58話 窮地
アオイは侯爵に拘束され、時空の穴に落ちようとしていた。この魔素の暴風の中、魔素を練ることができずにもがいていた。
(このままだと亜空間に落とされる。アオイ!集中しろ!)
アオイは右手に魔素を集めることだけを考えた。少しずつ少しずつ右手に闇の魔素が集まる。
(もう少し、もう少し。この魔素で陣の魔石を破壊する!)
アオイはやっとの思いで魔素を右手に溜めたが、魔素の流れが強すぎて魔石に狙いを定めることができない。
(もうちょっとなのに!)
アオイは生に執着した。
(ルーク!私はあなたの業を解放してあげたいんだ!)
その時だった。魔素の流れが滞った。暴風のように荒れ狂っていた魔素に綻びができた。
「!」
アオイはすかさず、闇の刃を作り出すと魔石に打ち込んだ。魔石は砕け散り、亜空間の穴が閉じた。
「アオイ!」
ヒスイがすぐにアオイの元に駆け寄り、侯爵の顔に魔素を込めた石をぶつけて引き剥がした。
「危なかった。」
アオイは右手に闇の粒子、左手に光の粒子を作り出すと侯爵に纏わり付かてその魔人化を解呪した。その表情は僅かに強張っていた。
(スガル平地の魔法!やっぱりきれいだ…。)
「ヒスイ、侯爵を連れて撤退だ。」
アオイは光の玉を作り出すと窓を破り、空へと放った。
アオイは侯爵を背負い、ヒスイとともに一気に裏口を目指した。途中、子供達が囚われていた部屋を通った。
「アオイ!」
そこには魔素封じの手枷で檻に繋がった腕があった。
「これは王都でアルカディアにあげたブレスレット!」
アオイとヒスイは状況で全てを悟った。
「刻印魔法に隙ができたのはアルカディアが魔石を破壊してくれたから…。」
「アルカディア、自分で腕を切り落としたんでしょうね…。」
ヒスイはアルカディアの生真面目な顔を思い浮かべた。
「ヒスイ、正面玄関だ!戦闘している!」
アオイとヒスイは方向を変え、正面玄関に走った。
正面玄関ではバールミン領の騎士団とアルカディア班の戦闘が続いていた。そこへアルカディアが子供達を伴って現れた。アルカディアは見るも無残な怪我を負っていたが、命は繋ぎ止めていた。
「アルカディア班長!各員、アルカディア班長と子供達を守りながら離脱!」
ドゴス副班長が怒声をあげた。しかし、オーブがそれを許さない。オーブは複数の光の矢を放ちながら、ドゴス副班長を牽制しつつアルカディアに迫る。が、アルカディアは動けなかった。オーブの剣がアルカディアに迫ったその時、
「アルカディア!」
ヒスイが叫び、オーブへ魔素を込めた拳大の石を飛ばした。
「くっ!」
オーブは剣で石を捌きつつ、後ろに下がる。そこへバールミン侯爵を背負ったままアオイが肉薄しオーブの膝の筋を切り、動きを封じた。
「ちくしょう!失敗ではないか!!」
ディスターブが叫んだがその声は途中で途絶えた。ヒスイが新たに飛ばした石がディスターブの口に当たったのだ。ディスターブは歯を飛び散らしながらは昏倒した。
「投降しなさい!バールミン侯爵は我々が保護しています!」
ヒスイの静かな、それでいて威圧感のある声にバールミンの騎士達は武器を放棄して投降した。アオイは改めて混沌の魔団の使い手の魔素を探ったがその姿はすでに無かった。




