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15話:相談


「そっか。じゃあゲーム辞めちゃうんだ」


「はい。どうしても受け付けなくなっちゃったみたいで」


「それは……、残念だけどしょうがないね」


 明けて翌日。ミーハは前線拠点でセリたちと会っていた。

 ただそこにののはの姿はない。彼女はこの仮想世界からの引退を決めたのだ。それだけ誤射の感覚が耐え難いものだったようである。

 3000円の出費は痛いだろうが、そこでズルズルと継続して苦しみを引き延ばす判断をしなかったのは英断ではないか。ミーハは内心でののはの決断力に感心した。3人は苦い顔をしていたが。


「で、ミーハの用って?」


 サラが疑問を口にした。彼女たちはミ一ハから連絡によって集められたのだ。


「予想するに…………。人手が必要なのでは?」


「ただ遊びたいだけ、ではないですよね」


「そりゃあね、さすがに気後れするところはあるもの」


 ミーハは答えながらマップを操作した。目的のものを表示すると 3人へと見せる。そこにはラウジンム荒野のショートカットが記されていた。


「なにこれ?」


「今日の10時までに着けば攻略戦に参加できるんだけどね、……行かない?」


 戸惑う3人。

 サラとセリはよくわかっていない様子で、柚柚華は誘いの理由が気になるようだ。

 そこでミーハはここに至るまでの経緯を説明し始めた。




 昨日、4人と別れた後に野良と組んで強行偵察をかけた彼女だが、当然ながら死に戻ることになった。頑張れたと思うんだけどね。ミ一ハがそう笑うと、3人は何をしているのかと呆れてしまった。


 さて、野良も全員が近いタイミングでリスポーンをしていたため、偶然再集合が叶い情報交換をしていたところ、その中の1人からある誘いが出た。

 彼が言うには、『ここは単独のパーティに向けての難易度ではない。だから、フレンドを集めて攻略しようとしている最中だが、手数はもっと欲しい。急で悪いが明日、都合がつくなら力を貸してもらえないだろうか』と。

 天文台攻略への参戦要請であった。


 内部への突入と外部の制圧。二方面での作戦になるが、後からスカウトされた組は外部制圧に回ることとなる。それはつまり、多数のセィシゴを相手取っての大立ち回りになる可能性が高いということだ。

 突発的な参加になるミーハは、さすがに単独ではいけないと考えセリたちに頼ることにした。




「というわけでね」


「それは……」


 ミーハの話を聞いての反応は三者三様だ。傷ついた友人を思い浮かべて渋い顔をしたサラに興味はあるようだがサラの顔色を伺うセリ、柚柚華はガスマスクの奥の瞳を輝かせて言った。


「是非とも行こう」


「柚柚華さん!?」


 止めようとするセリを振り切り、柚柚華はサラの方に向けて優しく語り掛ける。


「あんまりこちらが引きずっていては、ののはにとっても迷惑。死んだわけじゃない。次は別のゲームを一緒にやれば良い」


「……それは、そうだけどさあ」


 サラも分かってはいるのだ。ただ、いつも一緒にいた片割れが離脱したことに気持ちの整理がつかないのである。


「セリはどう思うの?」


 苦し紛れに投げられたパス。セリは慌てながらも正直に答えた。


「わたしは、その……、行ってみたいです!」


「…………。んー、よし! 悩むの終わり!行くよ!」


 わずかな逡巡の後、サラも参加を決めた。

 友人へのフォローはあとで一緒にショッピングでも行って気分転換をする。そう考えて、気持ちを切り替えたのだ。


 ミーハは3人のやり取りを見て、これが若さかと年寄りくさい感想を抱いていた。

 たかだかゲームでそこまで相手に親身になれるとは。

 いや、ミーハだってののはに優しくしてやろうとは思っていた。だが、辞めてしまった相手に義理立てしてイベントを見送るつもりまではない。

 自分でも少し薄情とは思いながら、しかしミーハは3人が断った時には単身で向かうことも覚悟していた。

 そう、誘いはしたものの切る心積もりまでしていたのである。


(なんにせよ、まとまって良かった)




 ──話がまとまり四人での移動が始まった。目指すは天文台。マップを頼りに進んでいく。

 タイムリミットの午後10時までに余裕をもって着ける計算だ。ショートカットルートの情報を仕入れた甲斐があった。


「……それにしても大丈夫ですかね?」


「え? 何が?」


 道中遭遇した4体目の六脚を破壊したところでセリが呟いた。彼女は自身の持つ狙撃銃を優しく撫でている。わずか数日で愛着が湧いたようであった。

 だからだろうか。そんな疑問が生まれたのは。


「いえ、何も強化していないのに戦えるのかな、と不安になりまして」


「今、戦えていた」


 柚柚華がそう指摘するが、セリが言いたいのはそういうことではない。

 彼女はいつまで今の銃で戦い続けられるかが不安なのだ。出来ればずっと同じままが良い。しかし、最初から最後まで同じ武器を使い通せると限らないことは知っている。

 『Mechanical Microcosm』では武器や機体を強化していくシステムがある。

 そのため、いつ訪れるのか分からない愛銃との別れを今から心配しているのだ。

 考えすぎだと笑い飛ばすのは簡単だがそれで解決するような話ではなく、柚柚華は沈黙に負けて視線を逸らした。


「あたしもそうだけどさ、セリも考えすぎじゃん?」


「はい?」


 その空気を吹き飛ばすように、サラは努めて明るい声を出す。


「その時が来たら考えればいいし、それでも気になるなら問い合わせればいいじゃん」


「そっか、そうですね!」


 寄り添うだけでなく、無視するわけでもない。ある程度の方策は出しつつ、もう少し先を見ろと促す彼女の気遣いに、セリは照れつつ笑顔を浮かべた。

 それから誤魔化すようにミーハへと話を振る。


「武器と言えば、ミーハさん! だいぶ装いが変わりましたね!」


「確かに」


「それねー、剣なんて初めて見たし」


 ミーハの肩に懸架されたバスタードソードに視線が集まる。その数は2本に増えており、さらには大楯まで用意されていた。

 3人としてはずっと触れたい話題だったのだろう。肝心の主役であるミーハを余所に、やれ厳ついだの重そうだのとワイワイ言い始めた。


 バスタードソードが2本、大楯が1つ。左腕に内蔵されたパイルバンカーに、右側の脚に備え付けられた大口径の拳銃2丁が、ミーハの今の武装だ。加えて上半身の改造も済まされていて、装甲が厚くなり大型化していた。もう、人間の頭をしていることがかえって気持ち悪さをかき立てるほどだ。

 昨日よりも明らかにより異形感が増していた。それも3人と別れてから1日も経たずに、だ。いじられるのも無理はない。


「あれはどうしたの? ロケットランチャー」


 柚柚華の質問に、ミーハはしまったという表情を浮かべる。

 明らかに隠しておきたそうな反応に、サラが食い付きセリもそれに乗っかった。


「………………んで」


「ん~?」


「……突っ込んで殴る方が早いんだ」


「おぉう」


 脳みそが筋肉に置き換わった物言い。ロケットランチャー【プロメテウス】はあっさり捨てられてしまった。

 悲しいかな、装填の煩雑さも狙いをつける手間も全てがミーハとマッチしなかったのだ。

 結局、原始的な剣と盾が一番彼女の好みに合致してしまった。


 脳筋戦法を現実に出来るボディが手に入っていたことも理由として挙げられるだろう。

 機動力、踏破性、運搬性能。そのどれもが四脚によって満たされたことで、盾に剣というスタイルは安定を得た。

 ちなみに今、ミーハが欲しいパーツはサブアームである。一体どこへ向かっているのか。






⚫ののは

→『Mechanical Microcosm』を辞めた彼女は、基本プレイ無料のアイドル育成ゲームを始めた。

推しは芯のあるギャル。理由は友人に似ているから。

もうそんなに誤射を気にしていないが、サラがやたら心配してくるので困っている。いつ大丈夫だと伝えるか、悩み中。ただ、しばらく銃器に触れるゲームはいいやと思っている。




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