4話「秘技発動!〜酩酊眠り神は強し〜」
作者:みいちよ
「あぁ〜!真神様!イナリ様!ご足労いただいてすみませうわぁ〜!」
長橋に着くと、灯は見事なまでのへっぴり腰でヨドミと対峙していた。今度のヨドミは真っ黒い猿の姿だが、その大きさは灯の2倍ほどあるだろうか。神ほどの力を持たない灯があんな大きい奴に一人で立ち向かってる事は評価してやろう。ただしとてつもなく無謀だが。
「灯も困ってる事だしさっさと仕留めるか」
「おきばりやす〜」
「……イナリ、たまにはお前がやれ。朝食分は働け」
「うちは荒っぽい争い事には向いてへんのや。か弱い乙女をいたわりぃや」
「ああ、お前が得意なのはねちっこい口喧嘩だったな」
「その挑発には乗らへんよ?」
「うわああああお願いします助けてくださいいいい」
そうだ、ここで争ってる場合じゃねえ。灯が危ないんだった。とにかく急ごしらえで強い風の渦を生み出してヨドミの方に放つ。すると奴は風が届く前にひょいと身をかわしてしまった。
「すばしっこいな、あの猿」
「何やっとるの」
すかさずイナリが口をすぼめて大きく息を吐く。疾風が奴めがけて駆け抜けていくがそれも少し尾を掠っただけだった。
「あら」
「お前も外してんじゃねえか……っておい、灯!」
体躯のでかい猿はいつの間にか灯を追い詰めて、その手を振り上げていた。
「えっ、うわああああ」
叫ぶ灯にヨドミの手が振り下ろされようとしたその瞬間、一瞬にしてヨドミが燃え盛った。煌々とした朱が黒を飲み込み消えていく。
「我の社を荒らすな」
低く厳かな声がそう言った。ヨドミが燃え消えた先には、禍々しいオーラを纏った朱羅が目を閉じたまま立っていた。朱羅の持つ強大な力を肌にビリビリと感じる。恐怖を感じるわけでもないのに体が動かない。天変地異の前触れのようだ。ふと嫌な予感がして、朱羅に駆け寄ろうとしたその時。
朱羅がその場で倒れた。大きな鼻ちょうちんを膨らませて。
近寄ってみると、先ほどまでのやばい空気感はどこへやら、ぐがーぐごーといびきをかきながら眠っている。呆れたイナリと呆然とする灯が言いたいであろう事を代弁してやろう。いや、言わないと俺の気が済まない。
「最初からそれやれよ!」
「ありがとうございます、助かりました……昨日からご迷惑をおかけし続けて、本当に申し訳ないです……」
「いや、お前が謝る必要はねえ。結局俺らは何もしてねえしな。問題は朱羅のやつだろ」
全く、朱羅ってのはとんだはた迷惑な奴だ。昼になってもまだ起きねえし。俺らはそんな朱羅の傍らで灯が淹れた茶を啜り、お茶請けの羊羹をつついていた。
「朱羅様のあれは……一体何だったのでしょうか……」
「今まで見た事なかったのか」
「はい……それなりに長く朱羅様のお側に置かせてもらっていますが一度も……」
そう言って灯は不安げに朱羅を見つめた。灯の心配とは裏腹にアホ面で寝てやがる。落差に呆れていると、イナリが説明を始めた。
「おそらく一種の酔拳みたいなものやね。睡眠の睡に拳と書いて睡拳とも呼ぶべきやなぁ、朱羅はんが酔って寝とる時だけ発動するんよ」
羊羹を器用に一口大に切り分けながらつらつらとイナリが喋る。
「起きてる時も普通に力は使えるから、まあ寝てても隙がないってだけの話やね。もっとも、無意識状態で力を扱ってるから暴発の可能性も高いんやけどね」
「……暴発すると、どうなるんですか?」
「ん……まぁいろいろ起こる。まあ、大災害で済めばまだ軽い方だな。要はでけえヨドミと同じようなもんになる。話は通じるが、元が神なだけに並のヨドミより厄介だ」
さーっと灯の顔から血の気が引いていく。大方、災害単位の不始末をしでかした時の事を考えたんだろう。こいつの胃が無くなる前にと、茶を一啜りして言葉を付け加える。
「安心しろ、暴発なんて滅多にしねえよ。仮にもあいつだって神だ。ヨドミにだけ反応してんだからまあ大丈夫だろ」
そうだ。そこはまあ心配する事もないだろう。問題は……
「ようかん!」
そう羊羹……って違えよ。ん?
「主らずるいぞ!我を差し置いて羊羹を食うとは!ぬ?そもそも何故主らがここにおるのじゃ!?」
「やっと起きたかお前は!そして寝起きからうるせえな!」
この女童、傍若無人にも程がある。
とりあえず朱羅に事の顛末を説明した。しかし美味そうに羊羹を食うなこいつは。食うのに夢中で話聞いてんだか聞いてないんだか。
「んー、主らの話を聞くに、我は知らず知らずのうちに大手柄を立てていたということだな」
「手前の不始末を手前で清算しただけだろ。どこから来るんだその自信。一回詫びろ」
「しかし"よどみ"の原因が分からんのぉ。昨日より大きくて姿も異なる者が出たんじゃろ?」
「話聞け。まあでもそうだな。昨日は牛だが今日は猿だった」
そう、問題はヨドミが出た原因だ。これが分からない事には帰るわけにもいかない。またこうやって招集かかっても嫌だからな。
ヨドミは2日連続この境内で出てる。掃除はしたから社が汚れてるわけでもない。そして、あんなクソでけえヨドミが、こいつらが帰ってくるまで出てこなかった。となると……
「昨日お前らが持って帰ってきた酒が怪しい」
「ぬ!?我の"これくしょん"を疑うのか!?」
「お酒は清く神聖なものですから、そんなはずは……」
「とにかく手当たり次第思い当たるものを調べるしかねえだろ。ほらさっさと探すぞ」
斯くして、俺ら4人は酒瓶の山を調べる作業に取り掛かった。
毎話ヒイコラ言いながら書いているので、いつもお待たせしてしまっています。申し訳ありません。
もうちょっと速いペースで書けるように頑張ります……。




