8話「神も休みにゃショッピングする。」
作者:水瀬ヨウ
最初に本屋に行った。悠が新しい本が欲しいらしい。
俺は本はそこまで読まないが、悠が薦めてくれるやつをたまに読んでいる。
「お待たせ」
そこまで待っていないのだがと思いながら振り向くと、悠の手には一冊も本が握られていなかった。
「どうした、売り切れてたのか」
「ううん、いきなり買ったら重たいから」
それに何でもかんでも買ったらお金がなくなっちゃうし、と続けていた。よくできたやつである。
「遠慮なく買ってくれてもいいんだぞ、色々やってくれてるんだし」
普段の参拝客の少なさからすれば意外な事と思われるかもしれないがうちの財政は全くといっていいほど傾いていないのでちょっとやそっとの出費では問題ないのだがな。
無論、何かがあった時のために贅沢しすぎないに越したことはないのだが。
「……んー、じゃあ次に来た時はそうするかな」
小首を傾げつつそんなことを言う。まぁこの辺りはいつものことだ。本当に遠慮しなくていいのだが。
そのまま二人並んで歩き出す。次は雑貨屋に行きたいということでそちらに向かった。
店に入ると棚には様々な商品が置かれていて、見慣れたものからそうでない物まで多種多様だ。その棚を見ながら悠は手に取ることなく眺めている。
特に目的があるわけではなく、こういう雰囲気が好きなのだと前に言っていた。しかしふと立ち止まり、ある棚の前でしゃがみ込む。
「どうした、なんかあったか」
「これ、久にどうかなって」
そう言って悠が指差したのは工芸品のようなグラスだった。恐らく切子というやつである。確かに綺麗ではあるが値段を見ると少々手が出しにくい。
「酒器か、今あるやつだけでもいいんだけどな、結構するし」
「そっか、この前一つ割れちゃったからいるかと思ってたよ」
「まぁ次に来た時にでも買うとするぜ」
俺がそう返すと悠は小さく笑っていた。
「何かおかしかったか」
「あっ、なんでもないよ、とりあえずもうお昼だし一旦ご飯でもいこっか」
「ん、そうすっか」
そうして俺たちは店を後にして、レストランへと向かった。
ーーー
「あー、食ったしこの後どうするかな」
「そうだねぇ……」
昼食を食べ終わり、店員に食器を下げてもらいながらそんな話をしていた。
この後、俺は灯にやる酒でも探しに行こうかと思っている。ただ、そうなると別行動になりそうだな。
別に悠を付いていってから行ってもいいのだが、いざ俺の番になった時に未成年を連れてのんびり酒の品定めをするほど神経は太くない。
「まぁ俺は酒でも探してくるぜ、灯に送るやつ」
「うん、それならいったん解散してまた後で連絡するね」
「おうよ」
会計のために席を立ってからにおもむろに財布を取り出していくらか悠に手渡す。
「たまには好きなものでも好きに買ってこい」
「えっ?いいの!?」
「遠慮するな、この前の事件に付き合わせたおわびみたいなもんだよ」
まぁこの程度、普段から手伝ってくれている感謝としては足りないくらいだが、多すぎても固辞されかねないし絶妙な金額を手渡したつもりだ。
念のためさっき言っていたグラスとかじゃなくて、自分の欲しいものを買うように釘を刺しておくか。
「俺の物はいいから本当に好きなものでいいからな」
「ありがとう、わかってるよ」
そう言って嬉しそうにしながら受け取ったお金を大事そうにしまいこんでいる。そこまで喜ばれると少し照れ臭いが。
「じゃ、俺はもうしばらくのんびりしてから出るから先に行ってきな」
「うん、行ってきます」
そうして悠は先に店の外へ出て行った。俺はというと一段と静かになった店内で飲み物をお代わりしてからゆっくり出ることにした。
ーーー
店を出てから小さく伸びをしてから時間を確認した。まだ時間は十分ありそうなことだし、酒だけじゃなくて肴あたりも探してみるか。
灯って乾物とか食うのかね?好き嫌いは少なそうだが変わったものをあげても困るかもしれないし無難なものをいくつかセットで渡しておくか。
そう考えながら酒を売っている方向に歩いていく。そしてウインドウショッピングなど寄り道もしながら数分歩くと目当ての場所が見えてきた。一コーナーにある決して大きな店ではないのだが、それなりにいい酒が揃っているのでたまの贅沢としてここで買い物をしている。
たまにとは言ったがそろそろ店長に顔を覚えられているようで、いつもありがとうございますと言われてしまった。
ついでに灯くらいの歳のやつにおすすめの酒でも聞いておくか。自分で選ぶよりはいいだろうしな。
そう思って店長を呼び止めて色々質問してみる。するといくつかの候補を出してくれたのでその中から選んだ。
瓶を贈るより缶のセットの方がいいという助言が特に参考になった気がする。ついでに合う肴も教えてくれたので後で別の場所で探してみるか。
そうして買い込んだものを片手にぶら下げながら、少し買い過ぎたか、と思う頃には悠から連絡が来て合流した。それからモール内を見て回り、お互い見たいものも見たということで帰ることにした。
そして帰りのバスの中で俺だけ途中で降りることにした。
「灯のとこに寄ってから帰るわ」
「僕も行った方がいいかな」
「んー、帰りが遅くなるのも悪いし俺一人でいいだろ」
俺一人なら色々使って”飛ぶように”帰れるので多少時間がかかっても問題はない。悠には悪いがせっかくの休日だ。ゆっくりと休んでもらいたい。
そう伝えると悠は納得してくれたようだった。そのまま二人で別れて、俺は灯の家に向かった。
インターホンを押してから玄関に向かう。出迎えてくれたのは朱羅だった。
「お酒の匂いがしたぞ!」
「お前の分じゃねぇよ」
俺がそう言うと朱羅は悔しそうにしていた。こいつ、本当に飲む気満々で待ち構えていたのかよ……。
そんなやり取りをしながら家に入る。本当は灯が出てきたら玄関先で渡してさっさと帰るつもりだったが、こいつに渡すという事に不安を覚えた。
リビングに入るとそこには灯がいた。俺が来たことに驚いた様子だったがすぐに立ち上がってこちらに一礼してくる。
いつも通りかしこまった様子なのが少し気になる。多分朱羅のせいで日常的に他の神に謝っているのだろうと思うと同情する。
まぁそれはいいんだ。それよりも今は酒を渡してしまおう。いつまでも持っているのは邪魔だしな。とりあえず買ってきたものをテーブルの上に置く。
置いた途端から朱羅が袋をツンツンつついてくる。
「……怒られて禁酒中だろこいつは」
「何かにつけて飲もうとしてきますよ……私と一緒に飲めばセーフとか」
「同情するぜ」
俺はそう言いながら朱羅の頭を軽く叩いておいた。そんな俺たちの様子を見ながらも灯は申し訳なさそうな顔をしている。
「我は真神より年上じゃぞ……」
「序列一緒だろ、神にもなって年の差で威張るなよ」
そう言うとようやく諦めたらしくつまみ食いをしようとしていた手を止めておとなしくなった。これでひとまず安心だな。
そう思い、俺は帰ろうとすると、灯から声をかけられたので振り返った。すると、灯から小さな袋を手渡された。中身は洋菓子らしく、向こうもお礼を買っていたらしい。
どうしてこう、忘子というのはみんな気の利くやつばかりなんだろうな、親はろくでもないやつばかりなのに。そう思うと少し面白くなってきたが、考えるのをやめて灯の家を後にした。
帰宅してからは買って来たものを食べたり、ついでに買った自分用の酒を飲んだりしてゆっくりと過ごした。
悠に灯からのプレゼントを手渡すとまたお礼をしようかと言っていたので止めておいた。きりがない。
最近事件やらに巻き込まれて大変だったのでたまには一切働かずにこういう休日もいいだろうとケーキにフォークを入れるのであった。
日常回
本当は数日前に書き上がっていたのは内緒




