13話:失敗
「見えた。六脚だよ!」
5人の中で最も視点の高いミーハが、先行して敵を発見する。
ミーハならば1人でも勝てる相手だ。
だが、この先で戦うために今は敢えて引き付ける。
ワサワサと砂をかき分けてやって来た六脚のセィシゴ。
そのビジュアルにまだ慣れていないののはが、喉をひきつらせる。
「大丈夫。落ち着いて」
柚柚華が軽くののはの肩を叩く。
それで少しは落ち着きを取り戻したようだ。
「撃ちます!」
ドンッ──。という発砲音に続けて、六脚がたたらを踏んだ。
動きの止まった敵にミーハが迫る。
脚が1本捥がれて姿勢が崩れたところを、勢いよく蹴り飛ばした。
彼女は四脚の馬力を活かして、セィシゴを盛大に転がして見せたのだ。
自分よりも大きな相手が転がる様は何度見ても面白いようで、ののはが歓声を上げた。
起き上がろうとするセィシゴにサラが肉薄する。
手にした武器はハンマー。
初心者が振るうには中々骨が折れる代物であるが、サラはそれを器用に扱っていた。
「──そぉれっ!!!」
地面に突き立てた反動で高々と跳び上がったサラが、全身を躍動させてハンマーを振り上げる。
その勢いに加えて落下のエネルギーまでを合わせて叩きつけられた一撃は、セィシゴの装甲を容易く打ち砕き内部フレームまでぐちゃぐちゃに歪めてしまう。
しかしながら六脚もしぶといもので。
コアが無事であるために、まだ灰とならない。
体を軋ませながら、サラを狙って動き出そうとした。
それを待っていたかのように、柚柚華が弾丸をコアへと撃ち込んだ。アサルトライフルの弾丸がまとめて10発も要らない。
ほんの数発で、六脚は機能を停止して灰の山となった。
「また見てただけだー……」
サラがドロップしたアイテムを引っ張り出す様子を見ながら、ののはが呟いた。
彼女はここまでセィシゴに向けて攻撃出来ていなかった。そしてそれに、責任を感じている。
セリや柚柚華が励まそうとするが、中々うまくいかない。さすがに1度2度ではないため、だいぶ堪えているようだ。
ミーハとしては、初めてなら仕方ないと思う。
セィシゴは総じて人よりも大きく威圧感がある。身体がうまく動かせなかったり武器を構えられないののはは自然な部類だろう。
その点で見ればむしろ、嬉々として正面から得物を叩きつけられるサラの方が希なはず。
ただ、そんな感想を伝えたところでののはにとって何も救いにならないことは、ミーハにも分かっていた。
故に、彼女が言葉にするのは別の内容となる。
「じゃあ、ののは。次の止めはあなたが刺しなさい。大丈夫、抑えていてあげるから」
出来ないのなら、出来るように場を整える。
そうしてやってみると、拍子抜けするほどに軽々と出来てしまうものだ。
ミーハは仕事の中でそれを学んできた。必要なのは最初の一歩。後押しするのは得意分野だ。
みんなも良いよね。そう確認をとる。
あとの3人も同意をしたことで、ののはがラストアタックに挑戦することが決まった。
このパーティ、ミーハへの負担が大きい。
それを誰もが理解しているため、必然的に彼女の発言権が高まっていく。
だがミーハは、それを利用して無茶や道理の通らないことを言わなかった。そうして次第にパーティの牽引役となってきていた。
天文台の手前にある砂山。
ミーハたちはそれが見えるところまでやって来た。
道程の半分を消化し終え、変わらない景色に飽きてきた頃。
砂煙とともに新たな敵がやって来た。
ミーハによく似たシルエットの、四本脚のケンタウロス型セィシゴだ。
「次はあれね」
ミーハがそう言うと、ののはは悲鳴を上げた。
「あれにとどめを刺すのー!?」
「物は試し。やってみよう」
嫌がる彼女に柚柚華が後押しをする。端から見れば最後通告にしか見えなかったが。
迫るケンタウロス型に先手必勝とばかりに銃弾が撃ち込まれる。
セリの一発は上半身に命中したが、ぐらつかせただけでその走りを止められない。牽制としての役目は十分だ。
ぐんっと勢いよく前に出たミーハが、肩に担いだロケット砲を発射する。彼女が狙うのはセィシゴそのものではなく、その手前。
ケンタウロス型が走り抜けようとしたその時に、瓦礫を吹き飛ばしたことでその動きを止める。
「行くよ」
吶喊。
ミーハを先頭にサラが続き、柚柚華がさらにその後ろを追う。慌ててののはも走り出した。
釣られて突撃に加わったものの、ののはは戦闘のイメージがまだ湧いていない。戦うことがどこか遠くのことのように思えてならないのだ。
それはミーハも承知していた。戦うところを見ていながら、自分が戦う想像が出来ない。アクション物に慣れていなければそういうものだろう。微笑ましくすら思えた。
柚柚華のアサルトライフルが弾丸をばらまく。
セィシゴの装甲で火花を散らして大半が弾かれたが、関節部にダメージを与えた。
「やはり、火力が不足している……」
ののはは自身の気質を申し訳なく思っているようだが、ミーハはもちろん他の3人もそれを悪く思っていなかった。
向き不向きは誰にでもあるものだ。無理して挑んで楽しめなくなっては、ゲームを遊ぶというのに本末転倒である。
ただ、一度試しておきたいのだ。
ミーハが見た天文台は周りを敵に囲まれていた。近づけば戦闘になることは確実で、その数はこれまでより多い。
そこに非戦闘員を連れていくことは出来ない。
ののはが本当に戦いに向かないのか。やってみたら軽々と出来た、なんてことも大いにあり得る。
それを確認したいのだ。まだ敵の少ないうちに。
駆けるミーハがケンタウロス型と交錯した。
鈍い金属音が響き渡る。
運動エネルギーを押し付けられたセィシゴはド派手に吹き飛ぶ。
砂地の上を転がり、止まったところはサラの前。
「任せて!」
立ち上がろうとしたセィシゴの脚を、彼女は杭打ちのように打った。地面に縫い付けるように、二度三度とハンマーを振り下ろした。
「どーよ!」
「すごいです、サラ!」
セリの射撃がケンタウロス型の下半身を抉る。
そこに戻ってきたミーハが、残りの脚を捥ぎ始めた。蟹を解体するように、関節をバキッと折って引き抜いてしまうのだ。
抵抗空しく、一本外されてしまうセィシゴ。
サラも残った脚を叩き壊す。
あっと言う間に移動も抵抗も出来ぬ身とされたケンタウロス型は、それでも何とか逃れようとした。
その身体を上からミーハが押さえつける。四脚の爪がセィシゴの装甲を貫き、コアを露出させた。
「うわわっ!」
そのコア目掛けて、ののはがサブマシンガンの引き金を引いた。
跳ね上がる銃口。吐き出された弾丸は好き放題に暴れ散らかし、コアのみならずミーハをも襲う。
軽減はされているのだろう。バチバチと音を立てたものの、ミーハへのダメージは大したものではなかった。
ただ、当ててしまった側のショックはその限りでない。
ののはの顔色は真っ青になった。慌ててミーハの元に駆け寄り無事を確認する。
謝る彼女のその焦る様子に、周囲も「これはゲームだから」と宥めに入る。
無理に銃を撃たせてしまい、ミーハは後悔した。
人には向き不向きがある。それを軽々しく試すのはよろしくない。
ゲームだからこそ大切にするべきだった。
半ばパニックになってしまったののはを連れて、一行は前線拠点へ戻ることとした。
彼女にこれ以上のストレスをかけられない。誰もがそう思っていた。




