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  作者: 山本吾郎
春眠のおわり
6/7

*****

 昨日遅くまで起きていただけに、寝起きの体調は優れなかった。しかし支度を終えて守宝を首から下げてシャツの下に入れると、気分が高揚してきて意識もはっきりしてくる。

 もし本当に授業中に精神干渉魔法がかけられているのだとしたら、今日は守宝の効果で防げるはずだ。もし仮に性能不足で防げなかったとしても、その時は守宝が魔法を消費しきって消滅するので攻撃されたことは後でわかる。どちらにせよ何かしら結果が出るから楽しみだ、

 ついでにモーリー教諭が材料の喪失に気が付くだろうから、その反応も気になる。今日は会う予定がなく直接見ることはできないけれど、噂にはなるだろうし。

 そんなイベント盛りだくさんの1日に胸を膨らませながら寮をでた。多くの生徒が同じ方向に歩いているので軽くあたりを見渡してみるが、アルもコテツも見つからなかった。 

 大体同じ時間に出るようで、この道で会うことも少なくないのだが、今日は時間が合わなかったようだ。

 けれど今日は午後の授業で3人そろうので、そのあとでお互い結果を報告することになるだろう。アルは魔法を防いでも居眠りするだろうからあてにしていない。だから正確にはコテツとの意見交換だな

1限の授業は必修の魔法史であり、ひどく退屈で俺は最初の数回しか起きていたことがない。今日はどうであろうかと興奮気味に授業を受けていたが、ついぞ寝ることなく終了の鐘の音を聞いた。

 これは確かに効果が出ているぞと、楽しみながらその後の授業に備えた。午前には後3つ授業がある。すべて起きていられるか、そして成績は上がるか、希望で胸を膨む。

 

 そして午後の授業の時間が近づき、教室へと向かう。教室に行くとすでにふたりがいて、向かい合っている。そこに俺も寄っていき、無言でふたりの後ろに腰かける。

 俺が来たことには気づいているが、話しかけてはこないし、俺からも話しかける気はない。自身の午前中の居眠りと、ふたりの暗い顔ですでに知りたいことは知り終えた。

 すでに3度目となるが、守宝が消耗している形跡がないかを確認するために胸元から取り出して、机の上に落としてみた。相も変わらず美しい結晶が、変わらぬサイズで転がり出てきた。

 それを見て同じようにふたりも守宝を取り出したため、昨日のままの結晶が3つ並んだ。それを焦点の合わぬ目でとらえながら、アルがつぶやいた。


「今日も驚くほど快眠であった。」

「僕も眠くなるのは変わらなかったな。むしろ夜更かしした分、いつもよりひどかったくらいだよ。」

「驚くほど無意味だったな。」


 それ以上話すことも話す気力もなく、授業を終えて放課後この教室でまた会う予定だけ立てて俺たちは散っていった。

 俺たちはかなり暗い雰囲気を醸し出していたが、もともと暇つぶしのようなものだったので放課後になるころにはもう気にしていなかった。俺としては、楽しめたうえに貴重な魔法具を得られたからだいぶうれしいし。

 アルはモーリー教諭に関する噂を聞きつけたようで、楽しそうにしゃべっているし、コテツは守宝の作成方法を知れたのがうれしいらしい。

 結局ただの工作になってしまったが、だれも損をしていないしよかったということにしよう。モーリー教諭に不幸があったようだがそれは俺たちとは関係ない、ということになっているし。

 そのモーリー教諭について語っていたアルから興味深い話が出た。


「そうそう、モーリーのやつ、どうやら没収したものは売り払っているようだ。昨日のブレスレットには家の者に事前に探知の魔法をかけさせていてな、それを追ったら質屋に行き着いたのだ。さっそく噂を流してやったし、これからあいつはさらに大変なことになるぞ。」

「そうみたいだね、その質屋も商人の間で評判悪くてウチにもたまに情報が来るんだ。」


 アルの執念とコテツの情報網には驚かされる。けど今更知ったところでどうしようもない。


「じゃあ。俺の工具セットももうないのか、、、。もっと早く知っていれば昨日いろいろとってきたのに。」


 元々罪悪感なんてなかったし、なんだか損をしたような気になってきた。そのうち個人的にもう一度忍び込もうかな。

 言いたいことも言い終えたのか、アルも静かになったので今夜遊びに出るか誘ってみた。アルは即答で応じたが、コテツは用事があると断った。

 コテツは学校外の修錬場で武術を習っていて、今日は修錬後そのままそこで泊ってくるらしい。名目があれば外出許可が簡単に下りるところも、寮生活に不満が出なくなった理由の1つかもしれない。

 もっとも俺とアルは、でっちあげた用事で夜遊びしていたため早々に申請のチェックが厳しくなってしまったが。しかしバレないように外出する術を身に着けたし、それを使ってモーリー教諭に一矢報いることができたので僥倖だ。

 成功祝いは3人でやりたいので、今夜はアルとふたりで夜店をめぐるだけにしようということになった

 コテツがそろそろ行かないといけないと立ち上がったので、俺たちも一度寮に帰って夜まで体力を温存することにした。


 寮に帰ってすぐにゲームでもしようかと考えたが、ベイリーのメッセージに返事をしていないことを思い出して、通信端末を取り出す。

 アルとコテツと連絡先を交換していたし、俺が返さなくてもしばらくは問題ないだろうが、無駄に危険を冒す必要もないから早めに返しておこう。

 そう思って画面を見ると、昨日まで数件だったメッセージ通知の件数が100倍に増えていた。

 のんびりしていた空気が一気に冷やされ、呼吸までも冷気を発しているように感じられた。慌てて内容を確認すると、なぜ返信をしないのか、次来るのはいつなのかといった内容だった。ほとんど同じ内容であるにもかかわらずこの件数なのかと、より一層恐怖が深まる。

 以前も同様のことがあったから気を付けていたのだが、どうやら失敗してしまったようだ。アルとコテツに連絡先を交換させれば、負担は分散すると考えていたが甘かったらしい。

 おとといの図書館で、もうベイリーの暴走におびえなくていいと喜んだのはぬか喜びだったのか。

 ひとまず端末の調子が悪くてしばらくへんじをかえせなかった、明日会いに行くと返しておいた。待っているとだけ書かれたメッセージが数秒で帰ってきた。


 その夜は結局アルと出歩いたが、楽しめるような精神状態ではなく何をしたかまるで覚えていない。放心しながらもしっかりセットしていたらしい目覚まし時計に起こされて、やっと意識が戻ってきた気がする。

 そこでアルとコテツにも同様にメッセージがあったのではないかと思い至った。それならばやはり俺の負担は減るわけだし、希望が見えてくる。昨晩のアルの態度でその様子がなかったか、思い返そうとしたが驚くほど真っ白で、断念した。

 仕方がないので通信端末でふたりに、昼休みに会いたいと連絡を入れて昼間で待つことにした。ベイリーとの決戦は放課後になりそうだ。

 その日の授業中はいつもと違い、少しも眠くならなかった。だがベイリーのことで頭がいっぱいで、集中していないという点ではいつも以上でもあった。

 彼女のことで頭がいっぱい、とはなんとも甘酸っぱい恋物語のようだが、胸が苦しい理由が単なるストレスだというのがむなしい。


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