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22話:探索


 前線拠点を出たミーハは、1人荒野を探索していた。目的地までは今しばらくかかりそうだ。

 ふらりふらりとあちらを見てはこちらをさ迷い、隅々まで調べ尽くそうとしている。時には瓦礫を掘り起こしすらする念の入れようは、いくらか偏執的であった。


「……えっと、何をしているのですか?」


 そんなミーハに後ろから声をかける者がいた。セリだ。

 彼女もどうやら1人のようであった。偶然出くわしたというよりはミーハを探してきたように見える。


「見ての通り探し物だよ。……セリはどうしたの?」


「少しお話したくてミーハさんを追いかけてきました」


「お話? メッセージじゃダメだったのかな」


 ミーハはそこで手を止めて、セリの方へと向きを変えた。


「ごめんなさい」


 そう言って彼女は頭を下げた。

 ミーハは守ってくれたのにあの振る舞いはさすがに甘えが過ぎた、と。三脚代わりに狙撃銃を撃ったのはやりすぎだったと反省していた。


 ミーハは困ったように笑う。

 別に大したことではないと思っていたからだ。謝られるようなことだと考えていなかったからでもある。彼女にとってはゲーム故の戯れであり、じゃれあいの一環として認識していた。つまり、悪ふざけだ。

 ただ、謝られて悪いようには思わなかった。それが笑みとして溢れたのである。


「いいよ、気にしてないし。友達っぽくて嬉しかったし」


「友達でも礼儀は必要だと思います! だから……、ごめんなさい!」


 思った以上の生真面目さに、ミーハの目が細められる。バイザーに隠れて見えないが。

 ミーハの言葉は届いていたのか。皮肉げに彼女の口の端が歪んだ。


「真面目だね」


「迷惑かけちゃったと思うので」


 ミーハの身体が固まった。


「ゆるく楽しむにしても迷惑かけない範囲でって、ミーハさん言ったじゃないですか」


 ふうっ、とミーハは大きく息を吐き出した。

 それから空を仰ぐ。

 彼女の負けだ。

 セリはきちんとミーハの言葉を受け止めた上で、自分を曲げずにいた。それを規格の合わない物差しで測ろうとしたミーハが愚かであったのだ。


「アタシこそごめんね。ちょっと意地悪な見方してた」


「そんなことないですよ!?」


「そんなことあるんだよ。セリはそのままセリでいな」


 混乱するセリを見てミーハは笑う。その笑顔に苦さも困惑もない。スッキリとした青空のような笑みにつられてセリも笑いだした。








 一段落したところで、探索再開である。

 セリも加わり人手は2倍だ。


「──それで、何を探しているんです?」


 セリの問いにミーハは答える。頭だよ、と。

 答えのようで答えになっていない答えにセリは困惑した。ミーハの頭はきちんと付いている。ちょろっと確認したがそれは間違いない。


「ヘスディガンを倒した時にね、マップに記入されたんだ」


「それって車輪のですよね?」


「そう、車輪の。それで『オグテデフの頭』って言うのがこの辺りにあるらしいんだけど……」


 ミーハの口から出たアイテムの名前に、セリは少し怪訝そうな顔をした。


「オグテデフってオアシスのボスですよね。何で頭を落としているんでしょうか」


「さあ?」


 不完全なんじゃない、とミーハは気のない返事をする。彼女の気持ちはアイテム探しにしか向かっていないようだ。


 2人して辺りを見回す。

 瓦礫が集まっていた場所は探し終えてしまった。そこには大したものはなく、あるのは石ころや枯れ木の枝、スクラップのようなゴミばかりであった。

 あとは砂ばかりであり、セリは少々肩を落とす。マップが間違いだったのではないかと、疑いすら持ち始めていた。


 げんなりした彼女が少し遠くを見ていた時のことだ。砂山に何かが埋もれていることに気が付いた。


「ミーハさん、あれ!」


 オアシスの方には背を向けて、少し離れたところにあるから分からなかったのか。

 2人してそれに近寄り、恐る恐る引っ張り出してみる。

 砂から出てきたのはボウリングのボール大の金属塊であった。砂を払ってみれば、確かに顔のように見える。


「これだよ、セリ! よく見つけたね!」


「いえ、偶然ですよ~」


 褒められて照れるセリの肩をミーハは何度も叩く。

 そうして戯れた後、2人はアイテムの詳細を確認することとした。




 ──『オグテデフの頭』。

 ボウリングのボールほどの金属塊であり、なにやら粗雑な彫刻が施されたそれは分かたれた核である。

 あるべき場所に戻った時、罪人は枷を外し真の姿を取り戻すだろう。


 咎に塗れし"オグテデフ"。それが貴様らの恐怖の名だ。




 意味深なテキストを読み、ミーハは少し考える。

 毛色が違うと言えば良いだろうか。これまでに見てきた物とは一線を画す変わった書かれ方に、何か意味があると感じたのだ。ザルボバータよりも余程世界観の深いところに関わっているように思える。

 それはセリも同様で、ミーハの隣で頭を悩ませていた。


「なんだか」


 やがてセリが口を開く。思考をまとめるように、あるいは勝手に漏れ出したように。

 溢れる言葉にミーハは耳を傾けた。


「なんだか妙ですよね、罪人って。まるでセィシゴじゃないみたいじゃないですか。いや、セィシゴが人みたい? 動物とは全然違うのに……。でも機械生命体って言うくらいですし、やっぱり生き物なのかも。妙に人に似ているのもいましたし、でも球体とか十字とかは生き物らしくなかったですし違うのかな……」


「人型部分は気になるよね」


「ですよね! あ……」


 我に返ったセリに、気にするなとミーハは笑顔を見せる。思考の海に沈んだセリの言葉は、ミーハに考えるきっかけを与えてくれた。

 さらに言えば、1人でヒートアップしていたことはセリにとって恥ずべきことかもしれないが、ミーハにとっては面白がれる一要素でもあった。


 それに見るべきところは分かったように思える。

 人型部分。

 球体や十字のような形状と比べて複雑かつ面倒なそれは、自然と形成されるようになるとは考えにくい。

 そうなる前に辿り着くべき形は他にいくらでもあるだろう。それに最大の武器である腕部が存在していなかったのは何故だろうか。

 やはり、段階をすっ飛ばして人型に行き着くのは、ゲームと言えど、いやゲームだからこそ何か仕込みがあるに違いない。

 ミーハはそう考えていた。


 当然その思考はセリにも明かす。

 秘密は潤滑油たり得ない。

 嘘は時に必要なれども、秘密はろくな結果を生まないとミーハは嫌っていた。

 そうして正直に話をし、考えた上での結論がこれだ。


「セィシゴって何なんでしょうね」


「何なんだろうね、ホント」


 2人して小首を傾げて視線を交わす。


 宇宙空間を行き来できる、機械の体をもったセィシゴ。コロニーを襲い陥落させた機械生命体について、まだまだ明かされていない秘密がありそうだった。


 そもそも本当に機械生命体であるのか。



 ミーハは手にしていた『オグテデフの頭』に視線を落とし、にいっと唇を三日月に歪めた。


「よし、まずはこの頭を持っていくとどうなるのか。試してみよう!」


 ミーハとセリは、オアシスに向けて連れ立って歩きだした。







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