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  作者: 山本吾郎
春眠のおわり
4/7

*****

 次の日は比較的すっきりと起きられ、授業にも集中できそうだなと思いながら登校した。今夜の作戦実行のため、昨晩は夜の外出を控えて早めに寝たのが功を奏したのだろう。にもかかわらずいつの間にか授業が終わるという事態が頻発した。やはりこれは校長のせいに違いない。

 しかし今日は午後にあったモーリー教諭の授業では、頑張って意識を保っていた。実習室の下見ができればいいなとも思っていたが、残念ながら座学でありその目的は果たせなかった。

今日目をつけられるのはあまりよろしくないなと思い、俺は比較的真面目に授業を受けていたのだが、同じくこの授業を履修しているアルが不要品の持ち込みで咎められていた。  

不要品と言っても目立たないブレスレットで、校則で禁止されてるわけでもないのだけれど、モーリー教諭なら没収すると誰もが知っている。横暴が過ぎるとは思うが、行内規則は基本的に各教諭の判断に任せるという学風のようで、改善の見込みはない。

だからこの場合はブレスレットをしてきたアルが馬鹿だったということだ。しばらく粘っていたようだが、結局腕を掴まれ没収されていた。本当にあいつは救いようがないな。

粘っていた割にはそこまで思い入れのあるものでもなかったようで、授業が終わった後でも愚痴をいうことはなかった。むしろ、関係のないコテツのほうがむっとしていたぐらいだ。

3人そろって履修している授業はあまりなく、今日もその授業だけだった。そのため俺たちは移動の前に、また今夜会おうとだけ言い合って別れた。


寮は門限が10時となっており、その時間を過ぎると外に出る扉が施錠され外出できなくなる。そのうえ、帰宅申告をした後に寮の外に出ると情報が残るようで、以前窓から脱走した生徒が捕まっていた。

つまり俺が外に出るには、部屋の帰宅申告の改ざんと正面扉の開錠が必要だ。扉のほうは比較的容易に開くことができたが、帰宅申告のほうは非常に難航した。2カ月かかった内のほとんどはそっちのほうで費やした時間だ。

しかし今では、出かけるときに鍵をかけるかのような自然な流れで行えるようになった。技術を習得してから半月の間、ほぼ毎日使ってきたから当たり前といえば当たり前なのだが。

アルにも伝授してはいるが、繊細さのかけらも見当たらないあいつには向いておらず、必要になるたびに呼び出されるから勘弁してほしい。そんなわけで、今夜もまずはアルの部屋まで行かなくてはならない。

決行は門限が過ぎて、ほとんどの人が寝始めるであろう0時と決めてある。今日は込み合う前に食事も済ませてしまったので、その時間までかなり暇を持て遊ぶことになってしまった。


とりあえず机に置いてあるパソコンを使って、最近のニュースを流し見ることにした。寮生は通常より安価に新聞を購読することもできるようで、毎日新聞を読んでいるという人も少なくない。コテツもそうだし、あのアルでさえ新聞を読んでいるそうだ。

ただアルが読んでいるのは、新聞経由で実家の情報が入ることがあるという特殊な理由があるからだ。そんな理由もない俺は、気が向いたときにインターネットで見る程度である。

そんなわけで部屋での空いた時間は、俺が世間の情勢を知る貴重な時間だ。しかし大抵はくだらない記事のほうに気が向いて、役に立たない情報ばかり蓄えることになる。

最近は政権の派閥闘争や危険思考の宗教についてなどが話題のようで、そうした記事が多いが見出しを読むだけで流してしまう。そして結局読み始めたのは、「古い技術売り込む少年さまよう」という取るに足らないニュースだ。なにやら火薬だの蒸気だの、魔法よりエネルギー効率が悪いと廃れた技術を売り込んでいる少年がいるらしい。

話の種としてはそれなりに面白かったが、知らなくてもいいようなことを知ったという思いが否めない。その後もそんなことを繰り返しているうちに、いつの間にかいい時間になっていた。


かなり部屋でくつろいでいたせいで、出かけるのが億劫になっていたが気合を入れて支度を始めた。といってもほとんど持っていくものもないし、必要なものを1つ2つポケットに入れてすぐに終わってしまう。

そのままの勢いで魔法システムを改ざんして、外出の情報が記録されないようにしてから部屋を出た。廊下はもう明かりを消され、壁の下にある光源でぼんやり足元だけがわかる状態だ。

この時間に廊下にいるような人はおらず、1つ階を上がってアルの部屋にたどりつくまで自分の影が動いているだけだった。チャイムは鳴らさず指の先で軽く3回ドアをたたいた。しばらく何の音もしなかったが、いきなりすっとドアが開きアルが顔を出した。

特に断ることもせず空いたドアに体を滑り込ませる。そしてそのまま内側から部屋のシステムをいじり、数秒で終わらせる。指2本で丸をつくってアルに見せてから、また廊下へと出ると、普段の動作からは想像もつかないほど静かにアルもおってきた。

部屋の防音はしっかりしているほうだとは思うが、用心して音を殺しながら出入り口へと降りていった。ごく一般的な施錠システムを採用している正面扉を手早く開け、出た後は念のため閉めなおしておいた。

そこでやっと一息ついて、のんびり歩き始めた。ネコ科の猛獣のようだったアルの歩き方も、すでにチンピラ風に戻っている。これから校舎に侵入するというのに、心なしか浮かれた足取りでもあった。夜遊びにもなれているはずなのに、何がそんなに楽しいのだろうか。

深く気になったわけではないが、校舎まではまだ距離があるので軽く聞いてみた。


「妙に楽しそうだけど、そんなに不法侵入が好きなのか?」

「いやなに、これからモーリーに一矢報いると思うと楽しくてたまらんのだよ。私はもう目をつけられているようだしな。」

「目的が変わっているじゃないか、、、。」


 確かにそれも理由の一つにないとは言えないが、そんな楽しみにするようなほどではないだろう。ただ、俺は初めての時はまだしも、そう何度も私物を没収されるようなヘマをしない。だからその分、アルより恨みは少ないのでそう感じるのかもしれない。

 どっちにしろやることは同じだし、モチベーションが高いという意味ではいいのかもしれない。浮足立って下手なことをしなければの話ではあるが。

 そのままアルとモーリー教諭への愚痴から始まり、学校生活の不満をぶつくさと言いながら暗い道を歩いていく。この時間でも外灯は道を照らしてはいるが、人が通ることがほとんど考えられないため、その明かりは門限前と比べてずいぶん弱弱しい。

 道はほとんど直線であり、多少暗くても問題ないという事情もあるのだろう。そもそもこんな時間に出歩く生徒はいないはずなので、消してもいいくらいだと思う。

 

そうこうしているうちに、光の列が途切れるところが近づいてきた。昼間見ると独自性を見つけるほうが難しいくらい味気ない建物であるのに、闇の中にたたずんでいると圧力を感じるくらいの迫力がある。

 思わず足の運びが鈍くなり、アルと距離が開く。慌てて歩調を速めて横に並んで校舎を目指した。口を開いているように見える、短い屋根を持った玄関口がどんどんと近づいてくる。

そこで普段こっそりと眺めて分析していた、施錠魔法のシステムを思い起こす。寮のほうが厳重といえるくらいに簡素なもので、気負うこともないのだが雰囲気にのまれているのか緊張してくる。

 しかし、緊張はしても仕組みは簡易的なものなので、大した時間もかからず開錠することができた。それを見ていたアルが、この学校のセキュリティの低さを心配しているが、登録者以外の敷地への立ち入りはすべて感知されるようなので、外部の侵入には強いのだろうと答えておく。内部犯への対策については、お察しの通りとしか言いようがない。

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