2話「天真顕現!~もう新キャラですか~」
作者:みいちよ
「ふぁ〜あ……」
ここら一帯は今日も平和でのどかだ。陽気に誘われて欠伸も出る。目の端に白木蓮、どこかから聞こえてくる鳥の声。絶好の散歩日和だな。
「……のっけから大あくびするのやめてくれへんかなぁ」
ただし、隣にこの女狐さえいなければ。
「あんさん、仮にも神やろ。みっともないわぁ」
「うるせえなぁ、平和を謳歌してんだよ。なぁ、悠、商店街の和菓子屋で団子でも買っていこうぜ」
「え?どうして?ピクニックでもするの?」
「違ぇよ、手土産だよ。俺はどっかの奴らと違って礼儀がなってるからな」
「含みのある言い方やねぇ」
平日の昼下がり、商店街もいつも通りの人出だ。馴染みの和菓子屋に入ると、もうかなりいい歳の店主が優しく声をかけてきた。
「おぉ、悠くんと神主さん、久しぶりだねぇ」
「お久しぶりです」
「よぉ、じっちゃん久しぶり。団子数本、適当に見繕ってくれ。土産用だ」
「あいよー。あれ、今日はべっぴんさんも一緒だねぇ」
「どうも〜イナリと申します」
「はい初めまして~あぁ、あぁ、そういう事か……」
店主は一人でしきりに頷きながら団子を包み始めた。妙に何かに納得したような様子が不思議で、俺は悠と顔を見合わせて首を傾げる。心当たりがないか考えていれば、店の奥から店主の奥さんがお茶の注がれた小さな湯呑みを持って出てきた。
お茶を飲んで一息ついていると、店主がお待たせと声をかけてきた。礼を言って会計を済ませる。
「じっちゃん、ありがとうな」
「こちらこそ。お土産用とは別に、おまけもしておいたからね」
「ん、すまねぇな、ありがとよ」
「悠くんと奥さんと、仲良く食べるんだよ」
「……はぁ!?」
「おおきに〜。いつもうちの旦那がお世話になってます」
「……はぁ!?」
「ふふっ、久、面白かったなぁ」
「うるせぇうるせぇ、誰がこんな奴と夫婦になるかってんだ」
「いや、こんなものはこっちから願い下げなんよ?うちはあの場を穏便に済ませるためにああ振る舞っただけでなぁ」
「穏便なわけあるか!余計こじれただろうが!」
いやぁ、弁明に手こずった。イナリは悪ノリするし悠は後ろで笑いを堪えてるし。おまけに店主と奥さんはすっかりお祝いムードで否定するのも一苦労だった。思い出すだけで疲れる。はぁ。話題を変えるか。
「そういえば長橋の神ってのはどんな奴だったっけな。会ったのも随分前の事だからもう覚えてねぇ」
「うわばみってやつや、大酒呑みも大酒呑み、おまけに大喰らいときた」
「あぁ……そうだったな、はた迷惑なやつというのは覚えている」
「なんべんかうちに訪ねてきた事もあったけど、その度に御神酒も神饌もありったけを寄越せ言いはるもんやからうちの狐が困っとったわ」
「……なあ、ところでその狐って名前、どうにかなんねえのか」
「なんでそんなこと言いはるの、かわいい名前やろ?」
「いやどう考えてもおかしいだろ。"狐"と書いて"こん"と読むってなんだよ。安直だし、おまえの主張が激しすぎるだろうが」
キラキラした名前に言及してる間に長橋神社に着いた。手入れのあまり行きとどいていない古い社が現れる。晴天の中、陽が差しているというのに、辺り一帯は常闇のような黒い霧のようなものが立ち込めていた。
「あんさん、あれ」
「ん、ヨドミか」
近付くと霧状だった闇が集まって雄牛の形を取り始めた。
ヨドミは人間の負の感情や信仰の揺らぎで発生する真っ黒な奴だ。あまりこいつらが溜まりすぎると大事件、ひいては大災を引き起こしかねない。ヨドミの排除も神の仕事のうちだ。
「さっさとやっちまうか」
右腕を天に掲げ、その周りに空気の流れを作り纏う。そのまま前方に向かって右腕を投げ出して風の渦を生み出すと、ヨドミはたちまち雲散して消え去った。
「あんさん……もう少し悠はんに手本見せようとか考えはらへんの」
「知らん、手本にもならねぇだろこんな弱っちいの」
ぱんぱんと手をはたいて、改めて社を見る。社の少し荒れた様子を見かねて、悠が言う。
「それにしても随分と荒れてるね」
「そうだな。ここの神はどこに行ったんだ?……まあいい、境内がきたねえからヨドミも沸くってもんだよ掃除でもしときゃヨドミも出ねぇだろうよ」
「あんさんもうちが来た時に掃除さぼっとったやろ」
「うるせぇ、さっさと掃除するからあっちにある竹ぼうき持ってこい」
三人で分担して社の周りを掃除する。ここまで来て結局掃き掃除かよと悪態をつきたくなった刹那、境内に幼い怒号が響きわたった。
「おい!主らは何者だ!」
思わず振り向くと朱色の髪を二つ結いにした女の子がこちらを睨みつけて立っていた。悠より年下に見える少女が、凄い剣幕で詰め寄ってくる。子供のそれなので全く怖くないが。
「我の社にずけずけと入って……ぬ?人間ではないのがおるな、もしや主ら、我と同じ神か?」
「あーそうだよ、俺は隣町の御久上神社で神様やってるもんだ。こいつは清風稲荷のイナリ。そんであっちにいるのは俺の所の悠、なんだ、最近長橋神社の様子がおかしいってんで、ちょっと来てみたんだよ」
「……おぉ?おお、そうであったか!それはとんだ失礼を働いたな!我は朱羅、長橋の主じゃ。しかし、何故主らがここの掃除を?」
「あんさんの社、ヨドミがすごい事になってはったんよ?せやからうちらがヨドミ予防に掃除しとったところに朱羅はんが来はったっていうわけや、こんな状態で今までどうしてはったん?」
「ちと所用でな、しばらく留守にしていたのじゃ。しかし主らには申し訳ない事をしてしまったようじゃな……ん?おぉ、ちょうど灯も着いたようじゃの」
朱羅は仁王立ちのまま振り返り、鳥居の向こうを見て言った。つられて視線をそちらに向けると、気の弱そうな青年が、重そうな荷物を持ちながらよたよたと歩いてくるのが見えた。
「もう、待ってくださいよ朱羅さ〜ん」
その青年と目が合う。その瞬間、そいつの顔が一気に青ざめ、脱兎のごとくこちらに向かってきた。
「わーーーーーっ!!御久上の真神様!!それに清風の稲荷様まで!!すみません!!朱羅様が何かご無礼をしませんでしたか!?というか境内のお掃除を他所の神様二柱にさせるとは私は何という不敬を、償うにも償いきれない、腹を切って詫びます!!」
「いや、落ち着け落ち着け、それと腹は切るな」
「あ、でも参拝客かもしれへんのに怒鳴らんといてって言っといておくれやす」
「……で、おまえらどこに行ってたんだ」
走ってきた上に一息で言葉を発し続けた灯は、息を整えながら事の経緯を説明しだした。
「朱羅様のご提案でいろんな酒蔵や酒屋を巡ってきまして……あんな幼い姿をしていますが、かなり長く生きてる神様でして……お酒も好きで……」
「うわ、持ってたの全部酒かよ」
「はい……」
「しゃあねぇ、持ってやるから貸せ」
「ありがとうございます……申し遅れました、私は朱羅様のところで神社を守っています、灯と申します」
「おう、俺は御久上神社で神様やってる久だ、よろしくな……って、あいつは、朱羅はどこ行った」
「朱羅はんなら社の方に歩いて行かはったけどなぁ」
「久ーーーー!!」
社の方から悠の呼ぶ声が聞こえる。荷物を持ちつつ灯、イナリと共に急いで駆け寄ると、慌てた様子の悠がいた。
「どうした!?」
「だ、団子が、一本もない!」
「はぁ!?なんでだよ」
「わ、わかんない、しばらく見てないうちに無くなってて……」
「んー?主らが喋ってる間に全部食ってしまったわい」
口の周りに証拠を残した朱羅が、我の為に持ってきたのであろう?と満足気に言い放つのを見届けると俺の横にいた灯は顔面蒼白のまま、へなへなとその場に倒れ込んでしまうのであった。
こんにちは、または初めまして、みいちよと申します。
「ハートフルボイス、レターレイン」の読者さんは、もしかしたら私の事を知っているかもしれません。
そういったご縁もある中、今回は水瀬さんの悪魔的采配によって、リレー小説という形で合作をさせていただく運びとなりました。
2話更新まで大変長くお待たせしてしまった事、深くお詫び申し上げます。




