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23話:湧泉


「そういえばさ、サラたちはどうしてるの?」


 オアシスに向けて歩きながらミーハが問うた。

 別に3人がいつも揃って行動しているわけではないと知っている。ただの暇潰し。話していれば気も紛れるだろうと考えただけのこと。

 砂の海に飽きたのである。

 時折現れるセィシゴも、ザルボバータとは比べるまでもない。手間取ることもなく片付けた。


「2人とも天文台にいますよ」


 そこでセリは少し思い出すような素振りを見せた。ほんの少しの沈黙の後、彼女は明るい声で続きを話し出す。


「なんでも、天文台復旧のクエストを受けたって話してました! 降星城とリンクさせるとか、防護用の設備を充実させるとか……。もうすぐ転送先に選べるかも、なんて聞きましたよ!」


 思った以上にしっかりとした情報が飛び出した。それを聞いたミーハは目をパチクリとさせる。

 天文台までテレポート出来れば移動はだいぶ楽になる。そもそも、先を攻略していくには必須と言えるだろう。

 これにはミーハも、手伝うべきかと考えてしまう。

 ただ、彼女は戦う方が得意であり好みだった。そんな自分が手伝ってはかえって邪魔ではないか。ミーハの脳内にそんな考えが過る。

 無理に付き合う必要はないだろう。しかし、あまり非協力的な姿勢でいるのも大人としてどうなのか。

 欲望に従うか、理性に応じるか。ミーハの心が揺れ動く。


「……セリはこの後手伝いに行くの?」


 他人の意見に縋るのはみっともないと思いながらも、ミーハはセリの方針を聞く。


「いやあ、行かないですね」


「え?」


 予想外の回答にミーハは目を丸くした。

 この少女はそういった付き合いが良いものとばかり思っていたが、そうでもないのか。

 驚くミーハにセリは伝える。育成ならともかく生産系は得意でないのだと。


「意外でした?」


 悪戯めかした顔で少女は笑う。

 その眩しい笑顔に、ミーハはなんとなく力が抜けるのを感じた。


「……ええ、とても」


「でも我慢することでもないでしょう? 少し適当にやろうかな、と」


 誰かさんは悪いことを教えたものだ。ミーハがそう呟けば、セリはおかしそうに口元を隠した。




 遠くから銃声が聞こえる中、ミーハとセリは2人歩く。視界の端に動く影が現れることはあるが、わざわざ近寄って来はしない。


 他愛のないおしゃべりを続けながら砂の海を踏みしめる。

 だらだらしゃべり、セィシゴを破壊し、ひたすらに歩く。ただその繰り返し。

 早く天文台までテレポートさせてくれ。ミーハは心の底から祈った。祈る先が運営では当てにならないが。



 ミーハはセリから色々な話を聞いた。


 ののはの近況もその1つ。

 生産系に強い彼女に、セリたちは復帰の誘いをかけたそうだ。しかし断られてしまった。今はアイドルをプロデュースするのにはまっているらしい。もちろん、ゲームの話である。


 それから、天文台の様子について。

 ミーハはこれはバルサミ=ゴ酢経由でも聞いていたが、中々どうして大変らしい。


「要求がシビアだって言ってました!」


 生産系が本格的に開放されたようで、出来ることが一気に増えすぎててんやわんやであるとか。

 覇権やハズレなんて区分もされつつあり、揉め事も少なくないらしい。


「行きたくないね」


 ミーハの天秤は容易く傾いた。



 そうこうしているうちに目印まで辿り着いた。

 灰色の世界と言って良い砂の海で、青い岩はよく目立つ。

 この岩の奥にある砂山を越えると、窪地の中にオアシスがある。

 2人は何事もなく砂山を踏破し、ついにオアシスへと到着するのであった。





「やあ、こんにちはぁ」


「こんにちは?」


 オアシスへとやって来た2人を出迎える者がいた。

 白いハットに白いジャケット。白のパンツに、革靴まで白く決めた男は、親しげな様子でミーハたちに挨拶をする。

 怪訝そうな面持ちで挨拶を返すミーハだが、目の前の男は不思議なことに見覚えがある。だが、どこで見たかを思い出せない。度忘れしてしまったあの感覚だ。


「ええっと……?」


「バルサミ=ゴ酢さんのフレンドのにゃるらとほいっぷさんですよね!」


 喉元で詰まってしまったミーハにセリが助け船を出す。

 この白い男、にゃるらとほいっぷは天文台攻略戦の後に1度顔を合わせていたのだ。

 あの時は瓦礫や砂に塗れて白さが失われていたために、ミーハは記憶を呼び起こせなかった。


「そうそう! よく覚えていてくれたねぇ、嬉しいよ。2人もオグテデフに?」


「そうですね! にゃるらとほいっぷさんもですか?」


「長いからいっぷで良いよぉ」


 そこで切るのか、とミーハはツッコまない。純真なセリは素直に受け入れた。

 ネタが受けなかったことに、にゃるらとほいっぷは少々肩を落とす。


「……まあ、ここはオグテデフくらいしかないからね」


 彼が言うように、オアシスはこじんまりとしていて見るべきものはないように思えた。

 一畳ほどの泉と少しばかりの苔。それから成人男性の背丈ほどの石碑。オアシスにあるものはそれで全てだった。

 ここにオアシスがあると聞いていなければ見落としていただろう。ミーハはそう思った。


「あの石碑に登録すると、オグテデフに挑めるようになるよぉ。別次元の空間に飛ばされるみたいで混雑の心配がないのは嬉しいよね。……ああ、ザルボバータも条件を満たせば同じようになるはずだとかいう噂があったねぇ」


「なるほど」


 彼が説明してくれたお陰で石碑の前で立ち尽くす心配は消え失せた。

 ミーハたちは石碑に触れれば良いらしい。


「2人でも勝てるだろうけど、気を付けてねぇ」


 見送られ、ミーハとセリは並んで石碑へと向かった。

 なお、にゃるらとほいっぷとはフレンド登録を交わしている。ねっとりとした口調だったがその視線に嫌なものはなく、これからも関わっていけそうだというのが2人の共通した意見だ。


「いいおじさんですね!」


「そうだね。……おじさんなの?」


「多分……。自信ないですけど」






⚫にゃるらとほいっぷ

→全身白づくめの男。服装のインパクトで顔を覚えられることは少ない。

バルサミ=ゴ酢、白イ=ス恋人、あ砂糖す、ヨグ=ソトーストらとパーティを組む。


オアシスに居たのは全くの偶然。天文台の復旧から逃げ出してきた。




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