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24話:種子


 ──オグテデフには石碑に登録することで挑めるようになる。

 インスタンスフィールドに跳ばされて、そこで戦うことが出来るのだ。イグナイターたちには再現ボス、なんて呼ばれ方をしている。



 ミーハとセリは揃って石碑への登録を済ませた。触れるだけで良いのだから簡単だ。

 これで条件は満たしたため、準備を整えればすぐにでも挑むことが出来る。

 セリの狙撃銃に使う弾薬が十分にあるかを確認し、ついでにミーハの拳銃も確認をした。道中で1度も使っていない拳銃は、降星城で磨いた時そのままの輝きを見せる。


「こういう時には楽で良いですよね」


 セリがぽそりと呟く。その視線はミーハの手元に向けられている。バスタードソードと大楯だ。

 弾薬を要求せず手入れも楽なそれは、ザルボバータとの戦闘をイグナイターが経験したことでいくらか評価を上げている。

 とは言え、セリは別に羨んでいるわけではないようで。狙撃銃をさする手つきは優しく慈しむようで、愛着が見てとれた。


「まあ、結局好みの問題ね」


 好み。それはゲームプレイにおいて、大きなファクターだ。好みに合わなければ如何ともし難い場面は多々あり、愛こそが障害を乗り越えるための原動力になり得る。

 愛とは小難しいものではない。武器への愛着であったり、キャラクターへの親愛であったり。

 そうした情こそが熱を生み、ゲームに向き合うエネルギーとなる。


 野暮な答えは胸にしまいつつ、ミーハは石碑を起動させる。石碑は音も光も発さず、ただただ静かに2人をオグテデフの待つ空間へと送った。


 試運転くらいのノリを超えてしまったな。ミーハはそう思っていたが、それもまた口にはしない。

 沈黙は金雄弁は銀。出来る大人は黙して語らず、ただその背で引っ張る。……まあ、彼女がそうした表現を苦手としているだけのことだが。







 それまでいたオアシスとよく似ていながら、灌木が数本生えた空間に跳ばされたミーハとセリは、泉の上に浮かぶそれを見た。


 大きな種子だ。


 それは水面の30センチほど上にふわふわと浮かんでいた。

 ヒマワリの種のような雫型のフォルムに、上端の尖った方からコードのような物が3本伸びている。


「……弱そう、ですね」


 セリの感想にミーハも同意する。

 ザルボバータはおろか、ヘスディガンにも届かないのではないか。そんな思いを抱いていた。


 ひゅんひゅんと振り回されるコードは細く頼りなく、大きいとは言っても2メートルにもならない本体は威圧感など欠片もない。


 なるほど、これは掲示板で雑魚呼ばわりされてしまうだろう。


 ちょっと特殊だが、ボスらしい貫禄がない。

 それからもう1つ、あるべき物が無いことに2人は気付いた。


「あれ? 頭があるのに……」


「首がないね」


 『オグテデフの頭』を拾い、ミーハはてっきり人型であると思い込んでいた。それはセリも同じ。しかし実際に姿を見せたオグテデフに、頭を乗せる場所などない。

 上端に乗せようにも飛び出したコードが邪魔であるし、本体はつるんとしている。

 まさか、コードの先だろうか。

 だがコードが3本あるのに対して、頭は1つしかないことを考えるといささかバランスが悪い。


 そうやって頭を悩ませるだけの余裕はあった。

 オグテデフはどうも移動しないようなのである。

 泉の上に浮かんだまま、威嚇するようにコードを振り回し続けていた。そのコードも長さが5メートルほどしかなく、範囲外に出れば全く脅威たり得ない。


 少し遠巻きにしていれば、観察をする時間は十分にとれた。

 2人して様子を見ていると、オグテデフのコードにはパターンがあることが分かってきた。


「叩きつけの後は向かって右からの薙ぎ払いですね」


「そこで一拍置くから攻撃チャンスだ」


「上からの突き刺しは」


「引き付けて盾で凌ぐから狙撃して中断を狙って」


 コアは種子のような本体の中にあり、攻撃はコードを用いたものしかない。

 上端から飛び出たコードのデザイン的な問題で振り下ろしが多く、次いで突き刺すモーションを好んでとることも分かってきた。


「セリ、行けそうかな?」


「そうですね。思った以上に」


 打ち合わせをその場で始められるだけの余裕をくれるとは、やはりザルボバータの前座に当たるのでは。ミーハがそう感じてしまうのも無理はないだろう。




 実際、基本形態のオグテデフはパーティでの強敵練習用に設計されている。

 打ち合わせの重要性を伝え、連携の大切さを教えるためのエネミーだ。情報の分析とすりあわせをしっかり行えば、容易く撃ち破れる難易度でしかない。

 さらに、盾役と近接武器への意識を芽生えさせることも狙っている。誰かが狙いを引き付けて仲間が外から叩く。基本的なパーティプレイの形を作らせようとしていた。ザルボバータに向けての布石である。全て無駄となったが。




 確認を終え、セリが静かに狙撃銃を構える。

 ほんの10メートル。さらには動かない相手。落ち着ける時間があることを考えれば、外す方が難しい。


「それじゃあ、セリのタイミングでどうぞ」


 ミーハはセリに一声かけると、触手の届くギリギリで盾を構えた。

 そして、セリが無言で引き金を引く。


 開戦を告げる銃弾が放たれ、オグテデフの上部に当たった。弾ける火花から本体の強度を推し測り、ミーハは顔を曇らせる。


(6人用の敵だから固めなのか)


 とは言え、敵が固かろうと柔らかろうと、ミーハが臆することはない。

 盾を握る手に気合いを込めて泉へと踏み込んだミーハに、オグテデフのコードが振り下ろされる。

 1、2、3。

 ミーハは内心でタイミングを計り、盾を合わせて弾き逸らす。コツは角度をつけること。真正面から受け止めるのは最終手段である。


 セリの掩護射撃が炸裂し、一瞬動きが止まったオグテデフにミーハは右手の剣を叩きつける。


「固っ!」


 あんまりな手応えに思わずぼやきが飛び出した。

 継ぎ目の無い装甲を抉じ開けて、コアを引きずり出すのは骨が折れそうだ。



 固さだけならザルボバータ以上。攻撃は単調で盾を使えば受けるに容易い。移動する素振りは全く無し。



 何度か触手をいなしつつ、ミーハはオグテデフを分析していく。事前に分かったことと照らし合わせると、その面倒臭さが露になっていく。


 試した結果、装甲を剥がすのはかなり難しいと分かった。上端から飛び出すコードまでもが一体になっているそれは非常に強固であり、かつ剥ぎ取りの起点となる切れ目がなく外しようがない。

 時間をかければ可能かもしれないが、それよりも手っ取り早い弱点を見つけたい。それがミーハとセリの共通した思いであった。


(雑魚扱いされるようなギミックがあるはず……)


 そう考えながら、ミーハがシールドバッシュを決めた時のことだ。


「あ! ミーハさん、そのまま押さえて!」


 セリの指示が飛ぶ。

 その明るい声色にミーハの身体は自然と動き、空中で横倒しになったオグテデフを押さえつける。水に浮かぶペットボトルを沈めようとするような抵抗感は、うっかりすればそのまま持ち上げられてしまいそうになるほどで。ミーハはコードで叩かれながら四つ足に力を入れた。


 ミーハが押さえたオグテデフに、セリが弾丸を叩き込む。底面に命中したそれは、今までよりも明らかに大きなダメージエフェクトを撒き散らした。

 身悶えするようにオグテデフが震える。


 セリがさらに4発の銃弾を撃ち込むと、オグテデフは沈黙した。時間がかかった割には、その最期は呆気ないものであった。

 ザラザラと灰になり、泉へと溶けていく。


「お疲れ~」


「種が割れれば楽なものでしたね」


「おや、あいつの見た目にかけたのかな?」


「ち、ちがいますよ!」


 互いを労う2人。

 と、そこに戯れを遮るようにアナウンスが流れる。



『──オグテデフを討伐しました。『オグテデフの頭』を所持しているため、以降『咎に塗れし"オグテデフ"』へと挑むことが可能となります』



 ミーハの目的は試運転であった。破損したために作り直したパーツの調子を確かめることだ。

 そしてそれは上手くいった。オグテデフを相手に盾も剣も十分に扱えたし、力任せに押さえ込む動きもバッチリだ。

 つまり、目的は達成したと言える。


「ミーハさん、どうします?」


 問いを投げてきたセリを見れば、ミーハは彼女から期待を感じた。キラキラと輝く瞳は、ここで引き下がるのはあり得ないと訴えかけてくる。

 ミーハの瞳がバイザーの奥で細められた。続いて、唇が弧の字に吊り上がる。


「もちろん、行こうよ!」


「はい!」


 目的を達成したからこそ、自由に遊ぶことが出来るというもの。

 ある意味、今からが本番だ。

 真に遊ぶと言うのであれば、楽しんで終わるべきであるのだから。


「勝つぞ~!」


「おおー!」


 昂ったテンションのままに、2人は石碑を起動させた。







⚫オグテデフ

→種子のような姿をしている。高さは2メートルほどで、周囲の長さは3メートルのでっぷりとした雫型。

上端から伸びたコードの長さは5メートル。コードの先端からは針を射出するが、ミーハがタゲを取っていたため未使用。

泉の上に浮かんで移動しないのは座標が固定されていたせい。◼️◼️◼️であるオグテデフは、砂漠で1人悠久の時を過ごすはずであった。




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