21話:再誕
不規則なリズムで足音が響く。
ミーハは今、降星城へと戻っていた。破損したパーツの修理及び交換、それから改修のためである。
ミーハの両腕はその場で投棄しておりロスト扱いとなっている。ロストしたパーツは新規で獲得する必要があり、今回の戦利品に条件と合致するものがなくミーハの両腕は新たに用意する必要があった。
投棄は軽々しく採れない選択肢なのだ。
デッドウェイトになるが後のコストは抑えるか、あるいはその逆を採るか。その場の判断が正しかったかは後になって初めて分かる。
スッキリしたようなミーハの顔を見れば、彼女がどのように考えているかは想像がつくだろう。
とはいえコストが重いことに変わりはなく。その点に関してはミーハも頭を悩ませていた。
両腕の新造に頭部と脚部の修理。脚部については形状の影響で通常の二脚パーツ以上にコストがかかる。
クレジットはカツカツだ。
天文台攻略が完了した報酬にザルボバータの破壊報酬を合わせても余裕は少ない。まあ、イグナイター同士でのやり取りであるから仕方ないものだが。
しかしミーハは、そのわずかな余裕さえも注ぎ込んで自身の強化を行うつもりであった。
「宵越しの銭は持たない、ってね」
別に江戸っ子ではないがそういう気質なだけだ。ゲーム中のミーハは資金を使いきるタイプである。それは『Mechanical Microcosm』でも同じであった。
また貯めれば良い。そんな思いで彼女はモディフィケーションエリアへと入る。
三本脚での歩行にもだいぶ慣れた様子であった。
部屋の中は初日に比べれば随分と空いていて、入室したミーハへと向けられる視線もほぼない。皆が自分の機体に意識を集中していた。それを妨げないよう、ミーハは足音に気を付けてコンソールへと近付き、思考操作で立ち上げた。
手を使わずとも視線を向けるだけで操作が出来るのはゲームの中に入り込んでいるからこそのこと。
他のゲームで似た系統の操作方法に親しんでいたミーハはすぐさまカンを掴み、するすると操作していく。
タブが開き、初期装備+脚部の修理代の予算が出された。さすがにこれは賄えるようで、ミーハは1つ頷くとさらにいじっていく。
その時、ミーハはふと思った。統一感って大事だな、と。
『Mechanical Microcosm』のキャラクタークリエイトではイグナイターとしての身体を作る時に、ロボ感の度合いを複数段階から選ぶことが出来る。最低値では人間そのままに、そこからペイントや一部機械化、アクセサリの装備などメカらしさが足されていく。
ミーハは最低限のメカらしさとして眼球に模様を残していたが、正直自分からは見えない部分であり誰からも指摘されなかったために実感はなかった。そんな機体だが、四脚になったことで外観の人間らしさは以前よりも薄まっている。そしてそれを変えるつもりはないと来れば、そこに合わせたデザインへと持っていくのはありではないか。ミーハはそのように考えていた。
(全面的にロボ感押し出すのはねぇ。折角作ったんだし人間らしさは残しておきたいかな)
頭部を作り直すのに合わせて、デザインも直していく。ベースから大きく変えなければ少しのクレジットを追加するだけで済むのはありがたい、とミーハは上機嫌だ。
「顔はこんなもんかな」
続けて脚部を修理し、さらに腕へと取りかかろうとしたところで、ミーハにとある問題が襲いかかる。
ジェネレータの出力が不足しているのだ。
初期パーツのままであれば、両の腕は問題なく繋げられる。それはこれまでと同じだ。
だが、より良い性能を求めてアップグレードを図るとなるとそうはいかなかった。
ミーハが特典として得ていた【アタウラ=フラゴール式ティエラジェネレータ】は、所詮初期パーツに毛が生えた程度の出力でしかない。いつまでも使い続けられる性能ではないのだ。
ミーハの考えていた腕パーツを着けようとすれば、確実にエネルギー不足に陥ってしまう。
「……どうしようか」
悩んだ末に、彼女は初期パーツの腕を選んだ。
ワンランク上へのアップグレードは諦めたのだ。資材を蓄えて来たるべき時に盛大にランクアップさせることをミーハは誓った。貯める時は貯める。社会人になってようやく出来るようになったことであった。
修理の完了した脚部と、新造した各部パーツをセッティングする。
ロボらしさを求めてデザイン変更した頭部は、目の部分を覆うバイザーが付けられた。サイバーパンクな感じと言おうか。ゴーグルのようなバイザーは顔面と一体になっており、奥にぼんやりとした薄い緑の光が見えた。なお、外見こそ変わったものの、中身のスペックは変化無しである。
両腕のデザインは変わらずだ。
すらりとした腕はとても武器を持つようには見えない。肉がつきやすい身としては羨ましくてたまらない、とミーハは内心でぼやく。
唯一変更点として上がるのは、左腕の【内蔵式パイル】だ。これまで便利な隠し武器として運用してきたが、この度左腕からおさらばした。
理由としては、大盾を運用するにあたって装備の部位が被るということがある。盾を手放さないのであれば、パイルは持ち腐れとなってしまう。
そのため、ミーハはここで外すことに決めた。
外したパイルは修理をした脚部に移植をした。
右の前脚に仕込んだのだ。
体高が高いミーハは、下方向への攻撃が他に比べて苦手である。それを補うためでもあった。
ミーハは完成の後、感触を確かめるようにその場で2度3度足踏みをし、さらに空へと拳を突き出した。
小首を傾げてから、追加のパンチを繰り出す。
今度は得心がいったようで、満足げに頷くと自分がどこに居るのかを思い出したようだ。
集まる視線にペコペコ頭を下げて、そそくさとモディフィケーションエリアを退出する。
(試運転にピッタリの敵がいる)
ミーハの脳内に浮かぶのは、とあるセィシゴの情報だ。
聞いた通りであれば、試しの相手としては丁度良い。
なにしろ再びザルボバータに挑むのは手間であるし、第一単身で挑むのは少なくとも現時点では自殺行為である。
ケンタウロス型では物足りないし、歯応えある敵であることを願いながらミーハは前線拠点から駆け出した。




