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  作者: 山本吾郎
春眠のおわり
5/7

 建物の中に入ってしまえば、目的地まではもう少しだ。特別教室はほとんど低層階に集まっていて、実習室も例外ではない。玄関口から入ってすぐ右手に折れた先にある。その直線はしばらく歩く必要があるのだが、森の上からかろうじて光を飛ばしている月のおかげで慎重に進む必要はない。

 けれど綺麗に磨かれている床には光は届かず黒い沼のように思えるのは、これから行う行為への罪悪感があるからだろうか。そんなことを考えていると、アルが独り言のようにつぶやいた。


「この廊下を歩いておると、この前3人で見に行った映画を思い出すな。」

「あー、底なし沼みたいな廊下に人が次々と飲み込まれる映画か。この状況でホラー映画のこと思い出したくなかったな。」


 この程度の場所で怯えるようなことはないが、怖いのかとアルがからかってくるので、靴のかかとを踏みつけることで答えた。しっかりと踏みつけたのに少しもよろめくことがないのがまた憎らしい。

 そうこうしているうちに実習室の前までやってきた。各教室は魔法を用いない旧来の鍵によって施錠されていて、ここに来るまでのようにはいかない。そこでポケットから細い針金を出して形を調整して差し込んだ。何度か微調整をして小刻みに動かしていると、軽い金属音とともに鍵穴が回った。


「よし、空いたぞ。今時普通のカギを使ってるなんて不用心だね。」

「それを簡単に開けるとはさすがだな。」


 アルが珍しくほめてくるので、その犯罪者を見るような目には気づかないふりをした。芸は身を助けるとは本当だなと思いながら、真っ暗な闇の中に足を踏み入れる。

 ふたりとも入った後でドアを閉め、魔道具のライトをつけてあたりを照らす。目的の場所は入ったところから数歩だけ離れたところにある。そこに近づいてその施錠部分を照らした瞬間、この計画の失敗を悟った。


「これ魔法の鍵を使ったセンター社の最新式だ。これを解析して開けるとなると1週間はかかるぞ。今までこの棚よく見たことがなかったから、全然気が付かなかった。」


学校のどの施錠も簡易的なものだったから油断していたが、よく考えれば貴重な材料を置いているところくらいは厳重になっていてもおかしくない。ただのガラスだと思っていあものは魔法を込めやすい包魔ガラスで、いっぱいに施錠システムが組み込まれている。

今日は引き上げて明日の夜から通って解析するかと考えていると、横からアルの腕が伸びてくる。その手をよく見ると、暗い中でも高そうだと思える装飾が施された鍵がつままれている。


「この鍵で開くはずだ。やってみたまえ。」

「これここの鍵か?なんでアルが持ってるんだ?」

「ここに落ちていたんだ。」


 そんな馬鹿なと思いつつ、鍵穴にさしてみる。鍵は詰まることなく入っていき、回すと開錠を示すランプが点滅した。


「ほんとに開いた、、、。」

「だから言ったではないか。」

 

納得はいかないが、空いたのなら目的を果たすまでだ。ライトで全体を照らすと、目的の物はすぐに見つかった。それは照らして眺めてみると、素人目にもよさそうなものだと感じるくらいに美しかった。ひとまずポケットに入れて、棚を閉める。

 鍵は持っていても仕方がないので、型だけ取って床に落としておく。こうしておけば、だれでもこの棚を開けられたことになるはずだ。

 いただくものをいただいたので、俺たちは速やかに校舎を後にした。帰りの薄暗い道を歩いている時には、もうすでに達成感がこみあげていた。しかし頭の片隅で鍵のことが引っかかっている。

 アルの楽しそうな声におざなりに返事を返しながら考えていると、思考は昼の出来事に行き着いた。


「アル、もしかしてあの鍵、スリ取ったのか?今日ブレスレットを没収されたときに。」

「ん?何のことだ?」


 とぼけた言葉を吐いてはいるが、その自慢げな表情がその通りだと語っている。何度もモーリー教諭と戦っているだけあって、どこに何を持っているか把握していたのだろう。

 あの棚の施錠が厳重なのを知っていて言わなかったことには腹が立つが、それ以上に得意分野でアルに1本とられたようなのが腹立たしい。

 気分はずいぶん下がってしまったが、俺の仕事はまだ終わっていないのでふてくされてもいられない。けれど浮かれているアルの顔は見たくないので、足を速めてコテツの部屋を目指した。


 コテツの部屋のドアを軽くたたくと、しばらくしてからゆっくりとドアが開いた。中に入ると床に様々な素材が散らばっている。

 その中心にガラスの器が3つ並んでおり、その中には紫がかった透明な液体が半分くらいまで入っている。

 それに霧の結晶を入れれば、守宝ができるのだったかと考えていると、少し普段より興奮気味でコテツが首尾を尋ねてくる。


「思ってたより早く来たけど、どうだったの?」

「無事手に入ったよ。多少想定外もあったけど、問題というようなことは何もなかったし。」


 それはよかったと言うコテツの態度には、俺たちの行為をとがめるような要素は何もなかった。商家の息子としてもコテツの性格としても、盗みに関していい顔はしないだろうと思っていたから意外に感じる。そこでその疑問を口に出してみると、笑いながら答えてくれた。


「確かにそういう行為は嫌いだし、普段なら自分がやるなんて考えられないよ。でもモーリー先生だって生徒の物を強奪しているようなものでしょ?没収して返さないんだし。その一番の被害者は間違いなくアル君だし、それならおあいこかなって。それにもしばれても、自習に使いましたっていえばあの校長先生なら許してくれそうだし。」

「許すであろうな。良くも悪くも教師と生徒の自主性に任せておるからな。むしろモーリー教諭に対して、生徒に盗まれるほうが悪いと言いかねんな。」


 その場面が想像できて3人で声を殺して笑いあった。それからコテツが床においてある器を指して軽く説明してくれる。けれど詳しいことにまるで興味のない俺とアルは軽く聞き流していた。要するに大変だったけどミスなく作れたと思う、ということみたいだ。

 そこで俺はポケットから霧の結晶を取り出してコテツに渡す。どうやら霧の結晶の大きさは使用回数以外に影響がないようなので、これを三等分して使うらしい。

 コテツは机の引き出しを開けて小さい鑿を取り出し逆手に握った。それから霧の結晶を光に透かすようにして色々な角度から眺めた後、机の上の木の板に乗せた。そしてほとんど手首だけで勢いをつけて鑿で数回叩いた。

すると剝がれるようにしてきれいに割れ、それを手際よくもう一度繰り返すと、結晶はもう3つになっていた。


「おまたせ。はい、1個ずつどうぞ。これをそれぞれ入れればもう完成だよ。」


 礼を言って受け取ってから、床にある器もそれぞれ持ち上げた。入れるのを少しためらったが、すでにアルが入れているのが横目で見えたのでそれに続く。

 入れた瞬間、液体が少し輝いたがすぐに何の反応もなくなる。これで完成したのだろうかとコテツを見るが、コテツが満足そう表情をしていたので成功なのだろう。コテツが嬉しそうな顔をして話しかけてくる。


「うまくいったみたいだね。後は明日これをもって授業を受けてみて、効果があるか確かめようね。」

「効果あってほしいけど、あったらそれはそれで怖いな。」

「まぁ何とかなるであろう。ひとまず無事作り終えたことを喜ぼうではないか。」


 そうアル言い終わるとすぐに、コテツが器を置いて背丈の半分ほどの冷蔵庫から缶の飲み物を持ってきた。それを受け取って乾杯をすると、一気に飲み干した。目的に集中して気が付かなかったが、ずいぶん喉が渇いていたみたいだ。

 それから守宝となった霧の結晶を取り出して、コテツが用意してくれた手のひらほどの布袋にそれぞれしまった。ざっと部屋の整理を手伝った後、眠そうなコテツに礼を言って、アルを部屋まで送る。そのまま軽く魔法システムをもとに戻して、俺も自分の部屋を目指して、足早に廊下を進んだ。

 寝る前にふとベイリーからメッセージが来ていたのを思い出すが、もう夜も遅いしそのうちでいいかと頭の隅に追いやった。

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