18話:赤光
「突入開始!」
午後10時5分。
天文台への突入が行われた。
内部侵入班は2パーティ全12名。フルメンバーである。その中には、ミーハを天文台攻略戦へと誘ったバルサミ=ゴ酢の姿もあった。
「しかしゴ酢イチオシの四つ足おねーさんに会いたかったんだがなあ」
「俺も俺も」
「来れなかったのは仕方ないだろう」
「代わりに来た子らは戦力になるのか?」
「いやまあ、モチベーターにはなるでしょ」
彼らは軽口を叩きながらも油断無く物陰を確認していく。明らかに手慣れた動きだ。
ものの数分で天文台の構造図を探しだし、周辺のセィシゴを統率するだろうボス個体の居場所に目星をつけた。
「天文台奥はスペースが不十分だ。ここに居る可能性は低いだろう」
「小さい奴なら?」
「俺たちが入りきらん。初っぱなはある程度王道な感じで来るはず」
「じゃあ、東側にある新館かな?」
「まずはそちらから探索しよう」
「異議なし」
「新館の1階で二手に分かれよう。統率個体に遭遇した場合は合流を優先」
「了解」
バルサミ=ゴ酢が向かうのは新館2階の大会議室。なお、本命は地下1階の資料庫だと考えられた。
階段を上り、扉を開けた一行を待ち受けたのは何もない空間であった。机も椅子もなく、セィシゴもいない、空っぽの部屋。
「こちらは外れか」
であれば、地下に降りた面々と合流をしよう。
そう考えて階段まで戻った時のことだ。
ズドン……、と下から突き上げる衝撃によろめき立ち止まる。地下で戦闘が始まったのか。そう考えた彼らは慌てて階段を駆け下りる。すると、その先で駆け上がってきた地下組との合流を果たした。
「なんだ今の!?」
「お前らじゃないのか!?」
混乱を加速させるように再度衝撃が走った。さらに断続的に振動が続く。壁が軋みをあげた。
地震、というより巨大なトラックが至近を通過した時のような感覚であった。
何か大きなものが動いている。
では、それはどこに居るのか。
天文台の中ではない。伝わる震動から、建物をぐるりと囲むように動いているのが分かる。
バルサミ=ゴ酢たちは窓に取りつき、外を見た。
何かが動いている。何か、大きく長いものが。
鎌首をもたげるように持ち上がったそれの先端が瞬くように輝いた。
「あ」
赤い光が放たれ……。
──天文台新館の一角が爆発した。
『うねる巨躯の"ザルボバータ"』。
天文台はフェイク。真に倒すべきは、その周囲を取り巻くように砂に潜っていたこの大蛇のごときセィシゴである。
これこそが統率個体。
外の敵が少なかったのは、メインのフィールドが天文台外縁になるための誘導であった。
砂を振り落としながらザルボバータが浮上する。
出現条件は2つだ。
1つは時間経過。建物に侵入してから10分間外での戦闘状態が継続されること。
もう1つのトリガーは新館地下1階の書庫への立ち入りだ。その近くに頭があるため、侵入者を察知してザルボバータは動き出す。
全長80メートルの巨体が地響きとともに姿を現した。
百足のように多数の節が連結した長い身体に、棘のような突起をいくつも持ち合わせた異形の怪物。足が無いため蛇と表するのが適切だろうか。しかし、どこか蛇とも異なる印象を受けた。
誰もが呆気にとられていた。
他のセィシゴすら動きを止めていただろう。目を奪われ、ただぼんやりとそれを見ていた。
大きさ故に緩慢に見える動作でザルボバータが鎌首をもたげる。
ゆらりと揺れた先、照準は天文台へと向けられて。
チカチカと瞬いた後、放たれた赤い光とそれに続く爆発はイグナイターたちの度肝を抜いた。
「ビーム兵器だ!」
存在が仄めかされていたものの、まだ手の届かないロマンの塊に周囲は色めき立つ。
納得した役割分担であったが、どうせなら活躍をしたい。それがあんなにド派手なボスが、わざわざ出てきてくれたのだ。
戦わない方が無作法と言うもの。
熱狂に当てられたように、イグナイターたちがザルボバータへと殺到していく。
瞬間、爆音が迸った。
瞬間的に熱された空気が弾け、群がっていた連中を吹き飛ばす。
ザルボバータ各部の突起が明滅し、雷光のようなエフェクトを纏っていた。
咆哮のような排気音を撒き散らし、ザルボバータが動き出す。その速度はゆっくりとしたものながら、巨大さ故に轢き潰される者もいた。
慌てて距離をとりながらイグナイターたちが応戦し始める。
総力戦だ。天文台の周囲を制圧しようとしていた44名全てが一丸となって攻撃を仕掛ける。
乱れ飛ぶ弾丸。しかしそれは届かない。
「バリア、か……?」
6つの突起が光を放ち、ザルボバータに迫る弾丸がその軌道をねじ曲げられた。攻撃が、逸れていく。
この時点で、天文台攻略戦へと参加していたイグナイターたちの士気は大いに挫けていた。
圧倒的な巨体と派手なビームに加えて、特殊な防御まで備えているとくれば、萎え落ちする者が出るのも仕方ない話かもしれない。
下がる士気に活を入れるように、天文台から砲撃が飛んだ。
天文台内部に侵入したメンバーが復帰したのだ。欠員は出ているものの、最精鋭が戻ったことで戦場に活気が蘇る。
軌道を逸らされようと当たるのではないか。そう思えるほどの飽和攻撃が地上から飛ぶ。
弾丸の雨が空に向けて降っているようだった。
そしてそれらは全て歪められる。
不可視の力場をなぞるように。
透明な鎧がそこにあるようだった。
「そんな……!」
ギミックボス。そんな単語が何人もの脳内に浮かび上がった。
見落としがあるのでは。あるとすればそれは……。
意識を外したのがいけなかったのだろう。
あるいは手を緩めたせいか。
再度の輝きがザルボバータの先端に集まる。
その狙いは天文台入り口に陣取っていた連中に向けられた。
閃光。
爆発とともに土砂が舞い上がる。
直撃をもらったパーティは壊滅した。
「やば……」
得意気に排気しながらザルボバータが向きを変える。天文台の方からその外側へと。
南側に居るセリたちと向き合う形となる。
「撃て撃て撃てぇ!」
「消耗させろ!」
「エネルギーを切れさせるんだ!」
彼らを強敵に立ち向かわせるのは、偏に意地を張ったればこそ。
人数不足、実力不足。それは承知の上で抗う。
かっこつけたいではないか。
仲間に恵まれ実力もある奴らが手も足も出ない相手に。
今も戦う仲間たちから一早く脱落してたまるか。
可愛い女の子がまだ戦場に立っているのに、逃げられるのか。
しかし意地だけでは届かない。矜持だけでは勝てやしない。
3度目のチャージが始まる。
狙いは最もイグナイターが密集する場所。その中心。
ザルボバータからすればどうでも良いが、そこには数少ない女性が集まっていた。そう、セリたちである。
明らかな照準に動揺が走る。
散り散りになって皆が逃げ出す。
セリはその様を、妙にゆっくりとした時間感覚の中で鮮明に捉えていた。
ザルボバータが放つ赤い光をしかと見据え、彼女は思った。ふざけるな、と。
彼女の心の底から湧いて出たのは怒りであった。
ザルボバータへの、そして自分自身へのだ。
次は勝つという反骨精神と、次に頼る前に今勝ちたかった悔しさ。それを為せない不甲斐なさ。
それらが綯交ぜとなった怒りを湛えた瞳で睨み付け、セリは赤い光に飲まれた。
⚫『うねる巨躯の"ザルボバータ"』
→全長80メートルを超えるエネミー。恐ろしいことにこのサイズはまだ中型に分類される。
複数の節が連結することで機体を構成しており、節ごとに棘が生えている。この棘はバリア発生装置とダミーが入り交じっており、ダミーの棘はただただ硬くて鋭いものである。
主な攻撃方法はビーム。遭遇率が低くまた戦闘の面倒な球体セィシゴは倦厭されがちであるため、多くのイグナイターにとって初めてのビーム兵器搭載型の敵となる。




