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  作者: 山本吾郎
春眠のおわり
3/7

*****

連絡先の交換がつつがなく終わった後、俺たちはいったん教室に戻ることにして、図書館に引き返すベイリーとは廊下の途中で別れた。渡り廊下から見える西の空にはもうすでに太陽の姿はなく、残った光がかろうじて街の屋根を照らしているだけだった。

 外や特別教室で活動している人たちの音が遠くからかすかに聞こえるが、教室にはもう人は残っておらず物寂しい。後ろでベイリーと初めて話したふたりが楽しそうに感想を言い合っているが、俺は混ざる気は起きないので聞くとはなしに聞いている。当初の目的のスタートラインに立っただけであるにもかかわらず、もうすでに満足そうだ。

 教室に戻ってくると、やっと目的を思い出したかのようにこれからどうするかとアルが切り出した。


「霧の結晶に関してなら、モーリー教諭の私物をこっそりお借り願うわけだし、夜に忍び込むのがいいだろうな。昼間の実習室は使われてることが多いし。」

「直接お願いするって選択肢はないんだね。まぁモーリー先生は頼んでも貸してくれなさそうだと僕も思うけどね。でも夜だと寮も校舎も施錠されちゃうから出られないよね?どうするの?」


 もう既にその問題は解決していて、その恩恵を享受しているアルが薄笑いを浮かべながら俺を見る。アルに説明する気がなさそうだったので、俺自らそれについてコテツに説明した。

 確かに施錠に用いられている施錠魔法のシステムは複雑だったけれど、自由を求める若者の根気と集中力をなめてもらっては困る。入学後の2カ月、睡眠時間を削ってまで解析に努めた点も忘れず話した。

 それを聞いたコテツが「第一試験の成績が悪かったのはそのせいじゃないの?」といってきたような気がするが、気のせいだろう。


「それで実行するのはいつにするの?他の材料は王都にあるお店で必要なものは全部揃うから、外出許可が取れれば明日にもそろうよ。」

「であるなら明日の夜にでも実行しようか。たしか霧の結晶を使うのは最後であったな。んらコテツには部屋で制作を進めておいてもらって、マサをおつかいにやろうじゃないか。」

「おい、楽をしようとするな。やることがないなら俺と校舎に行くぞ。」


たしかに取ってくるだけなら俺一人のほうがいいが、何かあった時に実行犯が俺だけだと売られかねない。侵入時には万が一にもミスをするつもりはないが、アルを野放しにすること自体がミスであるから防がねばいけない。


「全く、一人でお使いもできんのか。仕方がない、私もついていこう。」

「よし、身代わりもできたし安心だ。」


 円満につつがなく計画を立てられたので、今日は解散し、明日の夜にそれぞれ目的を達して集まることにして寮に戻ることになった。といっても明日また授業で顔を合わせることになるだろう。


 この学校は特段の事情がある場合を除いて、生徒は寮で生活することになっている。そのため敷地内に建てられた寮はそれなりの大きさであり、設備も整っている。

その証拠に。最初は寮生活に難色を示す人も少なくなかったが、しばらくするとそんな声も聞こえなくなった。住めば都とよく言うが、住めば王宮といってもいいくらいだと思っている。

寮は男女で別の棟になっており、視界を遮るためか間に高い木が列になって植えられている。それらの寮は教室がある本棟を出て、東に10分ほど歩いたところにある。

間には広葉樹の林があるが、道は広く取られ外灯が短い間隔で配置されているため、日がすっかり落ちたこの時間になっても安心して歩ける。

 遠くに最近増築されたばかりの現代的な建物が見えてきた。手前にあるほうが男子寮で、3つに分かれた入口のうち真ん中から俺とアルが、一番右からコテツが入っていく。後で食堂で会う約束をしつつ部屋が2階のアルと別れ、ひとり3階へと向かう。4階建ての建物であるくせに階段しかない作りに、最初は不満が絶えなかったが、毎日通るうちにすっかり慣れてしまった。

 プレートキーを使って開錠と帰宅申告を終わらせ、靴を飛ばすように脱いでそのままベッドに腰かける。一息ついて通信端末を見るとベイリーから1件のメッセージが入っていたが、開くことはせずに横になる。

 しばらくぼんやりしていたが、このままでは寝てしまいそうだったので、約束より少し早いが食堂に向かうことにした。


 1階奥に設けられた食堂は、部活動や自主鍛錬から帰ってきた生徒であふれかえっていた。いつもはもう少し早く来て、この混雑の予兆が見え始めるころには退避していたのだが、今日は間に合わなかったので仕方がない。ひとまず提供カウンターから遠く離れたあたりにある2人掛けの席を確保して、アルにメッセージを送っておく。

 そのまま何もせずに席だけ確保しているのは忍びなかったので、先に料理を取ってきてしまうことにした。だがそこも長蛇の列になっていて、自席に戻ってくるまでに大いに疲れてしまった。

 さっきより食欲が失せたような気がするが、もそもそと食べ始める。どうせアルもすぐに来るだろうし、それまで料理を前にして待っていたら飼い犬のようで癪だしな。

 そんなことを考えていると、周りが騒々しくなってきた。一層混んできたのかと思ったが、どうやらもめ事が起きたのが理由みたいだ。もめ事というより貴族が市民に、一方的に突っかかっているといったほうが正確だが。

 どうやら貴族のほうは旧時代的な貴族至上主義であって、相手の市民の態度が気に入らないようだ。くすんだ金髪を振り乱しながら、唾を飛ばさんばかりの勢いでまくし立てている。

 今時貴族を敬いはするものの、優遇するような行為はほとんど見られないし、それを寮で強要しようとする学生など珍獣の域だろう。そんな珍獣を眺める人の様子が俺の位置からはよく見えるのだが、口角を上げている学生も数人見受けられるので、こうした考え自体が根絶したわけではないのがわかる。

 的になっている可哀そうな市民は、一方的にののしられながらもじっと耐えている。そこでやっとアルが俺のところにやってきた。そして俺と貴族の顔を見比べて、どういう状況かと聞いてきたので丁寧に答えてやった。


「見ての通り、可哀そうな市民が貴族に虐げられているところですよ。」

「嘘をつくな。優雅に食事をしていたではないか。何をやらかしたのか素直に白状したまえ。」


 聞いておきながら全く俺の言うことを信じないアルに文句を言おうとしたが、それより早く貴族の学生が割って入った。


「アルフレッドさん、お騒がせして申し訳ありません。大事にするつもりはなかったのですが、その男が普段アルフレッドさんに対して無礼極まりない態度を取っているので注意していたのです。」

「無礼な態度という点については大いに同意するが、調教は私自ら行うから君の協力は求めておらんぞ。」

「それは出過ぎた真似をいたしました。」

「うむ、かまわん。だが学術機関での待遇平等は国の方針であるからな、先ほど聞こえたような発言については以後気をつけたまえ。」

「はい、今後は控えます。」


 珍獣は納得した風ではないが、おとなしく引きさがり去っていった。アルはそのまま料理を取りに行き、すぐに戻ってきた。

 しかし周りの視線がいまだ刺さって居心地が非常に悪いので、残りを手早く胃に詰め込んで部屋に戻ることにした。結局アルとはほとんど別に食事をとったようなものだが、特に不満を言うでもなく見逃してくれた。けれど調教とほざいた報復に、ステーキを一切れさらったのは見逃してもらえなかった。手の甲にフォークの刺し傷が残ったらいやだな。


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