早乙女家家族会議
俺は、いつもより遅く家に戻って来た。
「ただいま」
「お帰りお兄ちゃん、遅かったね。今日は早く帰れる日じゃなかったの?」
「ああ、それが」
美麗に事情を話すと
「うーん、ちょっと考えないといけないね。本当にお兄ちゃんの高校生活が無くなりそう。お父さんやお母さんも入れて相談しようか」
「……………」
そこまでする事か?でも今のままでは不登校になりそうだ。
昨日の夜、お父さんとお母さんに話したら
「お母さん、明日はお仕事、午前中だから午後三時以降なら空いているわよ」
「私もその位なら帰っている」
「麗人の事では仕方ないな。明日は早く帰って来よう」
とういう訳で今日午後三時から家族会議を開く事になった。
そして今、その午後三時。リビングには俺の隣に美麗、正面にお父さんとお母さんが並んでいる。美麗が
「では、家族会議を開きます。題名は名付けてお兄ちゃん不登校防止策」
「なんだそれ。俺不登校じゃないぞ」
「今のままでは、いずれそうなるでしょ」
お父さんが、
「いいじゃないか。それでは問題点を洗い出そう。具体的に今の状況を教えてくれ」
俺は、今の現状を話した。
― 二年生の園芸部長工藤静香、八頭音江、三年生の生徒会長新垣優子、一年生の望月美紀が俺に迫って来る事。
― 学校内に男女合わせて百人上いるらしいファンクラブが出来ていて普段から俺を守ると言って俺の周りにいる事。
― 昨日の文化祭のミス星城コンテストで優勝してしまい、それが外部に漏れて他校生が見に来ている事。
「なるほど、それは大変だな」
「流石私の息子だわ。麗人、思い切って芸能界にデビューして芸能人だけのクラスを持つ高校でも転校する。あそこなら麗人でも特別扱いしないでしょ」
「駄目だよそんなの。今の学校は健吾と雫と話し合って入ったんだから転校なんて考えられない」
「麗人、お前が誰かを好きになれば他の人は諦めるんじゃないか」
「お父さん駄目だよ。お兄ちゃんの彼女になった人がどんな目に遭うか分からないじゃない」
「そうなのか?」
「今の高校生は怖いのよ」
美麗の言葉にお父さんが考え込んでしまった。純粋な高校生もいるから安心して。
「じゃあ、麗人が学校の外で彼女を作ればいいんじゃない」
「そんな事が出来れば苦労しないし、そもそも俺は女性に興味ない。勿論そっちの気もないけど」
「「「「……………」」」」
四人で考え込んでしまった。
「あっ、お兄ちゃん居た。強くて綺麗で礼儀正しい人」
「誰?」
「お兄ちゃんの道場の大学生東郷秀子さん」
「あっ!」
お父さんが反応した。
「そうだ、あの子なら麗人に相応しいし、あれだけの腕前なら苛めとか縁が無いだろうし」
「あなた、その子にどうやって頼むの。麗人の彼女になってくれと言う訳?それにその人にお付き合いしている人がいたら駄目じゃない」
「それは確かに…」
「東郷さんかぁ。綺麗だけど厳しいからなぁ。それにこんな事頼む関係じゃないし」
「でも、それくらいの方がいいんじゃない。偽恋人になるなら」
「うーん。しかしなぁ。それにどうやって東郷さんが俺の彼女だって他の人に分からせるの。外の人って難しいでしょ」
「学校の登下校で一緒に居て貰えば」
「あの人だって都合あるだろう」
「お兄ちゃん、とにかく聞いてみたら」
俺は、次の日文化祭の代休二日目に午前中道場に稽古に行った。東郷さんも来ていた。大学生ってどんな生活しているんだろう?
昨日の事もあり、駄目元で聞いてみるか。
俺は午前中の稽古が終わると早速声を掛けて見た。
「あの東郷さん。少し話出来ないですか?」
「早乙女君が私に話?珍しいわね。でもこの後授業があるのよ。午後五時からなら大丈夫かな」
「分かりました。何処で会えますか?」
「そうね。君の学校のある駅の近くにファミレスがあるでしょ。あそこで良いかな?」
部活の人が居る可能性が高いけど仕方ないか。
「分かりました。午後五時にファミレスの前で待っています」
俺は一度家に帰ってシャワーを浴びて体を綺麗にした後、昼食を摂って本を読みながら時間を潰した。
午後五時に学校のある駅の前にあるファミレスの前に行くと東郷さんはもう来ていた。
「すみません。待たせて」
「いいのよ。私も今来たばかりだから」
店内に入り周りを見ると取敢えず高校生らしき人達はいない。店員に案内されて席に着くと
「話ってなあに?」
「あの取敢えずドリンクバー頼みましょうか」
「そうね」
何も注文しない訳には行かない。
ドリンクバーからお互いの飲み物を持って来ると
「実は…」
取敢えず学校生活の現状を話した。
「それは大変ね。でも早乙女君じゃあ、分かる気もするけど。それと今日の話って関係あるの?」
「はい。あのその前に大変失礼な事をお聞きしますけど。…東郷さんって今お付き合いしている人います?」
「えっ?!また凄い事聞いて来るわね。居ると言ったら」
「そうですよね。失礼しました。もうこの話は無かった事に…」
「話をする前にこの話は無かった事になんて可笑しいでしょう。話をとにかく聞くわ」
「実は…。俺の偽の彼女になって欲しいんです」
―ぶっ!
東郷さんがジュースを吹き出してしまった。
「ごめんなさい。いきなり凄い事言うものだから」
「すみません」
「返事はNoよ。偽でないならいいわよ」
「それは…」
「ふふっ、どうする。不登校を選ぶ、それともわ・た・し?」
どこかで聞いたようなフレーズだけど
「……………」
やっぱり無理か。流石に正式な彼女になってくれとは言えない。俺が黙っていると
「悩むよねー、早乙女君、女性に興味なさそうだし。いいわ。偽彼女なってあげる」
「えっ?!」
「ただし条件がある。偽ともいえ、君の彼女になるという事はそれなりのリスクが発生するわ。だからその代償が欲しいの」
「代償?」
「そう、代償。一つ目は二週間に一回はデートする事。しないとおかしいでしょう。二つ目は…キスしてくれる事。あっちは駄目よ。勿論、本気で好きなら良いけどね。後、お互い名前呼びする事。麗人と秀子って。この三つかな」
「……………」
この人とんでもない事を言って来たぞ。
「駄目ならこのお話は無し。どうする麗人」
「あの、キスは無しで」
「駄目、一番重要」
流石にキスは受け入れられない。
「分かりました。この話は無かった事で」
「えっ、ちょ、ちょっと待って。じゃあ、キス無しで」
「それならお願いします」
危なかった。早乙女君とイチャつくチャンスを逃すところだった。流石にキスは駄目か。
「ところで、私が麗人の偽彼女になったとしても、学校の問題解決にはならないわよね。どうするの?」
「はい、俺と毎日登下校して欲しいんです」
「毎日?うーん。それは無理だわ。一限取っている日も有るし、五限目を取っている日もあるから。
それを考えると火曜日と木曜日は登下校良いわよ。登校だけできる日は水曜日と金曜日かな。下校はだけは月曜日。時間教えてくれれば合わせるわ」
「分かりました。それでお願いします」
俺は、家に帰ってから、お父さんと美麗にその事を伝えると
「取敢えずそれで効果を見るしかないわね」
「麗人、東郷さんは美人だし。武道も達者だ。頭もいい。正規の彼女にしてみたらどうだ?」
「お父さん、あの人に失礼ですよ」
「相手はそう持ってないんじゃないか」
何となく、分かるけど。俺は今彼女を作る気はない。そして翌木曜日の登校から始まった。健吾と雫には伝え済みだ。
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