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10話:天文


 ──ガチャリ。

 ミーハは発射器にロケット弾頭をセットする。





 【携行式対セィシゴロケット弾発射器『プロメテウス』】。

 全長180センチほどのロケットランチャーだ。

 クエスト報酬でミーハが決めたのは、高威力中射程低集弾性というクセのある武器であった。


 プロメテウスの名が示すように、人が得た最初の対セィシゴ武装である。

 装甲を打ち砕く破壊力とそれなりの射程距離を持たせることには成功したものの、弾速と精密性を捨てざるを得なかったこの武器は、以降の銃火器の発展の礎となった。


 初期装備として選択できる中では格別の破壊力を誇るプロメテウスを選んだ理由は簡単で、ミーハは火力を補いたかったのだ。


 モレススの携行性は素晴らしいものでありクイックドロウも物になってきたが、如何せん火力に乏しい。

 内蔵式パイルは射程がほぼ0で、折角の一撃も躱されれば再装填まで時間がかかる。

 ミーハはこの2つの武装を見て、ある程度普段使いの出来る攻撃手段を求めることにした。


 狙撃銃。突撃銃。機関銃。散弾銃。

 いくつもある中、しかし彼女にしっくりとくる物が無い。


 ミーハの足元は四脚によって安定しており、ちょっと無茶なくらいの火力でもぐらつかずに撃てる。

 また、気質の面でミーハは一撃大火力を好み、手数で攻めるものは優先度が下がってしまっていた。

 悩んだ時に彼女の目についたのが、ランチャー系だ。ロケットランチャーや無反動砲の中で、派生の多さが琴線に触れたことでプロメテウスは選ばれた。






 そして、今。


 そのプロメテウスの試射も兼ねて、ミーハは再びラウジンム荒野を訪れていた。


 遭遇する六脚目掛けて放たれたロケット弾は、時折外れてしまうものの当たれば確実な成果を出した。

 一撃で破壊とはいかないものの、装甲を破砕し動きを止めることが出来るのだ。

 そうして無防備になったところにミーハが接近。センサーユニット部分を脚部の鋭い爪で貫く。

 自身を支えて壁を登れるほどの力だ。わずかな抵抗も許さず、セィシゴを呆気なく灰へと変えてしまう。




「──まだ、行けるかな」


 6体を仕留め、ミーハはプロメテウスの試運転を終わりにする。結果は上々、望んだ以上だ。

 この破壊力であれば十数メートル離れていても装甲を打ち砕けるし、崩しにも止めにも使うことが出来る。

 余力のある彼女は、ここから本格的に暴れることとした。

 ここまでに出会ったのは六脚ばかり。ケンタウロス型は影も形もなく、荒野はまだまだ続いている。ついでに言えば、ドロップアイテムは得られていない。


「よし、行くしかないよね!」


 テンションを高めながら四脚を操り、ミーハは荒野の奥へと駆け出した。



 ワシャワシャと動く脚が、その動きに滑らかさを増していく。

 動き出しこそ直線的だが、スピードが乗ると同時に足運びもスムーズになるのだ。

 4本それぞれを少しずつずらして動かすことで、上下動を減らして射撃の照準がつけやすくなるとミーハは学んでいた。


「ははっ、速いなあ」


 2本の脚で走っていた時とは比べ物にならない。

 さすがに倍とはいかないだろうが、明らかにスピードを増している。それは巻き上げる砂埃の量でも分かる違いであった。



 目についた六脚にプロメテウスを撃ち込み、動きを止めたところに突進する。

 正面から当たれば勝てない。だが、一手先んじることで生じた隙が、ミーハに勝利を与えてくれる。

 大きさは一回り小さいはずのミーハが、セィシゴを一方的に蹴散らしていく。


 大きいというのはそれだけでアドバンテージになる。

 ミーハは女性にしては長身と言えるが、それでも170センチ台。

 それが2メートルを超えるようになったとあれば、リーチや重量の都合で戦闘能力を跳ね上げるのは当然の話となる。



 いけないな。ミーハはそう思った。

 このままでは慢心してしまう。

 この六脚は恐らく最下級の敵である。しかし、それを圧倒出来るという事実はとても気持ちが良いもので、どうしても彼女の心に優越感を生むのだ。




 荒野を駆け抜けながら、ミーハはさらに4体の六脚を破壊した。

 脚部を捥いで機動力を殺ぎ、コアを踏み砕くある種の作業は、1体あたりものの数分で片付く。

 索敵と走行の時間の方が長いくらいだった。


 しばらく進んだところで、荒野はついに終わりを迎える。


「あれは……」


 瓦礫の山を越えるとそれが見えた。

 巨大なドーム状の屋根をした建物だ。周囲に何もないだだっ広い平原に、ポツンと建っている。


 『ラウジンム天文台』。

 衛星『α-vida』にはいくつかの天文観測所が設けられていた。

 ラウジンム荒野にもその1つがあり、周辺の地理的状況の観測までをまとめて担う重要拠点である。


 ミーハのマップ情報に追記がなされる。

 ミッション情報が書き換えられ、天文台奪還作戦なるものが発令された。




『──降星城エデルリッゾより入電』

『ラウジンム天文台の周辺状況が確認された。こちらの予想通り、施設はセィシゴの手に落ちているが、建物の状態から考えるに復旧することは十分に可能だろう』

『そこで、イグナイター諸君には天文台の奪還をしてもらいたい。仮の前線拠点ではなく、本格的な拠点を据えよう。これによって、降星城周辺の安全は確実なものとなり、いよいよ我々の反抗作戦が始動することとなる』


『重要ミッション:天文台奪還作戦

条件:ラウジンム天文台の解放

報酬:アクセサリシステムの解放』




 メッセージやら通知やらにミーハは戸惑うが、慌てながらもそれを処理していく。

 まず降星城からのメッセージ。これはミッションの前置きに当たるのだろう。聞き流しながら文章でも読み込み、彼女は1つ頷いた。


「まだチュートリアル終わってないのね」


 衛星基地奪還に向けての前哨戦という位置付けになるだろうか。あるいは、デモンストレーションか。

 この天文台奪還作戦が、イグナイターたちの準備運動にされていることをミーハは理解する。

 それから、達成条件については考えないことにした。今すぐにどうこう出来る話でなく、また、意図して不親切に記述されているように感じたからだ。



 ミーハは瓦礫の山頂から天文台の様子を観察する。

 歩哨らしき影が無数に見られた。

 そのどれもが六脚とシルエットが異なっている。ケンタウロス型に加えて、球体と車輪。2つの初めて見るセィシゴがいる。


 威力偵察、という言葉をミーハはすぐに脳内から追い出した。

 無駄死になるのが目に見えているからだ。


 六脚の姿がないと言うことは、天文台周辺はワンランクもツーランクも格上なフィールドとなる。

 1体なら行けるだろう。

 慣れれば連戦もこなせるのではないか。

 だが、今すぐに単独であの数を相手にするのは不可能だ。


 スクリーンショットで天文台を記録し、ミーハは引き返すことにした。

 戦力を整えなければクリアできないということは猿でも分かる。

 まずは自身の武装と機体を強化する。彼女はそう決めた。


 同時に彼女は、強化の方針も考えた。

 コンセプトがあると迷うことなく進行できる。

 中途半端よりも突き詰めた方が強くなるのはどのゲームでもそうで、迷いがあると大抵の場合不思議なことに弱くなってしまうものだ。



 だからミーハは、この先の指針を定めた。

 火力。彼女はそれを優先する。



 重量級の武装も四脚の運搬性能ならさして問題とならず、足元も安定しているため純粋な人型よりも運用面で優位だ。

 耐久性を上げるも機動力を上げるも良し、という拡張性もミーハとしては高評価である。

 四脚の大きな問題点の1つ、その操作性の悪さも彼女と相性が良かったためか、さして問題とはならない。平坦ではあるが、荒野を駆けながら戦闘を行えていたのだ。十二分に扱えていると言って良かった。



 それからミーハは、1体のケンタウロス型と8体の六脚を倒して前線拠点に帰還した。

 出発時に受注しておいたミッションの完了を報告して報酬を受け取る。

 そして、そのままログアウトをした。








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