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14話:偵察


 ミーハたち5人は互いに謝罪合戦を経た後、前線拠点で解散となった。

 ログアウトする大学生たちを見送り、一人ミーハは踵を返す。


 ののはは最後まで誤射を引きずっていた。

 気にしなくて良い。そう伝えても彼女自身が受け入れられないのだろう。

 むしろ申し訳ないことをしてしまったと、ミーハは反省していた。……同時にスッキリしないものも抱えていたが。

 それは例えば、怒りにも似た澱みのような何かであった。




 目指すは天文台。

 このモヤモヤした気持ちを晴らすまで眠れない。明日は月曜日だが、ミーハは自分に素直であろうと決めた。


 六脚に出会っては踏み潰し、四本脚と出会ってはプロメテウスをぶっ放す。

 雑な戦いぶりだった。

 いまいち集中できていない自覚はありながらも、ミーハは敵を蹂躙する。

 初期装備でも勝てた相手だ。その頃よりも装備も機体も整ったのであれば、恐れることなど何もなかった。


 弾薬代は今回に限って考えないものとして、ミーハは一人で突き進む。

 何故かこうした時にだけ、やたらとエンカウントが多い。まるで一人になるのを見計らっていたようにセィシゴが増えていた。

 きっと偶然だ。

 しかし今は都合が良い。

 出会った端から灰の山へと変えていく。

 




 砂地を駆け抜け、ミーハは荒野を踏破した。

 より多くの敵を、全て一人で片付けながらかかった時間はほぼ変わらない。

 むしろ単独行の方が早く進めたのは、一体なんの皮肉だろうか。


「はは……っ」


 乾いた笑いとともに、ミーハは砂山の上に立つ。


 眼下に広がる制圧目標と、それを守るように巡回するセィシゴたち。

 相も変わらず壮観だ。外に出ているだけで数百は下るまい。

 イグナイターたちが団結してかからなければ勝ち目は薄いだろう。


「……はははっ!」


 困難を前にして、ミーハの身体には少しだけ力が湧いた。

 柔らかな熱が全身を脈動する。

 あるはずのない凝りが解れていくように思えた。






 ──さて、ここまで来たは良いがここからどうするか。行き当たりばったりの思考は、区切りを迎えたことで空転する。

 心地よい疲労感に幾分か心が軽くなったのを感じながら、ミーハは次を考える。


(……どうせなら)


 そう。どうせなら天文台まで行こう。

 ここまで来て素直に引き返すのは、何か勿体なく思える。なら、存分に遊び倒そう。


 つまり、強行偵察だ。




「ねえ、お姉さん……で合っているよね? ソロで行くのかい?」


 プロメテウスの残弾を確認するミーハに声がかけられた。男にしては高い声だが、感じからして女性ではない。

 振り向いて見れば、声の主は小柄な男性だった。


「ここまで来れるってことは腕利きでしょ」


 なら協力してほしいんだけど。男はそう言った。


「協力?」


 ミーハが問いを返すと、彼は砂山の下方を指差した。

 そこには3人のイグナイターがいる。


「威力偵察する気でしょ? 僕らもさ」


「……リスポーン前提だけど」


「それも同じ。あの3人はパーティが半壊して、ぼくはソロ。帰れる保証がないなら、派手にいきたいじゃん」


 それは奇しくも、先ほどまでのミーハと同類の考えだ。

 どうせ死ぬのなら盛大に。

 ある種の破滅的思考で、刹那的で享楽的でもある。

 現実で到底許容されないこれは、ゲームであってもあまりよい顔をされないものだ。ミーハもそれは理解している。納得もだ。

 だがどうしても捨てきれずに抱え続けて、ふとした拍子に表へと顔を出してしまう。


 彼らに協力する方へと心の天秤が傾く。


 彼らを疑う気持ちが無いわけではない。

 ナンパやPKのような迷惑な連中だという可能性はある。


 しかし……。


 熟考の末、ミーハは天文台への威力偵察に協力することと決めた。

 不安はある。だが、野良でパーティを組むのもゲームの楽しみの1つだ。

 とは言え今回は協力するだけである。パーティまでは組まない。

 何故なら、ただ一つにまとまるよりもより良い方策を思い付いてしまったのだ。


「そうかい、助かるよ!」


「でもさ、見ての通り進軍速度が大きく異なるんだ」


「……うん? それで?」


「ここは二手に分かれよう」


 そうミーハが提案すると、彼らは互いに顔を見合わせた後に頷いた。


 二方向からの強襲偵察。


 彼女が考えたのはそれだ。

 機動性で勝るミーハが撹乱を、4人の男たちが連携して正面からの突破を仕掛ける。

 攻略ではなく偵察が目的であるからこその作戦だ。

 情報を持ち帰ることも大事だが、その量や質、それから視点の違いも重要なのだから。



 連絡先の交換だけは済ませ、各々の用意が出来ていることを確認すると、ミーハはその場を飛び出した。

 巡航速度で砂山を駆け降りていく。

 後に続いて男たちも動き出した。1列になって天文台に向けて進んでいく。



 砂山を降りきったところで、ミーハは1段階加速する。

 四脚の動かし方にもかなり慣れた。砂に足をとられることはないし、小刻みなターンもお手の物だ。乗用車に迫る速度で一気に天文台の東側を進む。


 役割分担は撹乱だが、それだけで満足してしまうつもりはミーハになかった。

 出来る出来ない関係なしに、見える敵を全て平らげる気概をもって彼女は4本の脚を駆る。


 走りながらプロメテウスの発射と再装填を行う。難しくはあるが、既に慣れた。

 ケンタウロス型よりも、球体と車輪を狙って撃ち込んでいく。

 爆発音が轟き、砂塵と黒煙が舞う中をミーハは突き抜ける。

 外周沿いに進みながら、どんどん敵を破壊した。もう15に届くか。ミーハは装填したプロメテウスを素早く構え、迷いなく球体に向けて射出する。



 この球体が厄介であった。

 車輪やケンタウロス型に比べて頑丈なのだ。プロメテウスによる直撃を耐え、透明なカバーに覆われたコアからビームを放ってくる。

 ビームだ。

 ビーム兵器の登場により、ミーハの機動力をもってしても敵の反撃は恐ろしいものとなった。直進性はともかく、その速さたるや躱しようがない。精々が遮蔽物によって阻害することしか出来なかった。射程が短いのか、10メートルほどで拡散してしまうのがせめてもの救いだ。

 状況が状況なために、ロマンの塊が現れてもまるで喜んでいられなかった。



「うわ……っ!」


 今もそうだ。

 ミーハの脇腹をビームが穿った。

 お返しとばかりにコアを脚先の爪で刺し貫き、球体を灰へと変える。だがその一瞬を狙って、複数の車輪が飛び掛かる。



 車輪も容易い敵ではない。

 一輪車のような形状のそれは、まず小さい。それだけで射撃武器は狙いを付けにくく、加えてその素早さも攻撃の当てづらさに繋がっていた。

 単純な体当たりしか出来ないが、球体よりも多く群れる性質を持つ車輪は1ヶ所に固まりがちで、迂闊に近づけば袋叩きにされかねない。

 どちらが苦手かと言えば、ミーハは球体よりも車輪の方が不得手であった。



 こうも近くてはプロメテウスを撃つことが出来ない。

 ガツンガツンとぶつかることでボディにダメージが入る。囲まれて石を投げられるのとそう大差ない。

 群がる車輪を強引に振り払い、体勢を整える。

 まったく酷いものであると、ミーハは軽く笑う。


(数で押されると、ね……)


 プロメテウスもモレススも多数を相手取るための装備ではない。それは内蔵式のパイルも同じ。

 ミーハの手札ではこの状況に対応しきれない。


「──だけどっ!」


 振り抜かれた金属塊が車輪どもを薙ぎ払った。

 一振の剣がミーハの手の中で鈍い輝きを放つ。


 〔高密度フレーム・バスタードソード〕。道中の敵からドロップしていた、特別さの欠片もないただの剣だ。

 幅広の刀身はひたすらに頑丈で、セィシゴに振るうことの出来る近接戦闘用装備である。

 だが今は、これが手持ちの中で一番頼もしい。


 四脚に換装したことで、ミーハはとある悩みを抱えていた。

 それは近接戦闘の手段の乏しさ。

 彼女は強力な脚部によって、機動力や蹴りの力強さを得た。だが長所があれば短所もあるもので、移動と近接戦闘の両立が難しくなってしまっていた。

 加えて、高さや距離感が変わったことでの素手による格闘戦の難しさもあり、かえって戦いづらくすら感じていた。


 それを解決するのが、ドロップアイテムのバスタードソードだ。

 強靭な四脚で踏ん張った力がダイレクトに伝わる近接武装は、セィシゴの装甲も容易く叩き割る。



 瞬く間に3つの車輪を斬り捨て、ミーハはその場を離脱する。

 死に戻りを覚悟したとしても、積極的にやられたい訳ではない。

 球体の放つビームに身を削られながら、ミーハは天文台の方に接近していく。


(長くは保たない)


 どうしたって数は力だ。多勢に無勢とも言う。

 ならばより効果的な命の使い方をしよう。それかもっと楽しめるように……。


「そっか……」


 手を止めずに球体を叩き斬りながら、ミーハはとある気付きを得た。


 ののはがリタイアして、何故モヤモヤしたものを抱えることになったのか。

 それは楽しさの共有が出来なかったことへの失望だ。

 随分と子どもらしいと、ミーハは己れを笑いそうになるも思い直した。

 きっとこれは悪いものではない。

 ただ、銃を撃つという非日常を甘く見ていただけなのだ。ミーハも柚柚華も、そしてゲームの運営も。


「そりゃ怖いよね」


 いくら大丈夫と言われても不安だったに違いない。直前まで会話していた相手に銃口を向けてトリガーを引き、あまつさえ弾丸を当ててしまったのだから。


 また会えた時には、もっと親身になって気遣おう。




 1つ気付きを得て、気持ちがスッキリしたミーハの動きがさらに軽々としたものへと転じていく。

 踊るように、跳ねるように。

 まだ終われない。

 先ほどまでは自棄になっている部分もあった。しかし今は違う。ミーハは真剣に挑んでいる。

 勝てる勝てないではなく、今ある手札で勝つために全力だ。

 だからまだ終われない。


(このままじゃただの八つ当たりじゃん。それはダメだ)


 終わりたくないのだ。美学に反する。









⚫〔高密度フレーム・バスタードソード〕

→高密度な心材と外装から構成されているバスタードソード。初期装備群に劣る性能だが、序盤ならば十分通用する品。ここから強化を重ねることで一点物にカスタマイズすることも可能。

ブロードソードやロングソードなどもある。



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