第六話:当たらなければ意味は無い
相澤は地面を蹴りあげると宙を舞う。そして回転しながら化け物の体を目掛けて蹴りを放つ。
しかし蹴ったところがかなり低くなり、ただ蹴っているようになる。だが全く効いていない訳ではなく化け物はうめき声のようなものを上げた。
それでも化け物はこちらを串刺しにしようと槍を突き立てる。しかし相澤が避けるまでもなく槍は空を切った。
「ほな、行くで」
浅田はそう言いながらバットを化け物の体を目掛けて振り上げる。だが突然彼の手からバットがすっぽ抜け、音を立てると遠くへ転がっていった。
「な、なんでや! 」
浅田は驚きながら転がっていくバットを追いかける。そんな彼の姿を横目に相澤は再び宙を舞う。今度は化け物の頭を目掛けて蹴りを放った。
しかしこの攻撃も避けられ、化け物の槍が相澤を襲う。相澤は必死に回避行動を取ると槍は地面へと突き刺さる。
相澤は攻撃が当たらないことにどこかもどかしさを感じていた。見た感じ倒した個体と全く変わらない。なのにこんなにも攻撃が当たらないのはおかしいと思えてくる。
いや、ちょっと待ってくれ。相澤はようやく自分がすすんで殺し合いをしていることに気がつく。相手が化け物だから、子供のためだから。相澤の頭に様々な言い訳が浮かんできた。
まだ言い訳ができるなら正常だ。だが忘れてしまった時が自身の狂った時だろう。相澤は自分自身をそう説得する。
「相澤、どないしたんや? 」
「いや、なんでもない」
浅田の一言に相澤は我に返る。正直彼をそこまで心配させたくはない思いがこみ上がり、そう口にすることが精一杯だった。
その答えに浅田は少し不思議そうな顔をすると再び化け物の体を目掛けてバットを振り上げた。
化け物の悲鳴と共に男の子たちの歓声が聞こえた。浅田のバットは化け物に直撃し、大きくバランスを崩させることに成功する。状態を見る限り化け物は虫の息であり、もう少しで倒せそうな雰囲気を醸し出していた。
「トドメは俺に任せてくれ」
相澤はニコリと笑う。そしていつものように地面を蹴り、宙を舞った。正直この動作は面倒だが、やらなければ相手に致命傷を与えられないのだ。相澤は縦に回転しながら化け物の頭部へと足を振り下ろした。
「なっ……!? 」
相澤は愕然とした。化け物に身をかわされたのだ。振り下ろした足は空を切り、相澤はゆっくりと着地する。こころなしかあの時ひねった足がジンジンと痛んだ。
「はぁ、しまんないわぁ」
怪物の槍をかわしながら浅田が呟く。確かに彼の言う通り締まらない結果になってしまった。別に化け物は自分が倒しても浅田が倒しても変わりはない。だが心のどこかでは敗北感のようなものを味わっていた。
「なら……君に任せた。浅田さん」
相澤の言葉に彼は頷くと化け物の体に向かってバットで殴った。何か塊を殴ったような音と共に化け物の断末魔が聞こえる。しばらくして化け物ゆっくりと倒れ始め、遂には動かなくなった。
「キミたちはさすがだよ! 本当に優秀だよ! 」
男が椅子から立ち上がると相澤と浅田に向かって拍手をする。もちろん子供たちも男と同じく拍手をし続けていた。
「……子供たちを早く解放してくれ」
相澤は男に言い放った。今のところこちらは無傷だがもう充分に満足させたはずだ。正直もうこれ以上は戦いたくなかった。
「んーそうだなぁ……そんなことよりキミたち、お腹すいてない? 」
男は話を逸らすと疑問を投げかけてくる。
「別に俺は空いてないが? 浅田さんはどうだ?」
「ウチも空かへんわぁ」
相澤と浅田が答えた時、男は気だるそうに言った。
「キミたちには聞いてないよ。キミたちだよ、キミたち。キミたちはお腹すいたかい? 」
男は子供たちに訊ねる。しかし誰一人首を縦に振らず、じっとしているだけだった。
子供たちの態度に相澤は急に心配になる。常識的に考えて殺し合いを見ているならば心が壊れてしまうことは分かりきっていた。だが戦わなければ子供たちを助けられない事も重々承知の上だ。
「なぁんだ。ボクだけとは面白くないね。でも戦士たちを少し休ませたいし……」
男はそう言いながらあごに手を当てて考え始める。これは彼なりの優しさだろうかと相澤はふと思う。しかしその態度も自分や浅田を貶めるための演技ではないかとの疑いもあった。
「そうだ。実は今まで言ってなかったけど……」
男は意味深そうな表情を浮かべると姿を消す。一体なんのつもりかと思ったが男はすぐに浅田の前に現れた。
「キミ、何か持ち込んでるよね? 」
男はそう言いながら突然浅田の体をまさぐり始めた。一体なんのつもりだろうかと思っていると目的のものを見つけたのか男はそれを取り上げる。
「ふーん。キミ、彼女がいたんだ」
男はそう言いながら浅田に取り上げたものを見せる。それは一枚の写真だった。
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