中間考査は賑やかです
今日は火曜日。いよいよ高校生になって初めて考査だ。一日二科目。午前中だけの考査だが、やはり初めてというのは緊張する。
教室の中も今になって一生懸命教科書を読んでいる生徒もいれば、諦めたのか余裕なのか、迷惑そうにしている隣の子に話しかけている奴もいる。
俺はというと範囲も難易度も中学の延長線上にしか見えない。ケアレスをなくせば、まあまあな成績は取れるだろうと踏んでいた。
二日目の考査も終わって、
「健吾、雫。俺、今日水やりだから」
「ああ、先に帰るな」
「麗人、また明日」
「ああ、また明日」
俺はスクールバッグを持って校舎裏の園芸部の倉庫に行くと、まだ九条先輩は来ていなかった。
少し待っていたけど、来ないので取敢えず目の前の花壇に水やりを始めた。水やりが終わっても来ない。
待っていても仕方ないので、リールフォルダだけを持って校門の傍に行くと、帰宅する生徒の姿はまばらだった。
校門の花壇にも水をやり、ホースをリールフォルダに巻き付けて倉庫に帰ろうとすると校舎からぞろぞろと生徒、多分二、三年生と思われる人たちが校門に向って来た。
俺は隅に避けながら歩いていると
「ねえ、あなた。女子バスケに入らない。あなたの身長なら直ぐにレギュラーになれるわ」
「園芸部に入っているので」
「兼部すればいいじゃない」
「すみません。女子バスケ入る気無いので」
「そうなの?」
「ねえ、女子バレーはどうかな?」
「すみません」
俺は、小走りにその場から逃げると
「残念だわ。あれだけの身長が有れば…。それにあの美貌。絶対女子バスケ盛り上がるのにな」
「そうよね、女子バレーもよ。ねえ、園芸部って二年の九条静香でしょ。あの子に言って運動部と兼部させるか、辞めるように言おうよ。園芸部なんて誰でも出来るわ」
「そうね。そうしようか」
そんな事を話されているとは露知らず、俺が倉庫に戻って来ても先輩は来ていなかった。
どうしたんだ。まさか、俺に押し付けて自分は考査の勉強の為に帰ったのかな?どちらでもいい。今度の金曜日なら考査も終わった後だから来るだろう。俺はそのまま家に戻った。
少し注意すれば、倉庫の近くで九条先輩が他の三年生に囲まれている事が分かったのに。
私、九条静香。ここに来る途中、先輩達に囲まれてくだらない事を言われて時間が経ってしまった。
その後、倉庫に来たのだけど、花壇の水やりは終わっていて、倉庫も締まっていた。麗人怒っているかな。
今は考査期間中、金曜日も来てくれるだろうからその時、謝るか。
今日は金曜日。四日間続いた中間考査も無事終わった。今日から部活も再開される。
「麗人。お昼食べるか?」
「そうか、健吾も雫も今日から部活再開か。そうだな食べる」
「じゃあ、購買に行くか」
健吾と二人で購買に行っていつもの菓子パンとジュースを買って教室に戻ろうとすると九条先輩がお弁当を手に持ちながら男子に声を掛けられている。先輩はもてるからな。そのまま通り過ぎようとすると健吾が俺の視線に気付いたのか
「九条先輩に声を掛けているのはBクラスの藤堂隆久だ。俺と同じバスケ部で、暇さえあれば九条先輩の事を言っている。相当好きみたいだな」
「そうか」
「麗人、藤堂には気を付けろ。九条先輩はお前が好きだと思い切りアピールしているからな。藤堂からすれば、お前は恋敵になる」
「なんで俺が恋敵なんだ。俺は九条先輩の事なんか、少しも気にしていないのに」
「お前にその気が無くても相手はそう思ってくれないからな」
「…………」
教室に戻って雫と一緒に三人で食べているといきなり藤堂隆久が教室に入って来た。教室に残っている生徒が驚いている。キョロキョロした後、俺達の傍に来て
「お前が早乙女麗人か。女みたいな顔して気持ち悪い。早乙女、俺は九条先輩を譲る気は無いからな。覚えて置け」
「おい、麗人の顔見て気持ち悪いとはなんだ」
健吾が立ち上がって、相手の胸倉を掴んだ。
「小早川か、お前には関係無い事だ。手を離せ」
「ふざけるな。親友を馬鹿にされて黙っていられるか。麗人に謝れよ」
教室の他の生徒の注目を浴びてしまっている。
「健吾、辞めろ。お前誰だ。いきなり他のクラスの生徒が入って来たと思ったら、俺をばかにする言葉を言ったけど」
健吾から相手の名前を聞いてはいるが、周りに周知させる為に聞いた。
「俺か、藤堂隆久だ。Bクラスだ。お前みたいな奴は九条先輩に相応しくない。手を引け」
「手を引くも何も俺は九条先輩の事をなんとも思っていない」
「九条先輩がお前の事を好きだから俺とは付き合えないと言われた。だからお前が断れ」
「藤堂とか言ったな。今は食事中だ。後で話しを聞いてやる。廊下で待ってろ」
「ふん」
藤堂が廊下に出た。周りの男子女子が寄って来た。
「早乙女君、大丈夫?」
「早乙女、大丈夫か。あの野郎、少し顔が良くて頭がいいからって、普段から俺達を見下して見ているんだ。あんなのに負けないでくれ」
「みんな、心配ありがとう。でも昼食先に食わせてくれ」
「あっ、悪かったな」
「ごめん。早乙女君」
皆が自分達のグループに戻って行った。
「悪かったな。健吾」
「いや、あいつバスケの中でも嫌われている。少し位自分が出来るからって威張り散らかしているんだ」
「そうか」
しかし、九条先輩って人は。
俺達が食事を終わって、ごみを片付けた後、廊下に行くと馬鹿正直にまだ藤堂は待っていた。
「何だまだいたのか。俺は水やりに行くから退いてくれ」
「ふざけるな」
俺の胸倉を掴もうとしたので、その手をそのまま捻って北条の背中に回って押しつけた。
「痛てぇ。離せ馬鹿野郎」
「いきなり人の胸倉掴もうなんてするんじゃない。俺はお前に興味無いし邪魔なだけだ。これ以上やるなら相手してやるぞ」
「藤堂止めとけ、お前が叶う相手じゃない」
「ふ、ふざけるな。女みたいなお前に負ける訳無いだろう」
「仕方ない」
俺は北条の手を離して背中を押すと
「止めとけ。俺は水やりに行く」
「馬鹿にするな」
いきなり殴りかかって来た。ここは校舎の中の廊下だぞ。馬鹿かこいつ。
仕方なしにその手を払って、鳩尾に一発食らわせた。
―ぐぇ!
「おい、お前ら何している」
誰が呼んだが知らないが、体の大きい男の先生が二人来た。
俺達の周りは生徒の人だかりで一杯になっている。女子の誰かが
「藤堂君がいきなり早乙女君に殴りかかったんです」
「「そうよ、そうよ」」
「本当か、藤堂」
「俺は…」
「お前達二人共生徒指導室に来い」
「えっ?」
なんで俺がこうなるんだ。
「先生、俺も付いて行っていいですか。麗人は悪くない。俺達が昼飯を食べている時、こいつがいきなり教室に入って来て、麗人を馬鹿にし始めたんです。麗人が食事中だから廊下で待っていると言うと、その通り待っていて、麗人が園芸部で水やりに行こうとしたらいきなり藤堂が殴りかかったんです」
「そうよ」
「先生。俺達も見ていた。藤堂が悪い」
「そういう事なら、藤堂だけ来い。早乙女は来なくていい」
「はい」
先生達が北条を連れて行くと
「健吾、皆ありがとう」
「いいって事、今回は、一方的にあいつが悪いんだ。しかし随分手を抜いたな」
「本気で殴る訳にはいかないだろう」
「それもそうだ」
「じゃあ、俺は水やりに行くから」
「ああ、俺達は部活に行く」
―ねえ、今の見た。
―早乙女君って綺麗で可愛いだけじゃなくて腕も強いのね。
―もう彼以外考えられない。
―あれが噂の早乙女麗人。
―初めて近くで見たわ。綺麗で可愛くて背が高くて腕も強い。
―私一目惚れ。
―私もう。
後ろの方で変な声が聞こえるけど無視しよう。
園芸部の倉庫に行くと案の上、九条先輩が起こった顔で待っていた。
「遅い!」
あなたの所為ですよ。早く来たなら水やり先にやってくれてもいいのに。
「さっ、早くやるわよ。ジョーロ持って」
「分かりましたよ」
やっぱり園芸部いや九条先輩から距離取ろうかな。
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まだ★が少なくて寂しいです。評価してもいいけど★★★★★は上げないという読者様、★★でも★でも良いです。頂ければ幸いです。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると次話書こうかなって思っています。
宜しくお願いします。




