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65話 ダンス

 騎士達は普段と違うアオイとヒスイに緊張していた。ましてやもう少しでダンスが始まる。

 アオイとヒスイの気を引きたいが…。そんな中、この均衡を破った者がいた。アルカディアだ。


「ヒ、ヒスイさん。私と一緒に踊っていただけませんでしょうか?」

「はい、大丈夫ですよ。」


 ヒスイはマーズ領で騎士見習いをしていた時から訓練の一貫としてダンスを習っていた。ダンスの動きが剣術に通じるというマーズ伯爵の思い込みからマーズ領の騎士は皆、ダンスを習うため、上手に踊ることができた。

 ヒスイもなかなかにうまく踊る事ができたが、いかんせん騎士団で訓練として習ったため、男女の駆け引きとしてダンスを踊ったことはなかった。

 アルカディアに誘われた時も剣術の立会と変わらぬ気持ちで受けていた。


 だが、そんな事情を知らない騎士達は色めき立った。ヒスイは先手を撃たれたので、アルカディアの後に誘うとしてアオイを誘おう。皆がそう考え、アオイに殺到した。

「アオイさん、私と踊りましょう。」

「いえ、こいつよりも俺の方が!」


 そんな騎士達をニヤニヤして見ていたアオイだったが、


「皆さん、すみません。ダンスは先約がありまして。」


 というアオイの言葉に騎士達は殺気だっていた。


(くそー、誰だ抜けがけしたのは!)


「アオイ殿、ダンスを如何ですかな?」


 そこに現れたのはバールミン侯爵だった。騎士達は皆、思った。


(侯爵!若輩に道を譲ってくださいよ!!)



 

「アルカディア、ダンスが上手なんですね。」

「いえ、片手となりましたのでバランスを取るのに必死です。あ、でもヒスイさん、気にしないでください。私はあなたのお力になれたことを誇りにしているのです。」

「アルカディアは強いですね。」


 ヒスイとアルカディアのダンスはとても人目を引いた。荒削りだがとても情熱的なダンスだった。


「アオイ殿、若者は良いですな。」


 バールミン侯爵もヒスイとアルカディアのダンスを見て、微笑ましく思っていた。


(ふん、何さ。ヒスイ、楽しそうにしちゃってさ!あれ?何でこんな気持ちになるんだろ?)


 アオイは突然に湧き上がった嫉妬心に戸惑っていた。


(いやいや、アオイ。冷静に冷静に…。)


「ほほほっ。アオイ殿もそんな表情をするのですな。」

「いや、侯爵!これはね。」

「儂もアオイ殿には憧れておったのですよ。」


 アオイは照れた表情で頷くとバールミン侯爵へ微笑みかけた。




アオイはその後、ダンスのお誘いを悉く断った。騎士達のバールミン侯爵への嫉妬心は最高潮に達した。


(アオイさんと踊りたかった!!)


 そして、ヒスイとアルカディアは3曲目を踊り始めていた。アスラ王国では暗黙的に男女は3曲ダンスを踊ることが相互に思いを受け入れる合図となっていた。そして、アオイを含め、この会場の皆がヒスイとアルカディアの恋の成就を予感していた。ただ1人、ヒスイを除いて。


 アルカディアは幸福の絶頂だった。


「ヒスイさん、私はヒスイさんとお互いに支え合えたらと思います。これからよろしくお願いします。」

「そうですね。私はこれから大森林で竜の魔装を研究するつもりです。アルカディアの腕を補うこともできると思います。」

「ええ、腕はいつでも大丈夫です。ヒスイさん、私と添い遂げてください。」


 ヒスイはアルカディアが何を言ったのか?わからなかった。が、


「アルカディア、私はアオイとやり遂げなければならない事がありますし、あなたと一緒にいられる訳でもありませんので…。」


 アルカディアはこの言葉でヒスイの気持ちを悟った。


(ああ、私に気持ちが向いている訳ではないな。)


「ヒスイさん、ダンスは楽しかったです。また、ご一緒してくださいね。」

「はい、こちらこそ。」


 ヒスイとアルカディアはお互いに一礼すると和かに別れた。


「アオイ、一緒に踊りませんか?」


 アルカディアと別れたヒスイはアオイの側に来て言った。

「良いけど、アルカディアに悪くない?」

「何でです?」

「だって3曲踊っただろ。」

「なかなかアルカディアはダンス上手でしたよ。マーズ領での訓練を思いだしました。」

「??」


 アオイはヒスイの言葉の意味を測りかねたがヒスイの手を取り、踊り始めた。2人のダンスは息が合い、また2人の身体能力の高さもあってとても素晴らしかった。だが、アオイはダンスの間、不機嫌だった。


(可愛がってあげるって約束したのに…。)


 アオイはヒスイの顔を見てちょっと悲しい気持ちになっていた。



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