1話:始動
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各部スキャン開始…………。
完了。
変更点を確認しました。リサイズ開始。
ボディセッティング、誤差修正をします。
リペイントを行いました。
……チェック。
完了しました。
同調を開始します。
完了。
初期設定を開始します。
早期購入特典の所有を確認しました。
コードを入力してください。……入力完了。
【アタウラ=フラゴール式ティエラジェネレータ】を取得しました。自動的にパーツが置換されます。
【アタウラ=フラゴール式ティエラジェネレータ】が装備されました。
初期装備を選択してください。
【アタウラ=フラゴール式ティエラジェネレータ】に対応しているのは、十一種類です。
【モレスス-68】六連装回転式拳銃が選択されました。
決定しますか?
【モレスス-68】が装備されました。
サブウェポンを選択してください。
近接、支援、罠、回復、妨害から選べます。
近接が選択されました。
初期選択が可能なのは【ブレード】、【クロー】、【内蔵式パイル】になります。
【内蔵式パイル】が選択されました。
左腕部が換装されます。
決定しますか?
サブウェポンの選択が完了しました。
……。
…………。
………………。
……………………初期設定が完了しました。
あなたはこれより『イグナイター』として、惑星『Tierra』と衛星コロニー群を守る戦いに身を投じることとなります。
謎の機械生命体『セィシゴ』。
その目的とは何なのか。
奴らを打ち倒し、テクノロジーを発展させて武装を整えていき、人類の平和を取り戻すのです。
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『ミーハ、起動だ』
カプセルの外から聞こえる声に、ミーハは目を開く。
ガシュッ、と空気の抜ける音とともにイグナイターのメンテナンスカプセルが開いた。
ミーハはゆっくりと身体を起こす。機械とは思えない滑らかな動きに、彼女は感心をする。生身の身体と遜色ない感触であった。
両手を見れば、これがゲーム内のアバターであり現実のものでないことがよく分かる。だがそれでもミーハはまじまじと手のひらを見つめ、何度か握りしめてその感覚を味わった。
周囲を見れば、同様のカプセルが並んでいる。それらは既に開いていて、中にはミーハのように自分の身体を確かめるイグナイターが入っていた。
ここは格納庫のような場所なのだろう。
辺りを窺う何人かのイグナイターとは目が合った。
その中に先ほどの声の主はいないようだ。ミーハはさらに部屋の中を見回して、他の人影を探すが見当たらない。
『総員、メンテナンスカプセル横にある武器を装備して移動せよ』
声が降ってきた。
先ほどの声だ。スピーカーによって格納庫全体にアナウンスされる。
ミーハはそれに従い、カプセルから出ると脇のラックに置かれた回転式拳銃を手に取った。
見覚えがある。
初期装備で選択した【モレスス-68】であった。
その武骨な金属の塊とホルスターを装着する。
ミーハの右太ももにずしりと重いものが取り付けられた。
早期購入特典は二つあった。
一つはアイテム。ミーハのものは【アタウラ=フラゴール式ティエラジェネレータ】という心臓部だ。
特典アイテムは各プレイヤーに一つずつである。
それからもう一つは、イベント参加権。
今、ミーハたちが参加している『衛星コロニー8号撤退戦』のことだ。
ゲームストーリーの前日譚にあたるこのイベントが終了することで、本サービスが開始される。
イグナイターは衛星コロニーから『アドジャストメンター』たちを脱出させるのが目的となっていた。
ミーハがゲーム開始前に公式サイトで見たマップでは、現在地である格納庫と脱出口とは距離があった。
格納庫は基部と居住区の2か所にある。ミーハがどちらに居るかは分からないが、どちらからでも宇宙港まで移動をしなければならない。
おそらく、その経路上では機械生命体との戦闘が発生するだろう。
そう考えながら格納庫の出入り口に向かうミーハに、背後から声がかかる。
「あ、あの!」
ミーハに声をかけたのは一人の少女であった。
白くもちもちとした肌にウェーブが軽くかかった亜麻色の長い髪。身長は150センチに届かないくらいか。
ミーハの身長が170センチ台後半なので肩くらいまでしかない。タクティカルベストを持ち上げる豊かな胸部装甲とふわふわした雰囲気が特徴的な少女である。
公式サイトから得られるゲーム世界観の情報と、恐ろしいくらいにそぐわない。
白亜の居城の庭園で優雅に茶をしばく方が似合う、とミーハは感じていた。間違ってもSF世界で侵略者とドンパチやるようなタイプには見えなかったのだが、人は見かけによらないものである。
周囲の連中は少女に目が釘付けだ。
同じ女性であるミーハに視線がほとんど向かないあたり、よほど魅力的に見えているのだろう。
だが、そのあからさまな様子は少女の警戒心を煽るには十分だったようで、彼女はミーハに同行を求めてきたのだった。
「いいよ」
「ほんとですか!」
「嘘ついてどうすんのよ。ついといで」
見捨てるのも忍びない。ミーハは少女の同行を許可した。
格納庫の中は既に獣の群れと等しい。そこに置き去りにすることなど出来なかった。
男どもが声を掛けてくる前に、ミーハは少女の腕を引いて格納庫を飛び出した。
(にしても、可愛いこと)
手を引いて走りながら、ミーハは少女を観察していた。
ちんまり柔らかな美少女は、ある意味でミーハの理想像だ。つまり、このお姫様に心奪われつつあった。
──洋暦2090年、ゲームの中に入り込むという人々の理想は現実のものとなって久しい。
ゲームを嗜む趣味人たちは、理想の己れを日々追求していた。
だが、技術の進歩でもカバーしきれなかった部分がある。
現実の肉体に同調させているというシステム面での制約上、顔はある程度変えられるが性別や身長のようなポイントを変更することは出来なかった。正確には可能であるが、精神面やホルモンバランスへの影響から推奨されていない。
つまり、なりたい自分への妥協が必要だったのである。
ミーハもその一人。
本音を言えば、甘ロリの似合うような小柄でふわふわなお姫様みたいになりたかった。
しかし、背の高さが邪魔をした。
170センチを超えたお姫様がいたって良いだろう。それは彼女も分かっている。それでも理想と現実の乖離はショックを与えた。
小柄でふわふわという理想を捨てられなかったのだ。
結局出来上がったアバターは、現実の彼女をさらにがら悪くした中々近寄りがたい女性であった。
これはこれでミーハは気に入ったので喜んで使っているが、それでもいきなり理想像が現れれば動揺はする。
ミーハは今、舞い上がっていたのだ。
⚫『イグナイター』
→頭部、右腕、左腕、ボディ、右足、左足、心臓部の全部で七つのパーツから構成された機械人形。
プレイヤーのこと。