19話:背中
赤い光がセリの視界を真っ赤に染め上げる。
光線は空気を焼き大地を焼き、しかし彼女を焼けなかった。
ぎゅっと瞑っていた目を怖々開いた少女は、そこに英雄の背中を見る。
「間に合った!」
怒涛のごとき赤色の奔流を盾1つで押し退けた彼女の英雄はそう言ってにこりと笑った。
悠久のような一瞬の中で、セリは笑い返す。待っていました、と。
サラは直視してしまった。友人が光に飲まれるその瞬間を。
咄嗟に助けようと、赤光に飛び込まんとした彼女を、もう1人の友人である柚柚華が止める。
彼女はサラの肩を掴んで叫んだ。
「大丈夫!」
どこが! 助けないと!
サラがそう食って掛かろうとした瞬間。
光が爆ぜた。
それまでの二射と同じように、土砂を巻き上げて瓦礫を吹き飛ばす。イグナイターをもまとめて転がした。
あちらこちらで苦しげな声が漏れ、呻き声がそこかしこで上がった。それはサラたちも同じ。
大きく吹っ飛ばされ、慌てて起き上がりながらサラが叫ぶ。
「セリ!」
「大丈夫だから!」
大丈夫。そう何度も繰り返す柚柚華。
その口振りの力強さがサラの動きを止めた。一体何を確信しているのか。そんな疑問が湧いて出る。
次第に落ち着きを取り戻してきた彼女に、柚柚華はさらに続けた。
「大丈夫。来たんだよ」
一拍置いて、サラの目が見開かれる。
本当に? 声にならない声が出た。
それは期待していた展開。都合が良すぎるからと排除した願望。それがまさか。
サラは爆煙の向こうを透かし見ようとする。
柚柚華の言う通りであれば、彼女たちはそこに居るはずだ。
──ゴウッ、と風が吹いた。
煙が晴らされ、爆心地が露になる。
地面に座り込んだ少女と、それを守るように立つ異形の何か。
真実、守ってみせたこととそれが味方であることを、サラと柚柚華は理解している。知る姿とはいくらかシルエットが異なるものの、あそこに立つのは間違いなく2人の仲間だ。
「ミーハ!」
大盾が、掲げられた。
それを見た時、バルサミ=ゴ酢の胸に去来したのは歓喜であった。
爆発に巻き込まれて崩れた天文台新館から這い出た後、彼ら内部侵入組は再編成を行った。
諦めなどとは程遠い。
脱落したのは5名。戦力としてはほぼ半減ながら、その瞳には依然闘志が燃え盛る。
彼らは一様にザルボバータへの反撃を望んでいた。ぶっ潰してやる、そう息巻いた。
バリアを目にしてもその意志は折れず、むしろ面白いと歯を剥いて笑ったほどだ。
だがそれは現状把握が出来ていなかった故のものではない。勝ち目が薄いことは理解して、それでも彼らは笑顔で銃を撃った。
だからかもしれない。
ある意味最も真摯に遊んでいた彼らは、それを見て強い衝撃を受けた。
その発想はなかったと感心した。
「おいおいおい……!」
「マジかよ」
「なんで無事なんだよ!?」
「え、ガードした? はぁあ!?」
動転する仲間たちを尻目に、バルサミ=ゴ酢は1人得意気だ。
それも当然だろう。彼は一番見たかったものを見られたのだから。
期待通りの予想以上。鼻高々になってパーティメンバーを見回した。
「どうよ、俺の目に狂いはなかっただろ!」
そして先頭になって駆け出した。
期待していたものを見たのなら、その次は期待されたように振る舞う番だ。
混乱する戦場に、精鋭たちが舞い戻る。
役者は揃った。
蛇体をくねらせるザルボバータに、イグナイターたちが一丸となって立ち向かう。
弾丸が乱れ飛び、そしてバリアに阻まれる。だが先刻とは異なる部分があった。
「弱まってる!」
「行けるぞ!」
ザルボバータの棘が纏う雷光のようなエフェクトが、徐々に強さを失いつつあったのだ。
それがイグナイターの背中を押す。
「押せ押せ押せ!」
絶望など何するものぞ。
さらに勢いを増して銃撃が行われる。
それが正解だ。
飽和攻撃によってザルボバータはバリア頼りの防御に出ざるを得なくなった。消耗は進み、加えてビームを撃つのもままならない。
やがて、雷光のエフェクトが消え去る。
「チャンスだ!」
「行けー!」
バリアを生む棘。それを折らんと火力が集中する。
1つ誤算があったとすれば、エフェクトが消えるとダミーの棘に紛れてしまうことか。お陰で破壊できたのかが確認できない。
「オラオラオラァ!」
「覚悟せぇや!」
しかしそれも全て壊せば同じこと。
丸坊主にせんとイグナイターたちは暴れまわった。
とはいえ、80メートルにもなる巨体だ。
ザルボバータの棘は破壊しきれず、その蛇体はうねり再起動を果たす。
爆発的な排気を伴い、エフェクトが再度纏われる。バリアが展開された。光る棘は残り4本。
希望は見えた。後はそこに手が届くか。
生存しているイグナイターは2/3を割った。
初手の混乱が響いている。
さらには弾薬の余裕もない。
使えば減る。それが常識で、湯水のように使われたばかりなのだ。
当然目減りをしたわけで、一気呵成に攻めると即断できない程度の量でしかなかった。
セィシゴやイグナイターは、極論コアが無事ならば稼働できる。なぜなら機械であるからだ。
エネルギーを供給するユニットが持つ限り、戦いを続行することが出来る。
ミーハが参戦出来たのはそれが理由である。右腕を喪失し顔の右半分を破損した彼女は、しかしまだまだ動くことが可能だった。ダメージによる動作障害がないわけではない。
それでも盾になろうと天文台まで駆け抜けて来た。
そしてそれはザルボバータにも言える。
棘を折られようと、体躯に弾丸を撃ち込まれようと奴は止まらない。
必要なのはコアの破壊。
あるいは完膚なきまでに機体を打ち壊せば止められるだろうが、そうするよりもコアを狙う方が遥かに現実的だ。
コアの場所は誰もが想像した通りの蛇体の先端。ビームを放つ砲口の根本に、ジェネレータユニットは格納されている。
問題はそれをどうやって破壊するか。
先にバリアを排除するのか、それともコアを狙い撃ちにするか。
方針に迷いが生まれ、イグナイターの統率に乱れが生じる。あるいは先ほどの焼き直しとなるか。
そんな心配は暗雲となり、さらに指揮を惑わせる。
──混乱の中、単身飛び出す影があった。




