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第五話:足りなかったのは覚悟

 相澤はため息をつく。ここまで来ると男は趣味の悪いものとしか戦わせないのだろうかとまで思えてくる。


「なんやこの化け物、気色悪いわぁ」


 浅田も鉄格子の中から現れた化け物に辟易(へきえき)していた。それも無理はないだろう。化け物の曖昧(あいまい)な鼻面の先には桃色の短い触手が固まって生えているのだ。更に桃色の触手は震えており、気色悪さを助長している。


「相澤、こんな化け物平気なんか? 」


「いや、平気って訳でもない。だが……あの男の趣味と考えるとちょっとはマシになってこないか? 」


 相澤はそう言いながら怪物の体を見る。灰色がかった白色の体は浅田よりも二十五センチほど大きく、どこか油っぽさを感じた。


 ここまで巨体となると相澤は体格的に不利だ。さらにこの化け物は二匹いる。浅田としっかり連携を組まなければこの化け物達を倒すのは厳しいだろう。


 だが全く勝てる算段がないわけではない。相澤は地面を蹴って飛び上がろうとした。しかし飛び上がった方向がかなり悪く高さもあっていない。ここは一度仕切り直そうと地面に着地した時、相澤の左足首に激痛が走った。


「相澤、足ひねったんか!? 」


 相澤の異変にすぐさま浅田が駆け寄ってくる。しかし一匹の化け物が持っていた槍で彼を串刺しにしようとしていた。


「おっと、気ぃ抜けへんで」


 浅田は化け物の攻撃をひらりとかわすともう片方の化け物の攻撃も難なく避ける。ここまで体が大きいのによく軽々と避けきれるものだ。相澤は浅田を見ながらどこか感心していた。


「相澤、大丈夫なんか? 戦えるんか?」


「大丈夫だ。なんともない」


 浅田は相澤の元へ来ると直ぐにひねった足を見始めた。


「ほんまか? 酷かったらウチみたいに足首にボルト入れなあかんで」


 彼はそう言って相澤の足の状態を確かめる。慣れた手つきからあの話は嘘ではないと感じ取れた。


 だが何があってそんな怪我をするのだろうか。その疑問を訊く前に浅田は足の状態を確認し終えていた。


「まぁ見た感じちょっと安静にしたら良くなるぐらいやな。酷くなくて良かったわぁ」


 浅田はそう言うとバットを持ち、一匹の化け物へと近づく。そして間髪入れずに彼は化け物の胴体を目掛けてバットを振り上げた。


 浅田のバットに当たった化け物は悲鳴と共に少し吹っ飛ぶ。しかしまだ化け物は余裕そうに立ち上がると落ちていた槍を握った。


「すげぇ!」


「かっけぇー!」


 浅田のバットさばきに男の子たちが次々と歓声を上げる。彼も子供の歓声を聞いて少し上機嫌になっていた。


 相澤はそんな彼を微笑ましく思いながら再び宙を舞う。そして浅田が攻撃した化け物に向かって回転しながら蹴りを放った。


 化け物は体制を立て直していたがこちらの攻撃によって再び崩れていく。相澤は地面へと着地する間、化け物達の槍が相澤を目掛けて襲いかかってくる。


 しかし避けることをせずとも槍は空を切り、相澤は綺麗に着地した。ひねった足が悲鳴をあげており、思わず顔をしかめてしまう。


「ほんまアクション俳優って凄いんやな。魅せるものは相澤に任せてウチは地道に行くわぁ」


 浅田はそう言いながら虫の息になっている方の化け物に向かってバットで殴ろうとする。だが化け物はバランスを保ちながら避けていた。


「くそっ、避けられたわぁ……」


 悔しさを覚えている浅田をよそに相澤は地面を蹴った。一度宙を舞い、浅田が攻撃しようとした化け物に蹴りを放つ。


 しかし化け物はひらりと身をかわすと浅田に向かって槍を振り下ろした。浅田は間一髪のところで避ける。だがもう片方の化け物が浅田に向かって槍を振り下ろしていた。


 ここまで一点集中で狙われているとかえって怒りの矛先を向けられているとしか思えない。だが浅田は再び間一髪のところで身をかわしていた。


「化け物に人気とか嬉しないわぁ。相澤、代わってくれへん? 」


「断る」


「ほんま冷たいわぁ。そんな即答されたら悲しなるで」


 浅田は軽口を叩きながらバットを握る。そして虫の息になった方の化け物に振り下ろした。


 不穏な音が辺りに響くと共に子供たちの悲鳴が上がる。彼のバットは再び血に染まり、化け物は槍を取り落として崩れ落ちた。


「はぁ……はぁ……やっぱりつらいわぁ」


 血を流しながら痙攣(けいれん)している化け物を横目に浅田呟いた。その化け物がピクリと動かなくなった時、男が立ち上がると拍手をする。


「キミもさすがだよ! 今回の戦士たちは優秀なようだね! 」


 男はそう言いながら浅田に向かって張り付いた笑みを浮かべる。


「さてと、まだまだ化け物が残っているようだしどんどん殺してボクを満足させてね」


 確かに男の言う通りだ。まだこちらの目の前には倒れたものと同じ化け物がいる。相澤はそれを見ながらゴクリと唾を飲んだ。


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