野坂祐希
文学ジャンルに挑戦してみました。
多分、こういうのは文学にカテゴライズされるのだと思います。
ご笑覧ください。
小さな街ですからね。それだけに若き天才たちはとても魅力的なネタでした。ふたりは同い年でしたしね。
有働治くんと丸尾花さん。
私はピアノのことなんて全く分からないですけど、それでも小学校に上がる前であれだけ弾けるのがすごいのは分かります。もちろん体格の問題なんかで、いまは弾けない曲もいっぱいあるんでしょうけど。
有働くんはおとなしい少年でした。当時五歳だったと思いますが、内向的ってのはその時から現れるんだなと感心してしまいました。こっちが質問をしても、少し考えるようにして、自分の中で回答を一度吟味してから口にするという感じで。
ピアノの腕は素人目にも優れているのが分かりました。腕と指の運びに迷いがないんですよ。機械のように正確に鍵盤を叩く。技術力があることがよく伝わりました。
取材したコンサートではダカンのカッコウという曲を弾いていました。すごく音数が多い曲ですよね。素人目にはすごく難しそうなんですけど、そうでもないんですかね。
丸尾さんは年頃の女の子って感じでしたねえ。カメラやレコーダーに興味津々で、表情をコロコロと変えていました。ドレス姿を撮って焼き増しして渡したら、すごく喜んでいましたよ。
それなのに、舞台に上がったらまるで別人のようでした。
ここで、読み手としては「ストンと表情を落とし」「まさにゾーンに入ったように」と期待するのでしょうが、現実は違います。彼女、あがり症だったんです。観客に見られているとガチガチになってしまって、普段のパフォーマンスができなかったんですね。知らない人が一人二人聴いている分には平気だったようですから、人見知りというよりは大勢に見られているのがダメだったのでしょう。
彼女のご家族やピアノ教室の先生しか、本当の実力を知らなかった。
リラックスさせた状態で弾かせれば、それはもう上手でした。指を素早く動かすような技巧的な演奏から、緩やかなフレーズに至るまで、器用に弾きこなしていました。色んな曲を弾いてくれましたよ。
え? そんな子なのに取材して大丈夫だったのかって?
紙面に載せたあと、近所の人からはよく褒められるようになったそうですよ。でも小学生がピアノを披露する場なんて限られていますからね。同じピアノ教室の生徒たちが発表会をするようなところなら、せいぜい生徒とその家族しか来ない。掲載されようがされまいが、あまり変わらなかったと思います。
印象的だったのは、ふたりの親御さんですね。
取材中はそれぞれの母親が傍についていました。
有働くんのお母さんは医者をしているらしいです。ご両親は共に医者だとか。家にいない時間がどうしても長くなるので、子どもには悪いことをしているのだとはにかみながら言っていました。おっとりとした感じのお母さんでしたね。
丸尾さんのお母さんは所謂教育ママという雰囲気ですね。パンツスーツをばっちり着こなしているような。「将来ピアニストとして大成してもらいたい」「そのための教育は惜しまない」と言ってらっしゃいました。すこしツンとした感じのお母さんでしたね。
いやあ、将来が楽しみです。逸材が現れたって感じですからね。
実は、知人にピアノコンサートに誘われていまして。今までなら理由をつけて断っていたと思うんですが、いまは少し興味が出てきていて。若き天才たちに感化されたってことですかね。
野坂祐希/フリーライター
続きます。
お読みいただきありがとうございました。
感想の他、ブックマークや☆等もお待ちしております。
☆はひとつだけでも構いません。数字に表れることが嬉しく、モチベーションになります。よろしくおねがいいたします。