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17話:傍観


 セリたちが天文台に辿り着いたのは、午後10時まであと数分というタイミングであった。

 これからミーハを助けに行っていては攻略など不可能なタイミングだ。

 3人もそれは分かっていたがそれでもと思い、受け付けてくれたミーハのフレンド(バルサミ=ゴ酢)に訴え出た。


「いやでもなあ、天文台の攻略に来ている人たちだから動かせないよ」


 悪いね、と軽く謝られた。

 回答は当然ながら却下である。そしてそれは覆らない。


 フレンドのフレンドという怪しい伝手でやって来たセリたちを参加させてくれるだけマシだろう。素性不明遅刻寸前の彼女たちでも手数になる、と外部掃討班としての布陣が指示される。


 もっとも、セリたちは気が気でない。

 もうゲームを楽しむような心持ちではなかったのだ。残してきたミーハのことが気掛かりで、イマイチ集中できない状態で戦場の端に陣取った。


 遅れて来た3人組に好奇の視線が向けられる。

 『Mechanical Microcosm』ではかなり少数な女性プレイヤー、それが3人も一緒に居れば色々と思うところもあるのだろう。

 声をかけてくる者がいないのは偏に民度の良さなれば。あるいは単に、ヘタレであるだけなのかもしれないが。




 ──このゲームの不親切な仕様として、HPが存在しないことが挙げられる。

 破壊される明確な目安となる体力が表示されないために、突然ダウンするなんてことがあちらこちらで多発していた。

 これはユーザーに与えられる情報量を軽減してUIを簡略化させることが狙いだったのだが、残念なことに不評であった。

 さてこの仕様、フレンド関係でもある問題となっている。

 それは、パーティを組んだ時に仲間の状態が分からないというものだ。

 死に戻りしようと離れ離れになろうと変わらず表示をされ続けるために、分断なんてされれば泣きを見ることになる。まるで当てにならないのだ。

 まさしく今、セリたちが陥っている状況のように。






 午後10時になり、天文台攻略作戦が始動した。

 中央付近で一塊となり、天文台内部にイグナイターを送り届けるべく突撃が行われる。



 天文台攻略作戦はいくつかの段階に分けて実行される予定だ。

 まず侵入。

 内部侵入組を囲んだ突撃班が、正面入り口をこじ開ける。

 それと同時進行される橋頭堡の確保。

 残った面々で入り口周辺に安全地帯を確保する。突撃班も後から加わる。

 内部の探索。

 天文台内部に侵入を果たした後、探索に移行する。目標となるのはボス個体。推測される居場所は建物奥、または天体望遠鏡だ。

 周辺制圧。

 安全確保のために、制圧領域を拡大させていく。最終的に、天文台外縁部をイグナイターの制圧下に置く予定だ。ここが崩れると内部の探索に影響するため気が抜けない。



 セリたちはそのうちの周辺制圧班である。

 ミーハが居れば変わっていた可能性はあるが、現在の配置は外の外。端っこも極まれりという位置である。文句は無いが、そこに透けて見える狙いはあまり面白いものでなかった。

 セリたちが辺りを見回せば、同じ境遇の仲間たちが溢れていた。いや、あぶれていたのか。

 大人数を集めようとすれば、どうしたって天文台到着を安定してこなせない連中が出てくる。あるいは道中の不幸な事故でメンバーを欠くこともあるだろう。

 そうした何らかの事情を抱えたパーティは戦場の南端に置かれていた。言葉を選ばなければ、足手まといが1ヶ所にまとめられているわけである。


「は~、帰んない? ミーハだって戻ってるでしょ」


「分からない。まだ戦っているかもしれない。それに、勝手に帰ったら印象悪い」


「そうですね、ミーハさんが簡単に負けると思えないですし」


「……あ~、たしかに」


 サラは、拠点まで戻ってミーハと合流をしたいと考えている。

 しかし柚柚華はそれを止めた。ミーハが戦闘中であればすれ違いとなりかねないからだ。それから、彼女が世間体を気にするタイプであるのも理由になる。

 そんな2人に相槌を打ちながら、しかしセリとしては正直なところどうでも良かった。合流した時に誉められたい。そんな考えが少女の頭を占めていた。


 実のところ、サラ以外の2人もミーハは拠点に戻っているだろうと思っていた。

 だがもしも、万が一を考えた時に裏切るような真似はしたくない。

 消極的な様子だが、サラもそれに納得をした。


「まー、今さら帰れないか」


「そういうことですね」


「油断のしすぎ、と言いたいところだけど……」


 だらけた様子のサラと、力を抜いているセリ。とても戦いの場に身を置く者のようには見えない。しかし柚柚華は注意の言葉を途中で飲み込む。


「……これじゃあね」


 3人の周りでは、あぶれ者たちが大変な気合いを見せていた。

 セィシゴが近くに寄れば弾丸を浴びせ、遠くにあっても追いかけて蜂の巣にした。

 手を出す余裕などありはしない。


「メッセージに返信ないし、敵はみんなやられてるし。んー、ヒマだー」


「……気持ちは分かる」


「あはは……」


 敵が三人まで近寄る前に他のイグナイターに取られている現状、基本的に見ていることしかできない。気が向いた時にちょっと応援すると、目に見えて張り切るのが少々面白いくらいだ。


 そもそも、セリたちが配置されている南端は天文台から離れている。

 それだけセィシゴの密度は下がり、少なくなった敵の奪い合いとなっていた。

 暇を持て余しているのはセリたちだけではないのだ。

 とは言え、まだ攻略戦も始まったばかり。

 見れば、ようやく入り口を抉じ開けたところだ。ここから進入をしていくわけだから、活躍の機会はまだ待っているだろう。

 焦ることはないとサラに声をかけながら、柚柚華は周囲に目をやった。

 戦う様子が目に入る。と同時に手持ち無沙汰な姿も見えた。


(ふうん、思った以上に暇)


 敵の奪い合いになりかねないのは需要と供給のバランスが崩れているからだ。襲い来るセィシゴの数に比べてイグナイターの方が多い。


(違う。……セィシゴが少ないんだ)


 何かのギミックか、はたまた罠か。

 しかしそれを調べようにも、ヒントがありそうなのは天文台くらいしかない。そしてそこは持ち場でない。協力すると決めた以上、好き放題に振る舞うわけにはいかなかった。


 柚柚華は念のため、2人に共有しておくことにした。






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