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第八話:悪夢のような現実


 相澤は化け物を見る。ゴム状の体に犬のような顔、その目には透明な液体が流れ出ている。

 その液体の正体はなんだろうかと思った。だがそんな疑問を吹き飛ばすように化け物のかぎ爪が飛んでくる。


「浅田さん、大丈夫か!? 」


 相澤は化け物の攻撃をかわしながら叫ぶ。自分の足をひねっていただろうか。正直今までの相手よりも回避が難しく感じた。


「相澤、ウチは大丈夫や。心配しなくてええで」


 彼は化け物を軽々とかわしながら答える。そんな彼を見ながら相澤は化け物の頭を目掛けて回転蹴りを放った。


 不快な音が辺りに響いた。相澤の蹴りが直撃した化け物はゆっくりと倒れていく。




「がんばれー! 」


「負けるなぁー! 」


 子供たちの声が遠くから聞こえる。相澤は思わず左手を挙げて声援に答えた。


「よしきたで! ここで追撃や! 」


 そう言いながら浅田は化け物に向かってバットを振り下ろす。しかし化け物は回転して攻撃を避けられ、バットが空を切る。そんな彼の後ろで倒れていない方の化け物が噛み付こうとしていた。


「浅田さん! 危ない! 」


 相澤は叫ぼうとしたが彼が避ける間もなく化け物の噛みつきはそれた。


 その間に倒れている方の化け物が浅田の足元をかぎ爪で狙う。だが先程の相澤の攻撃のせいか力なく空振りするだけだった。


「ふぅ、本当に気が抜けないな」


 相澤は一息つく。今までの戦いは前座でここからが正念場だという雰囲気をひしひしと感じる。

 浅田の姿を見ようとした時、彼が突然口を開いた。


「せやな。でも気を抜かなければ勝てるはずやで」


 しばらくして浅田がポツリと言った。


「相澤、あんた共に戦わなければここまで行けへんかったと思っとるわ。ウチなんかと戦ってくれてほんまありがとうな」


「そうか、俺も共に戦えて良かった」


 相澤はそう言うと化け物の胴体に向かって回転しながら蹴り上げる。しかしその蹴りは化け物に届かず足が空を切った。




「ここはウチが何とかするわぁ! 」


 蹴ろうとした化け物に向かって浅田はバットを振り下ろす。だがこれも当たらず地面を打つだけだった。


 相澤は妙な既視感を覚えた。この妙なもどかしさは二回戦で味わったことがある。また別の個体が混じっているのではないかと馬鹿馬鹿しい考えが浮かぶ。


「ほんま危ないわぁ」


 元気な方の化け物の攻撃を避けながらぽつりと浅田が呟く。口ぶりからして今までの化け物と違い、回避が難しくなったことに気がついたのだろう。

 ようやく倒れていた化け物が起き上がり、相澤に向かってかぎ爪を振り上げる。相澤は身をかわすように避けようとした。


 しかし体がいうことをきかず、化け物のかぎ爪が相澤の目の前まで迫る。気がつけばそれは相澤の胸部を切り裂いていた。

 赤い液体が相澤の胸を染める。相手にやられるとはなんとも情けない。あまりの馬鹿馬鹿しさに相澤は自分を(あざけ)った。


 自分の血の匂いに混じって子供たちの悲鳴が聞こえてくる。やられたとしても立ち上がらなければ。相澤はよろめきながら立ち上がろうとした。


「相澤っ……!? 」


 浅田が驚いた顔で相澤の体を支える。まさかこちらが負傷するとは思ってもいなかったのだろう。相澤は自分が足を引っ張っていることに申し訳なさを感じる。


 視界が段々暗くなり、意識が遠くなっていく。もしや自分は死ぬのではないかとも思えてくる。だが心の奥底では意識を保とうと抗い続けていた。




「ハッハッハ! 面白い、面白くなってきたね! 」


 男の笑い声が子供たちの悲鳴に混じって聞こえてくる。相澤は男に対して腹立たしかったが、腹を立てても心は段々とむなしくなるだけだった。


「浅田……さん……すみません……」


 相澤は意識を保ちながら口を開く。その声は自分が発したとは思えない弱々しい声だった。


「大丈夫や、今からウチが処置したる。終わったらまた戦おうや」


 浅田の言葉に相澤は首を振った。無駄だ、一緒に戦えるわけが無い。相澤はどこか諦めていた。


「無駄だ。浅田さんは俺を助けるよりもあの化け物たちを……」


 段々意識が朦朧(もうろう)とし、言葉が出てこなくなる。気がつけば床に寝ており、浅田の顔が鮮明に見えた。だがその顔も段々と暗くなる視界で曖昧(あいまい)になっていく。


「そんなこと出来へんわ!ウチは相澤を見捨てへん! 絶対、絶対に二人でまた戦うんや! 」


 浅田はどこか涙ながらにこちらの上着を脱がせる。そして救急箱からガーゼを取りだして止血をし始めた。


 もう相澤には喋れるほどの力が残っていなかった。浅田に対してなにか言おうとしたがすでに声帯が自由にならないことに気がつく。

 段々と暗くなっていった視界が遂に真っ暗になる。それと同時に何も存在しない無の感覚が相澤に襲いかかった。


 あぁ。これが死ぬ時なのかと相澤は思う。残ったのは子供たちの泣き声と悲鳴、そして男の笑い声だけだ。しかしそれらの声も段々と聞こえなくなり、意識がプツリと切れた。

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