ジャスミンの微笑み
突然ですが、私を嫌う名前も知らなかった令嬢と体が入れ替わってしまったようです。
しかも、その事は他言できないようで…
「おい、大丈夫か?」
心配そうに私を見る男性。
彼はカール。この体の持ち主の幼なじみだそうです。
「…大丈夫ですわ」
ふわりと微笑めばカールが顔を真っ赤にする。
あら、なんて可愛らしいのかしら。
うずうずと私の中の加虐心が煽られます。
「しかし、まだ戻り方がわからないのか?」
「そうですね…」
入れ替わってから早1週間。
未だに体の入れ替わりについてわかっていません。
入れ替わりについて他言できないこともネックとなっています。
しかし、目の前にいるカールは私がこの体の持ち主、カトリーヌ様ではないことに気づいています。
なんでもカトリーヌ様はもっと傲慢で高飛車だとか。私には関係ありませんけれど。
それで勝手に私がカトリーヌ様ではないとこに気付けたとか。
ただ、彼女は演技が大変お上手だそうで私の家族にはバレていないようです。
恥ずかしながら、私の家族は頭が足らないのです。
カールはこうして心配してよく顔を見に来てくれる。そんなに心配することはないのに。
「カール、私は気にしないわ。だって私は私だもの。それより、ワンちゃんが心配ね…」
大丈夫かしら?
私の可愛いワンちゃん…
カールは私の呟きに首をかしげた。
一方、レティシアの体を奪ったカトリーヌはレティシアの婚約者であり、この国の次期国王であるジェイドに剣を突き付けられていた。
(なぜ、こんなことになったの!?)
カトリーヌは完璧だった。
完璧な淑女と謳われるレティシアの所作はできていたはずだった。
だからレティシアの家族も召し使いたちもレティシアではなくカトリーヌだとは気付けなかった。
先日のパーティーだって、ジェイドは気付いてなかったはずだ。
なのに今日、入れ替わってから初めてジェイドと二人きりになった瞬間、彼は彼女に剣を向けた。
「お前、誰だ?」
ひどく冷たい声に、殺気のこもった視線がカトリーヌを蝕む。
「レティに何をした?早く言え!」
でないと殺す。
首にピリッとした痛みが走る。剣先が首に刺さったのだ。
(なぜバレたの?)
簡単なことだ。
レティシアはジェイドの前だけ、淑女という仮面を外すのだ。
それを知らないカトリーヌはジェイドの前でも淑女を演じた。それが違和感を感じていたジェイドにとって、確信となったわけだ。
カトリーヌはジェイドの変わり様に怯え、真実を話した。
ジェイドは真実を知るがいなや、カトリーヌの体にいるレティシアの元へ駆けていく。
ある日の昼下がり、カトリーヌの体のままレティシアは庭でカールとお茶をしていた。
カールがまた心配の言葉をかけるも本人はのらりくらりとかわす。そんな中、屋敷が騒がしくなった。
「カトリーヌ!大変よ!殿下が!!」
カトリーヌの母が大慌てで庭に走ってきた。
カールは予期せぬ訪問者に椅子から転げ落ちる。
「あら、思ったより早かったのね」
カトリーヌ、否、レティシアは表情を変えず優雅にお茶を一口飲んだ。
そしてふと訪問者に視線を移し、それはもう大変美しく微笑んで魅せる。
「おいで、ワンちゃん」
誰もが魅了されるような微笑みをうかべたまま、レティシアは両手を広げる。
するとジェイドはくしゃりと顔を歪め、レティシアに駆け寄った。
「レティシア!!!!」
力一杯にレティシアを抱きしめるジェイド。
レティシアはくすりと笑い、ジェイドの頭を撫でる。
「よくわかりましたね」
「貴女を間違えるわけないだろ?」
ふたりは見つめ合い、そっと口付けを交わした。
どうやら、愛するものの口付けがトリガーだったらしく、レティシアは元の体に戻り、禁術を使ったカトリーヌは口にできないほど重い処罰を受けてから離島の修道院へ入ったそうだ。
それから数日と経たず、ジェイドはレティシアに危害が及ばないようにと早々に婚約発表し王妃へ就任させた。
レティシアは自室のソファーに座り優雅に茶を飲む。
「他人の体も愉しかったわ」
コロコロと笑い、レティシアは床に膝をつきながら自分の体にすり寄るジェイドの髪を弄ぶ。
「レティなのにレティの匂いがしなくてこちらは全く楽しくなかった」
不満そうな顔でレティシアの腰に手を回し、グリグリとレティシアの膝に顔を埋めるジェイド。
それにレティシアはまたコロコロと笑う。
するり、とレティシアの手がジェイドの頬に移動し優しく撫でた。
「お詫びにたーくさん可愛がって差し上げますわ」
ー私の可愛いワンちゃん
そう艶やかに囁かれたジェイドは、蕩けるような表情でレティシアに口付けを請うのだった。
ジャスミンの花言葉:官能的・あなたは私のもの




