初めは速度差があるなら当然かと思っていた。だがすぐに、それは思い違いだと気づかされた。

 ミーハとオグテデフを比べた時に、速度で勝るのはオグテデフなのだ。であればそこに、不自然な、目に見えて分かるようなラグなど起こり得ない。

 あるとすればミーハの方にこそラグがあって然るべきで、そもそも攻め立てている状況自体が奇妙なものであった。



 残りわずかな時間を思考へと回し、ミーハは守りを固めた。リソースを残らず考察に注ぐ。


 オグテデフの胸にコアはなかった。

 射線から逃れるがそれに必死ではない。

 動きに微妙なラグがある。

 見えていないのに見えているような動き。


 ハッと目を見開いた彼女が指示を飛ばす。時間は残り少ない。


「セリ! アタシの後ろに回って!」


 セリはそれにすぐさま応えた。問い返すこともなく行動に移した彼女を見て、ミーハは満足げな笑顔になった。百点満点だ。



 セリが移動してから、オグテデフの動きにズレがなくなった。



 予想通りとミーハは勝利を確信する。

 セリの発砲。避ける素振りもなく着弾したことで、セリは驚きの声をあげた。

 転倒したオグテデフの隙をついて、ミーハはあるアイテムを取り出す。


(最初からこれがキーアイテムだったか)


 『オグテデフの頭』だ。

 それを勢いよく放り投げると、オグテデフは混乱したように暴れだした。地面に倒れ踠く姿は、さながら癇癪を起こした子どものようで。


「視界、繋がってるんでしょ」


 どのような仕組みなのか。『オグテデフの頭』とオグテデフの本体は、今でも繋がりを維持している。

 それは例えば視界がそうで。頭を持っていたミーハの向きに合わせた視界を、体の向きに置き換えて処理していたために"ラグ"があったのだ。他人の視界でゲームをプレイしていたようなもので、それでも戦えていたのは統率個体としてのポテンシャルのおかげである。


 そしてそれは、視界に限った話ではなく──。


「セリ! 撃ち抜いて!」


 さらに飛んだミーハの指示を、セリは一二もなく実行する。そこは生来の性質で、やはり指示があった方が動きやすいのだ。


 速やかに狙いが定められ、投げ捨てられた『オグテデフの頭』が撃ち抜かれる。

 その手際の良さと的確な照準に、思わずミーハは口笛を吹いた。初心者に近かった彼女があまりにも頼りになりすぎる。そんな称賛であった。



 頭部を撃ち抜かれたオグテデフは、その場ですぐさま灰へと変わり始めた。

 呆気ない終わりだ。

 セリもそう感じたのだろう。


「終わってみれば余裕でしたね」


 そう笑いながらミーハの元に近寄ってきた。





『──CONGRATULATION! 基軸空間への侵攻阻止を確認。報酬をメニュー画面、プレゼントに送付』





 ああ、やっと終わったか。ようやくミーハは肩の力を抜いた。

 彼女に余裕はなかった。バチバチと明滅する視界はとうに限界を迎えていて、最後に防御を固めたのもそうせざるを得なかったからだ。

 セリにトドメの一撃を任せたのも、それをするだけの力が残っていなかったからである。


「……試運転に来たのにこれじゃ赤字だよ」


 そう、あくまで目的は試運転。

 途中で興がのり過ぎた瞬間はあったものの、ミーハの目的は変わっていない。


「えっと、……そうでしたっけ?」


「そうなんだよ」


 まあ、だったらボスの上位個体に挑むなという話である。彼女もその辺りは織り込み済みで挑んだため、仕方ないことだと割りきっていた。


(また修理か……)


 それを思うといまいちテンションが上がらなかったが。



 それから、2人してオグテデフが残したアイテムを回収した。大量の素材といくつかの拡張用アイテム。以前に入手したものと同じで解析が必要だ。

 解析を終えてから見せ合おう。そう決めるとすぐにミーハの限界が訪れた。

 バツン、と電源が落ちるように視界が闇に呑まれ、彼女の死亡ログが流れる。


(降星城まで戻る手間が省けたと考えよう)


 ポジティブに捉え直して、ミーハは身体を再構成させた。






⚫『咎に塗れし"オグテデフ"』

→ギミックボス。分離したコア(頭部)を破壊しない限り暴れ続ける。タイムアップで通常のゲーム空間に進出+ミーハたちが頭部をオアシスにドロップする仕様だった。その場合でも頭部破壊が撃破条件。

あまり積極的に動いて来なかったのは、ミーハの視点の高さがうまく処理できなかったため。高低差が勝負の鍵。



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