12話:紹介
「……すっごい目立ってますね」
「はははっ」
困ったようなセリの呟きにミーハは返す言葉を持たなかった。
彼女の言う通り、ミーハはよく目立っていたからだ。
視線は先ほどから鬱陶しいほどに向けられ、セリは居心地の悪さを感じていた。
それもそのはず、四脚に換えたことで頭の高さが3メートル近くにまでなったミーハは周囲から頭一つ分で済まないくらいに抜け出ている。また、四脚自体がほとんど出回っていない状態なため、もう目立たない方が無理な有り様であった。
声をかけられたのだって1度や2度ではない。
その都度の対応が面倒だが、コツコツ処理したお陰でミーハはようやく平穏な一時を得られていた。
ミーハとセリは今、降星城に居る。
これからセリのフレンドである3人が合流して、5人のパーティを組む予定なのだった。
本日の目標は、5人で天文台まで到達することだ。ミーハ以外の4人はまだそちらに行ったことがないらしく、彼女が先導をする約束になっている。
しばらくしてやって来た3人に、挨拶もそこそこにミーハはパーティの申請を飛ばす。
パーティが結成したらすぐに降星城を飛び出し、前線拠点へと移動した。
このままではまた絡まれる。彼女はそう予感していたからだった。
ミーハの予感は残念ながら正しいものであったので、降星城に留まらなかったのは正解だ。
──ラウジンム荒野。
セリ、サラ、ののは、柚柚華ら4人はミーハに引きずられるようにやって来ていた。
まだ自己紹介もろくにしていないのに良いのか。そう思わないでもないが、初対面であるために文句は口にしない。それだけの分別はある。
「ごめんなさいね。あそこに居たらどんどん話しかけられただろうから」
3割増しで柔らかなミーハ。おや、とセリは違和を感じ取った。
ただ、他の3人にはそこまで分からない。
ミーハの穏やかな様子と外見から受ける印象との食い違いが生まれ、戸惑いを処理している内に話が進められていく。
声をかけられて大変だったこと。
目的地までが遠く、時間のかかること。
挨拶は後からでも出来ると考えたこと。
セリの友人なのだから大切にしたいと思っていること。
立て板に水で並べ立てられた内容に、3人の思考は押し流される。
結果全てが有耶無耶になり、とりあえず挨拶からとなった。
周囲にセィシゴの影がないことを確認して、物陰で自己紹介が始まった。
「あ、じゃああたしから。サラで~す。あたしこういうゲーム初めてで、柚柚華に誘われて始めました! えっと、ミーハ、さんは慣れてるんですか?」
「ミーハで良いよ。慣れてるってほどじゃないかなあ」
「ウソ、マジで? なんか4本足だしスゴいのかなって思ってた! ……あ」
「いーよいーよ、気にしないで。ゲームなんだし」
敬語はいらないとミーハが言えば、サラは申し訳なさそうに笑った。
パタパタと手を振りながら彼女は、ムカついたら言ってね直すから、と言った。
サラはピンクに染めた髪をサイドテールにまとめた快活そうな少女だ。
スキニーパンツを履き、シャツの裾を絞った彼女は、どこで買ったのかピアスまでしている。
ミーハが聞くと、どうやらドロップアイテムらしい。六脚マラソンが予定に組み込まれることとなった。
「あれ、でもー? お洒落するならふわふわが良いって、さっき言ってたよーな?」
「ほら理想と現実の違いはあるでしょ。それに今は四脚だし」
ポヤポヤとした喋りのののは。彼女はサラと対になるように右側にサイドテールをまとめている。揺れる緑の髪は鮮やかで、新緑の森のような香りがした。
「あー、これ初期特典だよー」
「ね、いいよね。あたしのはなんちゃらリアクターでよく分からなくてさ」
「私なんてコレだけど」
柚柚華が自身の顔を指差す。
その顔は全面がマスクに覆われ、背部にあるボンベと繋がっている。消防士の使う面体と呼ばれるガスマスクによく似ていた。
全員が苦笑いする。
どうやら柚柚華の持ちネタであるらしく、ミーハすらこれを聞くのは既に3度目だ。
そんな柚柚華はセリたち4人組の中では最も装備が整っており、初期特典の面体に全身を覆う防護服、肩から掛けたアサルトライフルに腰のブレードと物々しい格好だ。
動きも機敏で、こういったゲームへの慣れが見えた。
「ミーハの脚もやっぱり特典?」
サラの問いに、ミーハは違うと答えた。
なずなも最初に会った時は違っていたと話す。
「これはさ、ドロップアイテムを解析したの」
「そうなの? 趣味じゃないなら使わなきゃいいのに」
「ねー。ドレスが着れないって言ってたしさー」
そう言うことか。
ミーハはそこでようやく、2人に勘違いをさせていることに気がついた。
性能を優先している点は当たっているが、それでミーハが無理をしていることなどない。
この四脚にはなんだかんだ愛着を持っている。
そうした旨を説明すれば、サラもののはもフンフンと頷いた。
お気に入りならそれでいい。心優しくもそう言った。
「ところでミーハさん、1つ気になっていたのですが」
「どうかした? セリ」
「そんなに身体が大きくなって大丈夫なのですか?」
数瞬遅れて、彼女の質問の真意に気付いたミーハはその不安を笑い飛ばす。
『Mechanical Microcosm』でイグナイターが現実をベースにしているのは、デザインの多様性を生み出すためである。個人差を利用して、ゲーム側での処理を簡便化しているのだ。
彼女が不安視しているアバターと現実との乖離も、この仕組みのために発生し得ない。
イグナイターの素体こそプレイヤーの個人差によって多様であるが、ゲーム内のパーツは画一的に設計されている。改造と銘打っても実際に作り替えるわけでなく増設に近いため、パーツ自体に多様性は不要であるからだ。
つまり、ミーハの四脚はガワだけを被せている状態によく似ていて、実態としてはパワードスーツや乗り込み式のロボットの親戚みたいなものであった。
若干個人の感想が混ざりつつも、ミーハがそれを説明すればセリはとりあえず安心したようであった。
サラとののはは分かってないような顔で頷き、柚柚華は操作感について詳しく聞きたがる。
どうやら柚柚華はロボに乗りたいらしいと、ミーハはそこで初めて知った。
長々と話してしまっていたが、そろそろ移動を再開しよう。そうミーハが提案したのは、荒野に来てから30分近くが経ってからだ。
目的地は遠い。
四脚の移動力と踏破性に物を言わせて突き進んでなお、かなりの時間を移動に要したのだ。
人数が増えた今、道中の戦闘は手早く済むかもしれないが、それでも同じかそれ以上の時間がかかると考えるべきである。
視点の高さで索敵を担い前に出て相手を押し留める役割を持つミーハが先頭に、残りの4人はその後ろにそれぞれ適当についていく。
狙撃銃を持つセリと場馴れした様子の柚柚華は心配する必要がないだろうが、サラと、特にののはに気を遣う必要がありそうだ。ミーハはそう考えた。
ハンマーを持ったサラは銃を装備しておらず、ののははサブマシンガンこそ持っていたが明らかに緊張している。
聞けばののはの実戦はこれが初らしく、前線拠点が見えないところまで来たこともなかったとか。
「……むしろ、今日はよく頑張ったね」
ガッツあるじゃないと褒めれば、ののはは照れたように笑った。
「その分私がカバーする」
くぐもった声で、しかし気力に満ちた様子で柚柚華が宣言した。
その頼もしさに感嘆の声が漏れる。
助け合えばどうにかなるさ。
そうしてミーハたちは荒野の奥へ、いよいよ進み出した。




