第二話:選ばれし戦士と謎の男
一体何がどうなっているんだ。
浅田は男を見ながら呆気に取られていた。それは相澤も伊藤も同じらしく状況を飲み込めているのは誰一人もいなかった。
「キミたちは選ばれし戦士たちだ。ここで存分にその力を振うがいい! 」
男は浅田達を見下ろしながら高らかに言い放つ。男は思わず全てのことを誤魔化せそうなくらいの美貌を持っている。こちらも危うく騙されそうだった。
「なぜ僕たちなんですか! 」
浅田は勇気を振り絞り、男に向かって叫んだ。その声に男はわざとらしい笑みを浮かべると相澤を指で指しながら口を開いた。
「特にキミとそこの男の二人は腕が立つし何よりも有名人じゃないか。ボクはそんな人が命あるものを殺しながら狂っていく姿を見たいんだ」
悪趣味だ。浅田は笑顔を浮かべている男に寒気を覚える。ふと脳裏に命ある者を殺戮しながら笑っている自分の姿がよぎった。
浅田自身元々物事を想像することは苦手だ。だからこそ自分が狂う姿などそれ以外考えられなかった。
いや、こんなことで動じてはダメだ。
浅田は落ち着かせるために深呼吸すると相澤と伊藤に視線を移す。二人とも歯を食いしばり男をにらみつけていた。
「俺は今いる人たちと殺し合いをさせるつもりか」
「チッチッチッ、そんなんじゃボクが満足しないよ。人と人の殺し合いなど見ていて退屈だからね」
相澤の疑問に対して男は答える。しばらくして男は何か思い出したような素振りをし始めた。
「あっ、そういえばキミたちの戦いを見たいという人たちがいるんだったね。ここに呼び出してみようか」
男はそう言って手を叩くと突然観客席から子供たちが現れた。子供たちはざっと見て三十人くらいだろうか。男に怯えている女の子、興味深そうに周囲を見回している男の子など様々だった。
「なっ……!? 」
相澤は驚きの声を上げる。突然子供たちが観客席に現れたのだ。
一体この男は何者なのだろうか。浅田は心を落ち着かせながら疑問に思っていた。
「先程からふざけたことを! こんな事をしてどういうつもりだ! 」
今まで黙っていた伊藤がようやく口を開く。普段の安心感を与える声と違い、怒りをはらんだ声が耳に入ってくる。
浅田は男に視線を向ける。男の笑顔はなぜか消えていた。
「ボクの暇つぶしをふざけたことと言うんだね。本当にキミは面白くないよ」
男は伊藤の疑問を軽くあしらう。
なぜ伊藤に対しては態度が違うのだろうか。確か男は自分と相澤を有名人だと言っていたはずだ。
だが自分を知っているのは熱心な野球ファンぐらいだろう。そんな自分が特撮の主役を演じている相澤と同等に扱われていることに違和感を覚えていた。
「ところで君は何者か? ただ者ではないとは思っているが……」
伊藤と男に割って入るかのように相澤が男に訊ねる。すると男は再び張り付いたような笑みを浮かながら答え始めた。
「ボクは主催者であり、ただ暇を持て余した観客の一人といったところかな」
「それは本当ですか? それならなぜ子供を呼び出したりしたのでしょうか 」
浅田は男を問い詰めるように訊ねた。何かしらの理由がなければこんな狂った事をするはずがない。
男が嘘を言っているかどうか分からない以上、問い詰めることしか出来なかった。
「それはボクの趣向かな。素晴らしいショーには――」
「いい加減にしろ! こんなことが許されると思っているのか! 」
浅田の疑問に対する答えは伊藤の怒鳴り声にかき消された。伊藤の手には拳銃が握られており、銃口は男の方を向いている。
「これ以上戯言を言うと撃つぞ! 早く私たちと子供たちを解放するんだ! 」
「はぁ……うるさいなぁ」
男は笑顔を消してため息をつくと手をかざして何かをブツブツと唱える。すると、伊藤の真上の空間に巨大な鉄の塊が現れた。
本当に男は伊藤を殺すつもりだろうか。浅田はそう思いながらも恐怖で動けないでいた。
「キミのような邪魔者は死んでしまえ」
男はかざした手を下におろすと鉄の塊が落下する。そして伊藤は発砲する前に鉄の塊に押しつぶされた。
嫌な音と共に大量の血が壁や地面に飛び散る。しばらくして血なまぐさい臭いと子供たちの悲鳴が闘技場全体に広がった。
浅田は男に視線を走らせる。男は豪華な椅子に腰かけて凄惨な状況を眺めていた。表情も張り付いたような笑顔に戻っており、今の状況を楽しんでいるように見える。
視線を元に戻した時には鉄の塊が消えており、潰された伊藤だったモノだけが残っていた。
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