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日常が平穏に戻らない


 体育祭の翌日、土曜日は、道場に行ってしっかりと稽古した。昨日の事を頭の中から忘れたいという思いだ。


 日曜日は、大人しく家で本を読んで過ごした。外に行っても碌な事がない。


 そして翌月曜日、いつもの様に健吾と雫を待っていると改札から出てくる生徒達が、わざわざ俺の前だけをゆっくりと歩くようにしている。心当たりはあるし、仕方なく無視して改札の方だけ見ていると健吾と雫が改札を出て来た。


「「麗人おはよう」」

「健吾、雫おはよ」

「今日は朝から凄いな」

「まあ、仕方ないわね。人の噂も七十五日っていうから」

「えっ、一ヶ月じゃないの?」

「それはそれ」


 どういう意味だ?


 校門に近付くと、何故か人だかりが多い。三人で校門をくぐろうとした時


 えっ?!


 校門から校舎まで道の両脇が生徒でアーケードの様になっている。女子生徒だけじゃない。男子生徒も一杯いる。


―いらしたわよ。

―美しい。

―いえ、可愛いわ。

―もう立っていられない。


―なあ、俺やっぱり女の子になろうかな。

―いや、今はボーダーレスだ。

―そうだ。その気持ちで行こう。



 凄い事を言われながら道の真ん中を歩いていると


「健吾、何だあれ?」

「あっ、早乙女麗人ファンクラブ入会受付中って登りに書いてある」

「はあ、中学でもここまでは無かったな」

「凄い人数がサインしているぞ。麗人どうする?」

「どうするって言われても何も出来ないだろう」

「お前が認めないと言えばいいじゃないか」

「それ言っても別の形で出来るだろうし、中学の時の様にバラバラにストーカーされるより良いんじゃないか」

「それはそうだけど」


俺、やっぱり帰ろうかな。



 私、九条静香。先週の体育祭で麗人の事が全校生徒に知れ渡ってしまった。それは仕方ないとして、今日は多少いつもより麗人の姿を見る子が多くなるかなと思っていたけど、ここまでとは。何とか変な虫が付く前に何とかしないと。



 私、八頭音江。早乙女君が先週の体育祭で思い切り目立ったのは仕方ないとしても、これは計算外。不味いわ。それにあの九条静香が、これを見て大人しくしているとは思えない。




 ファンクラブ入会受付中の登りのある場所を遠く歩こうとしても両脇は生徒で一杯だ。仕方なくそのまま行こうとすると


「早乙女様。今日もお美しい」

「私が早乙女様ファンクラブ一号の…」

「何言っているのよ。私が一号よ」

「二人共おかしいでしょ。このファンクラブを立ち上げようと言ったのは私が先。だから一号は私」



 何を言っているのか理解したくものない俺は、そのまま早足で昇降口に行って、下駄箱を開けようと…。開いていて中からは可愛い封筒が床まで零れ落ちていた。


「はぁ、健吾、雫。どうしようか?」

「麗人、これ使って。帰りにスーパーで買い物する為に持って来たんだけど、仕方ないわ」


 雫が持っているビニール袋の一つを出してくれた。


「ごめん雫」


 俺は仕方なしに零れた封筒と下駄箱の中に入っていた封筒を全部ビニール袋の中に入れるとやっと上履きが見えて来た。しかし、これどうすればいいんだ。


 昇降口から教室に入るまでも同じ風景が有った。二年生、三年生の男女の生徒がいる。やっとの思いで教室に入ると


「早乙女君、おはよう」

「おはよう上条さん」


 あれっ?直ぐに前を向こうとしない。


「あ、あの。上条さん?」

「はい」

「いつも挨拶したら前向くよね?」

「もう、それはしません。ここまで早乙女君の事が知れ渡った以上、私も我慢するのを止めました。桜庭先生が入って来るまで、あなたを見ています」


その言葉に反応した田畑さんがやって来た。

「ちょっと、上条さん。クラス内での決まりがあるでしょ」

「田畑さん、私は鑑賞しているだけです。決まりは破っていません」

「それは、そうだけど…」


 クラスの女子全員と田所達を除いた男子がこっちを向いている。


 もう疲れた。まだ、一限も始まっていないのに。



 一限目の中休み。窓や教室の出入り口は他のクラスの生徒で一杯だ。これを見た田所が


「麗人。当分。教室を出る時は、俺達が一緒にいるよ」

 一緒に来た川上も相模も頷いている。


「麗人、当分仕方ないな」

「みんな、悪いな」

「「「いいって事よ」」」


 

 二限目の中休み、トイレに行く時も三限目の理科実験室に行く時も男子だけでなく女子も俺の周りにいてくれる。感謝しかない。



 午前の授業が終わると健吾が

「麗人、購買に行って来る。いつものでいいか?」

「ああ、悪いな」



 健吾が戻って来ると何故か手に一杯の包みを持っていた。

「何だそれ?」

「いや、お前の菓子パンとジュースを買って教室に戻ろうとしたら

―小早川君でしょ。それ早乙女様のお昼よね。私、あの方の為に一生懸命お弁当作ったの。少しだけど早乙女様に渡して。

―私も、私も

って訳だ。断ったんだけど、菓子パンの手に強引に押し付けられて、行ってしまったものだから」


「はあ、そうか。悪かったな。しかしどうしたものか」

「麗人、これ十食以上あるわ。流石にこれ全部食べられないわよね。それに包みに可愛い紙が挟んである」

「仕方ないから持って帰るよ」



 お昼も終わり、男子と一緒にトイレに行って、なんとか午後の授業も無事終えた。放課後になり、校舎裏の園芸部兼倉庫に行こうとすると


「麗人、行くのか?」

「ああ、園芸部員だからな」

「そうか。悪いな。皆部活が有って一緒に行けない」

「健吾、田所。気にするな。何とかなるだろう」



 俺は、周りを女子と男子に取り囲まれながら行くと


 えっ?!倉庫の周りは生徒で一杯だ。あっ、九条先輩の他に桜庭先生までいる。どうしたんだ?


「九条先輩、桜庭先生。これは?」

「麗人。みんなあなたの水やりを見に来たのよ。園芸部に入りたいという人を桜庭先生に断って貰ったら、皆ここに来てしまって」

「九条さん、何?なんで、あなたが早乙女様を名前呼びしているのよ。失礼よ」

「「「そうよ、そうよ」」」


「皆さん、九条さんと早乙女君の水やりが出来ないわ。少し退いて」


 ざわざわと女子生徒が退いてくれた。


 俺は九条先輩と一緒にここの花壇と校門の花壇の水やりを何とか終わらせてジョーロとリールフォルダを倉庫に仕舞おうとすると


「早乙女様、それは私が仕舞います」

と言って俺の手からそれを取ろうとした女子に


「何言っているの。早乙女様が触ったジョーロとリールフォルダは私が」

「私よ」

「私!」


「皆さん、いい加減にして下さい。早乙女君が終わらせられないでしょう。退きなさい」



 女性生徒が桜庭先生を睨んでブツブツ言いながら倉庫の前を開けてくれた。水やりが終わったのでそのまま帰ろうとすると

「早乙女君、一緒に職員室に来て」

「あの私も」

「九条さんは来なくて良いわ」


 流石に職員室まで付いてくる生徒はいなかったけど、先生俺になんの用事があるの?


―――――

 

まだ★が少なくて寂しいです。評価してもいいけど★★★★★は上げないという読者様、★★でも★でも良いです。頂ければ幸いです。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると嬉しいです。ご感想もお待ちしております。

宜しくお願いします。



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